「本日付で、五代目山健組が、こちらに復帰しました。組長の役職は『幹部』」。
9月16日、こんな情報が駆け巡った。
山口組が傘下組織に出した口頭での通達だという。
■山健組は「神戸山口組の中核」
「山健組」は、2015年8月に山口組を離脱してできた「神戸山口組」の中核組織であり、井上邦雄組長(73)の出身母体でもある。
故に数多くの抗争事件に関わってきた。
現在、山健組の組長は、井上組長から中田浩司組長(62)に引き継がれている。
中田組長は、山口組系組員を銃撃した罪で起訴され、現在も勾留中だ。
【山健組・中田浩司組長(62)】
■喫茶店での「決起集会」
山健組の転機は、去年の夏だった。
捜査関係者らによると、山健組はこの頃に分裂騒動に発展。
中田組長一派は、神戸山口組から離脱し独立組織となる意向を示した。
一方、神戸山口組への残留を訴える幹部もいた。
去年7月、兵庫県内の喫茶店に山健組傘下組織の組長が集結した。
記者は店の1階に陣取り、サンドイッチを頬張りながら2階からかすかに聞こえてくる会合の声に耳を傾けた。
1階には、組関係者らしき屈強な男たちが、時に談笑しながら、時に2階を真顔で見上げながら、結論を待っていた。
ここで神戸残留派が途中退席。
この場はそのまま、独立組織となった山健組の「決起集会」に変わった。
【決起集会を終えた山健組幹部ら(去年7月・兵庫県内)】
山健組の分裂は決定的となり、山健組は神戸残留派を、神戸山口組は山健組を、それぞれ処分したという。
その後、抗争相手だった山口組は、独立組織となった山健組に接近。
今年8月下旬には山陰地方で幹部同士が会談し、山口組への合流が話し合われたとみられる。
■「抗争相手」への合流
そして迎えた9月16日。
複数の関係者によると、兵庫県内のレストランに山健組傘下組織の組長らが集まり、山口組への合流を正式決定。
迎える側の山口組は「幹部」というポストを用意して、この決定を傘下組織に知らせたという。
山健組は2019年、本部事務所の目の前で、組員2人が山口組系組員に射殺されている。
このため今回の合流を疑問視する声も根強かった。
【会合が行われたレストラン(9月16日・兵庫県内)】
■警察は山健組分裂を「静観」
兵庫県警は一連の動きをどう見てきたか。
実は現在も、公式見解としては山健組を「神戸山口組の傘下組織」と定義したままだ。
理由は、神戸山口組が「特定抗争指定」を受けていることにある。
特定抗争指定は、暴力団にとって苦しいものだ。
指定区域内の事務所は使えないし、5人以上でも集まれない。
山健組の組織力・結束力は有名であり、捜査関係者は「偽装分裂」の疑いがあると話していた。
【山健組事務所】
独立組織になったと装って、特定抗争指定の規制を免れようとしているのではないか、という疑念だ。
仮に独立組織と正式認定した場合、特定抗争指定から外れ、事務所使用解禁の可能性すら出てくる。
兵庫県警は去年秋頃から、報道機関への発表で山健組を「神戸山口組傘下組織」と言わなくなった。
それ以上は明確な位置づけに言及せず、あえて「宙ぶらりん」の状態にしてきた。
【兵庫県警察本部】
■「合流」で抗争どうなる 警戒強める警察
今回の山健組の動きを受け、兵庫県警は情報を詳しく精査した上で、山健組を「山口組傘下組織」として再定義するか検討することになる。
捜査関係者は、「神戸山口組傘下」からそのまま「山口組傘下」への変更となれば、事務所使用禁止などの規制も引き続き切れ目なく行えるのではないか、と話す。
一方で、神戸山口組にとっては、中核だった組織が対立組織に合流するのは大きな痛手となり、抗争の行方に大きく影響するのは必至だ。
【山口組・篠田建市組長(79)と神戸山口組・井上邦雄組長(73)】
山口組と神戸山口組の抗争は、このまま落としどころを探って収束に向かうのか、それとも新たな火種となって激しさを増すのか。
兵庫県警は、ますます警戒を強める方針だ。