■壁の穴から“クマの手”!?ユニークなカフェ
大阪・中央区に9月にオープンしたこちらのお店。
名前は「クマの手カフェ」。
開店から2週間ほどで、若者、親子、たくさんの人でにぎわっています。
この店、外から見えるのはクマの手が出てくる穴だけ…。
中ではどんな人が働いているのでしょうか。
■過去の仕事で少しずつ…傷ついて
オープニングスタッフの一人、江沢恵さん。
てきぱきと働く、クマの手カフェのリーダー的存在です。
【来店客】
「ありがとう、ばいばーい」
【江沢さん】
「握手は?って言ってたのに、拍手してた。かわいい」
よく笑い、明るく店内を和ませながらお店をひっぱる江沢さんですが…。
もともとは関東の神社で神主として働いていました。
しかし、働き出しておよそ4年後、体調を崩して退職しました。
【江沢さん】
「やりがいもありましたけど、小さなストレスというか。やっぱり対処しきれない小さなストレスはあったと思いますね。やっぱり縦社会の強い、男性社会なのでとっても気を使うし。(女性は)圧倒的に少数でかつ、たぶん言われやすい性格だったので」
――Q:結構きついことを言われたりもした?
【江沢さん】
「うん」
やりがいのある日々を過ごしながらも、自分がマイノリティとなるその環境の中で、少しずつ少しずつ心に傷がたまっていきました。
【江沢さん】
「気にかけて下さる方はいたし、大事にしてくださる方もいたし、だけど心ないことを言う人もいたし。もちろん実務的に足を引っ張る人もいたし、あることないこと、ないことないこと?言われた時もあったし」
働き始めて一年を過ぎたころ、過呼吸を起こし、顔がこわばるように…。
医師に「適応障害」と診断されました。
症状が出る頻度はだんだんと高くなり、辞める直前は毎朝起き上がれないほどになっていました。
怖くて人と接することができなくなっていた江沢さん。
それでも「社会に出たい」という思いはあるなかで、退職後、心理カウンセラーになるための勉強を始めました。
【メンタルサポート総合学園・学園長 平村雄一郎さん】
「神職を辞めてから学校にきた最初のころは、少し深いところを喋るとすぐ泣いてたんですよ。なんでも泣くやん・・・みたいな。言葉を発せられないという、それぐらい痛んでいたというかボロボロになっていたので、うち(学校)においでって。時間はかかると思うけどゆっくりでいいよねって。2020年くらいから随分と自信がついて」
【学校を運営する平村雄一郎さん】
「メンタル教育の場、そして様々な事情を抱えた心の繊細な人たちが安心して働ける場所を作ろうと考え、中国で話題になっていたスタイルを取り入れて、このカフェを作りました」
【メンタルサポート総合学園・学園長 平村雄一郎さん】
「顔を出さずにみんな社会貢献はしたいんですよ。自分が提供したもので子供が笑顔になったり、うわ~って感動してもらったりっていうのは、生きる上ですごく大切な部分だと思います、そういうのって実は心で分かりながらなかなかできない。そういう場を作りたいと」
江沢さん、今では自分から積極的にお客さんに声を掛けることもあります。
【江沢さん】
「もし良かったら(ドリンクを)受け取るところとか、撮りましょうか?」
傷ついた自分と向き合い、立ち直ってきたクマの手カフェのスタッフ。
次の目標は同じ苦しみを持つ人たちを支えることです。
■“人が怖い”けど社会に…新人バイトの大学生
オープンと同時にアルバイトを募集することにしました。
条件は…、心が繊細な人たちです。
この日面接にやってきたのは大学4年生のゆきさん。
幼少期から自分の顔がコンプレックスで、人と対面するとうまくしゃべることができないといいます。
クマの手カフェの面接は、普通とはすこし違う「カウンセリング形式」です。
【クマの手カフェ店長・やすこさん】
「(顔がコンプレックスとなった)きっかけとかはありますか?」
【ゆきさん】
「結構いろいろあって、中学の時は顔でいじめられたりとか。小学校の時は母の姑?」
【クマの手カフェ店長・やすこさん】
「母の姑っていうとおばあちゃん?」
【ゆきさん】
「そうです。おばあちゃんから結構顔について言われることがあって、そういうのを小さい時から言われていたのが積み重なって、顔を見られるのが嫌というのがあって」
じっくりと、その人が経験したこと、感じていること、生きづらさを一緒に考えていきます
【クマの手カフェ店長・やすこさん】
「そっかそっか…、いろんな思いしてきたね。自分の気持ちを少し話せたり、吐き出せる場があるっていうのはどうですか?」
【ゆきさん】
「うれしい、ちゃんと聞いてくれてるって思って安心するし、さっきの話でちょっと泣きそうになって、吐き出せたっていうのはあります」
【クマの手カフェ店長・やすこさん】
「その人の今の生きづらさを教えてもらう、出してもらう。あそこ(クマの手カフェ)に行ってよかった、あそこで私は成長できた、社会に出てくキッカケになったと思ってもらえるようにならないと意味がないので…と思っています」
■つながる“クマの手” 穴の中では…
数日後…。
【クマの手カフェ店長・やすこさん】
「はーい。ゆきちゃん登場」
【ゆきさん】
「おはようございます」
ゆきさんを含め、5人(9月20日時点)がクマの手カフェの一員となっていました。
ゆきさんはこの日がアルバイト2日目です。
【ゆきさん】
「きのう夢にクマでてきました」
【江沢さん】
「重症やん」
【ゆきさん】
「クマの手やりすぎて」
【江沢さん】
「楽しい夢やった?」
【ゆきさん】
「なんかさとちゃん(新人アルバイト)が(商品)落としちゃったっていうのを聞いてたんですよ、それで私も(商品)落とすかもみたいな」
【江沢さん】
「不安な夢やった?」
【ゆきさん】
「そうです、落とす夢を」
【江沢さん】
「そんなん落としてもいいよ。誰でもやりかねないというかね、だからあまり気にする必要はないんよ」
ミスをしても、お互い助け合えば大丈夫。
ゆきさん、クマの手でたくさんの商品をしっかりと届けます。
【先輩スタッフ】
「握手できます?」
【ゆきさん】
「え?握手?」
【来店客】
「めっちゃかわいい。モフモフや。ありがとうございます」
――Q:握手どうでした?
【ゆきさん】
「めっちゃ伝わります、結構ぎゅって握られてる感じが…」
いろんな理由から、社会の中で人と接することが苦手な人たちがいます。
【来店客】
「どうもありがとう!バイバーイ、がんばってね」
【先輩スタッフ】
「頑張ってねって聞こえた?なんかうれしいね」
でもここでなら、わかり合える人たちと頑張れる。
外から見えない穴の中にはそんな気持ちがつまっています。
(2021年9月23日放送)