滋賀県近江八幡市の小さなスイーツ工房でパティシエを務める14歳の少女。
家族以外の人と会話ができず、人前で体が硬直することもある障害を抱えています。
そんな彼女が、東京パラリンピックの「聖火ランナー」に。
無事、聖火をつなぐことはできるのか、挑戦の日々を追いました。
■「場面緘黙症」の14歳の少女
滋賀県近江八幡市にある小さなスイーツショップ「みぃちゃんのお菓子工房」
店頭には、旬のフルーツを使った色とりどりのスイーツが並びます。
みぃちゃんこと杉之原(すぎのはら)みずきさん、14歳。
小さなパティシエです。
去年、お母さんの千里(ちさと)さんと一緒に、このお店を始めました。
【みぃちゃんの母 杉之原千里さん】
「任せっぱなしです。最近は。私は楽しています。前は3日ほど前から仕込みをしてたんですけど、今は前日からとか。昨日も昼寝したりしているし」
パティシエとして努力を続けるみぃちゃんは、場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)という障害があると診断されています。
不安障害の一つで、安心できない場所では緊張などから体が動かせなくなったり、話せなくなったりします。
有効な治療法は、まだありません。
【みぃちゃんのお母さん 杉之原千里さん】
「マニュアルがないので。同じ場面緘黙症でもその子その子によって症状も違いますし、同じようにもいかないし、そこがほんまに難しいところですね」
「みずきの扱いは正解がなくて今でも。そこはずっと悩み続けているところで、多分見た目には分からないと思います」
人によって症状は様々。
みぃちゃんの場合、会話ができるのは家族だけです。
千里さんは、みぃちゃんに少しでも社会とのつながりを持ってもらおうと、小学生の時にスマートフォンを渡しました。
すると、手作りのスイーツを SNSに投稿し、自分の気持ちを表現したのです。
(SNSでのやりとり)
【フォロワー】「みーちゃんのケーキはホントに魅力的」
【みぃちゃん】「そう言っていただけてすごく嬉しいです」
【フォロワー】「テレビ見ていました!応援させてください!」
【みぃちゃん】「これからも頑張ります!」
これがきっかけにお菓子工房を開店。
お客さんに少しずつ慣れてもらおうと、キッチンとお客さんの間は、壁ではなく、すりガラスにしました。
視線を感じると固まってしまうこともありますが、千里さんはみぃちゃんの変化を感じていました。
【みぃちゃんの母 杉之原千里さん】
「回数踏むことで、すりガラス越しの中でも動けるようになっているし、死角の壁の部分からどんどんこっち出てこれるようになった。みずきの場合は、ああいうお店やって自分がやりたいことやって、環境を作ってあげると、それだけでよくなっていくのを感じ取っている。心がどれだけ元気になるか、それが治療になってる感じですね」
■パラリンピックの聖火リレーに挑戦
みぃちゃんのために安心できる環境を作りたい。
そんな思いから千里さんは東京パラリンピックの聖火リレーに応募することにしました。
【みぃちゃんの母 杉之原千里さん】
「パラリンピックとかオリンピックのことを全然この子知らんかったので、どんなものかも知らないし、走ることだけのキーワードがこの子に入っちゃったんで普段から走るなんて人前でしてないから、絶対いやや絶対いややって言ってました」
最初は嫌がっていたみぃちゃん。
でも、双子のお兄ちゃんの一樹くんからパラリンピックのすごさを聞かされ、「走る」決意をしたといいます。
一樹くんはみぃちゃんと同じ小学校に通い、そばで見守り続けてきました。
聖火リレーでもみぃちゃんに伴走して支えます。
【みぃちゃんお母 杉之原千里さん】
「この子(みぃちゃん)の緩和度というか、心の緩み方は絶対、一樹の方がいいので」
【双子の兄 一樹くん】
「みずきはたぶん大丈夫やと思う、この人はたぶんできる」
障害があるからできないかもしれない。
それでも挑戦を決めたみぃちゃんの姿に、千里さんは社会の常識にあてはめないことの大切さを感じました。
【みぃちゃんの母 杉之原千里さん】
「あの子からすると、それ(場面緘黙症)が当たり前でずっとそういう自分だったので、そこをなんかマイナス評価するのって、なんか間違っているのかなと。私らの目線が違うのかなと、すごくあの子見て思う」
聖火リレーの練習は、一樹くんの野球のバットをトーチに見立てて行いました。
■本番当日 双子の兄と一緒に…見せた笑顔
8月24日。
新型コロナウイルスの影響で公道でのリレーは中止に。
その代わり、大きな会場でランナーが聖火をつなぐセレモニーが行われることになりました。
【双子の兄 一樹くん】
「ちょっと緊張がある」
【みぃちゃんの母 杉之原千里さん】
「(みぃちゃんも)さすがに昨日ちょっとドキドキするみたいなこと言ってたな」
会場に入る前に、みぃちゃんと一樹くんは千里さんと離れ離れになりました。
すると、千里さんの携帯電話には、みぃちゃんからメッセージが次々と届きました。
(携帯電話でのやりとり)
【みぃちゃん】「もう(会場に)つく」
【みぃちゃんの母 杉之原千里さん】「最高やろ?」
【みぃちゃん】「したくない」「帰りたい」
それでもセレモニーは進み、みぃちゃんと一樹くんの順番がやってきました。
会場に現れたみぃちゃん。
聖火を受け取ります。
多くの人が見つめる中、一樹くんと一緒に、止まることなく「聖火」をつなぎました。
みぃちゃんの表情が、ふと和らぐ瞬間がありました。
【みぃちゃんの母 杉之原千里さん】
「笑顔よかったでしょ。人前であんな表情するのは私も久しぶり。ずっと同じ表情していたんで。何かの変わる芽が出てきたんじゃないかなっていう気はしますね」
不安もありました。
それでも、あきらめずにやりぬきました。
この夏の成長です。
(カンテレ「報道ランナー」8月30日放送)