兵庫県尼崎市の杭瀬。
街角にひときわ目立つ居酒屋があります。
名前は「虎大朗」。
店主は根っからの阪神ファン・島本一樹さん(35)です。
居酒屋ですが、お店の一番人気は、中学生以下限定で販売している「スマイル弁当」、200円です。
「子どもたちにお腹いっぱいになって欲しい」との想いで販売しています。
2021年の夏休み、島本さんは新たな試みを始めました。
【虎大朗 島本一樹さん】
「7月26日月曜から『虎小屋』をはじめます。子供たちのたまり場、居場所づくりというかたちでやっていければなと」
始めるのは寺子屋ならぬ“虎子屋”。
店の空き時間を使って子どもたちが集まり、勉強できる場所をつくります。
バックアップするのは高校野球部の同級生で小学校教師の富さん(34)。
そして、富さんの大先輩で、指導歴50年以上の元教師、立花さん(76)の2人です。
【島本さん】
「今でもスマイル弁当っていう子どもの弁当をやってて、きょうはめちゃくちゃ暇でしたけど、やれば毎回来るような子も最近は見えてくるから、スマイル弁当を食べてないとき、ちゃんと食べれてんねんやろか?とか、聞かれへんけどそういうこと思ってしまうので。『子ども食堂』が今は(コロナで)できないような状況やから、まず第一歩としては居場所づくり始めたいなと」
島本さんの想いに共感し、2人は協力を快諾しました。
【小学校教師 富佑介さん】
「親が忙しくて、チンしたごはん食べたりとか、習い事にも行ってるので、友達と放課後に遊んだりとか、一緒に集うような場所がなくなってきているとは思う」
【島本さん】
「よろしくお願いします」
「こんにちは」
やってきたのは店の常連、あさひ君とやまと君の兄弟です。
最初は勉強していた2人ですが、だんだん集中が切れてきてしまいます。
見かねた店主・島本さん、あることを思いつきました。
冷蔵庫から取り出したのは小さなサメ。
【島本さん】
「魚は水の中おるやろ、息せなあかんやん、ここ(エラ)で息するねん」
【あさひ君】
「心臓ってどこにあるん?」
サメをさばく島本さん。
「これが肝臓、そしてこれが心臓、小さいやろ」
料理人として「いきもの」の授業。
2人も興味津々です。
あっという間に時間が経ち、お母さんが迎えに来ました。
ーーQ:今お子さんは?
【兄弟のお母さん】
「4人です。男ばかり4人です。すごく助かります。上の2人が手がつけれない。1時間、2時間でも違う環境にいると全然違うので」
【島本さん】
「あっという間の3時間でしたね。子供が楽しんでくれてるのを見たら、こっちも元気でてくるなと思って」
8月になりました。
虎子屋の噂は地域で広まり、やって来る子どもが増えてきました。
【立花さん】
「少し入れて、すぐ混ぜる。」
きょうは洗濯のりでスライムを作る実験です。
真夏の町に出て、身近な場所での昆虫採取もします。
【島本さん】
「子供たちが制限されることが多くて、ちょっとでも外に出る時間や、友達と会う時間がつくれたりする場所になれたのはよかった」
2学期が始まりました。
新型コロナウイルスの第5波はピークを迎え、兵庫県内の学校ではクラスターが多発。
登校を自粛する子どもも増えていました。
土曜日だけになった虎小屋。
学校が再開して2週間以上が過ぎたこの日、
小学2年生のゆきなちゃんと中学2年生の姉・まゆちゃんがやってきました。
【立花さん】
「学校少しは行ってるの?」
【ゆきなちゃん】
「行ってない」
【立花さん】
「中学校も?リモート授業もないの?」
【まゆちゃん】
「うん」
学校に行かず、家をほとんど出ていないという2人。
両親に重症化リスクが高いとされる基礎疾患があるため、ワクチン接種を終えるまで登校を控え、ずっと自宅で過ごしていたのです。
そんななか、母親が少人数で勉強ができる虎子屋を知り、行くことを薦めました。
2人にとっては久々の対面授業。
分からないところがあれば、すぐに先生たちが教えてくれます。
2時間みっちり勉強したあとは、クレープ作りに挑戦。
最初は緊張していた2人でしたが、どんどん笑みがこぼれます。
【立花さん】
「きょうの感想は?」
【ゆきなちゃん】
「みんなでクレープ作りとおもちゃで遊べてよかった」
【まゆちゃん】
「勉強に集中した後、みんなで遊べてよかった」
【立花さん】
「やっぱり、学校行けない代わりに、うちみたいな場所があって、多少でも子供らの勉強とか居場所作りになったのかなとは思いますね」
2人はその後、虎子屋に毎週来るようになりました。
9月29日、登校する子供たちの中に2人の姿がありました。
両親のワクチン接種が終わり、2カ月ぶりの学校です。
学校に行くという当たり前の日々が特別になっている子どもたちもいます。
【島本さん】
「(コロナの)一番初めに被害者になるのは小さい子ども。その子どもらを守ってあげられるのは、大人しかおらへんと思う。ちょっとでも子どもらのスマイル、笑顔になれる活動ができれば」
(2021年10月7日放送)