■卸業者の今、長引く“要請”でも協力金なし
まん延等防止重点措置期間中の7月9日午前8時。
大阪ミナミの黒門市場にある鮮魚店「深廣(ふかひろ)」では店員が仕入れたばかりの魚を次々とさばいていました。
飲食店への配達準備でこの日も大忙し!…の様に見えますが
【深廣 深井崇光社長】
「(本来なら)配達の箱が山積みになるはずなのですが…」
「ここは大阪南部でめちゃくちゃ美味しい海鮮居酒屋さん。きょうホタテのオーダーが来てて」
ーーQ:お店側からの注文量は?
【深井社長】
「めちゃくちゃ減っています。でもまだ(まん延防止措置で)酒が解除されてちょっと開いている。(緊急事態宣言で)酒が解除されていない時はもっと少ない」
「これがホンマは満タンになっていた」
コロナの影響が出始めたころに納車された保冷車のどこにも深廣の文字はありません。
店名を入れる経費も削っているのです。
深井社長、明るい表情を崩しませんが、配達に同行すると、飲食店に納入する業者の厳しい現実が浮かび上がってきました。
【深廣 深井崇光社長】
「阪急ホテルです。今日は(注文は)無いです。ちょっと近道なので通っているんですけど、いつもならこの先の納品口で下ろすんですけど、(中の飲食店が)閉めているので今日は前通るだけです。ほんまはここに納入業者が並ぶんですけど、今は誰も並んでいない」
時短営業をしている寿司店への配達は…
【寿司店の従業員】
「(注文したのは)マグロだけです。以前でしたら活けものとか何倍も取っていたんですけど、コロナ禍になってから、無駄な仕入れは出来ないですよね、生ものなんでね」
【深井社長】
「食材全般の納入業者はほとんどしんどい思いしていますね。でも、そこに対する補助は何もないので、ボディーブローのようにみんな貯金を崩していって耐えている状態。もともと食品業界がそんなに粗利をもらえるような業界じゃないので、薄利多売の業界ですから。何十軒も閉められると持たない」
コロナ感染拡大前は、トラックを何台も使って配達したうえに、昼になると「おかわり」なんてこともあったそうです。
でも、今は飲食店にあるような補助が無い中で耐え忍ばなければならない、大ピンチが続いています。
そんな中でもコツコツ、コツコツと…。
■あの手この手で何とか前へ
【ラーメン店の店長】
「ありがとうございまーす」
鯛を使ったラーメンを一緒に開発したり…。
【深井社長】
「例のやつ。これが噂の…」
【イタリア料理店の店長】
「いいですね」
カキのメニューを素敵なイタリアンのお店に提案したりと、あの手この手を使って何とか前に進もうとしているのです。
新型コロナの感染拡大による、飲食店への時短営業要請の余波。
飲食店に繋がる業者に例外なく襲い掛かっています。
夜明け前の大阪市中央卸売市場。
【仲買人】
「ひどいもんやね。これもうほんまに誰もおれへんもんね。ほんまやったらごった返してるねんけど。ほんまにひどい」
買い付けに来る業者や仲買人でごった返すはずの時間帯。
【利洲 上田晋右副社長】
「飲食店に納品するような3キロの大きなカツオが売れ残ってしまったりとか。昔は取り合いやったんですよ」
【深井社長】
「(本来なら)こんなゆっくり喋ってられないです」
高級魚キンキやウニを得意にする仲買人の店でも…。
【伸光商事 森脇彰統括】
「普段“泳ぎもん”並んでて。魚を泳がしてるんですけど、それも無いので」
「かなりキツイですね。平均取ったら例年の2割から3割しか稼働していない」
【深井社長】
「ご覧の通り全然買えませんでした。もっと大きいトラックが来てそこに積み込んで、何台もピストンで。ピークの時は。売る相手がいないとこうなります」
業界全体を覆う重い空気。
そこで深井社長が目を付けたのが…
■コロナでブームに!釣り客を取り込みたい
コロナの感染拡大でやってきた釣りブーム。
ここは、多くの家族連れで賑わう鳴尾浜臨海公園海づり広場です。
まさに爆釣!
小さな釣り人の横では…
【釣り上げた男の子の母親】
「うわ・・・うわ・・・」
「あ・・・」
こちらは、記念すべき人生初フィッシュ!
【初めて魚を釣った男の子の父親】
「釣れた。初めて。そのままにしといてや、写真撮るわ」
ーーQ:魚が釣れてどう?
【初めて魚を釣った男の子】
「食べたい」
食べる気マンマンの男の子。
しかし…
【男の子の父親】
「僕は持って帰ってもいいけど。嫁が料理してくれるんやったら…」
【男の子の母親】
「どっかで魚をさばいてくれるんやったらいいけど…。魚って切り身しか(料理)したことないので」
■釣り具メーカーとのコラボ企画
釣った魚をキレイにさばくのをビジネスにしちゃおう!と、魚をさばくプロ・深井社長がタッグを組んだのが、「つり具のブンブン」の運営会社、(株)ヨコハマ。
【ヨコハマ 中田友恵さん】
「釣った資源をどういうふうに食べていくとか、海を守っていこうというテーマがある中で釣具屋さんとして釣りの楽しさを広めていくときに絶対に向き合っていかないといけない問題だと感じていて」
【深井社長】
「どういう化学反応起こるかわからないけどやってみるのは意味あるかなと」
「釣り、さばきってまんまやしな、なんかないかな」
【ヨコハマ 中田友恵さん】
「例えばネーミングを募集するキャンペーンを打って…」
【深井社長】
「かしこ!」
話はとんとん拍子に進み、ポスターが完成!
【深井社長】
「どうですか」
深井社長、さっそく「ぶんぶん」の店舗に貼りに行きました。
少しでも多くの人に見てもらいたい…というどん欲な思いから…
【ヨコハマ 中田友恵さん】
「免税のポスターの横だと思いますよ」
【深井社長】
「免税はちょっとこっちにずらしてもらって…」
【ヨコハマ 中田友恵さん】
「ずらさないといけないんですか!?」
なんと外国人観光客向けのポスターを押しのけて、新ビジネスがスタートしました。
それから1週間。
4度目の緊急事態宣言真っただ中に深廣にもポスターが届きました。
【深井社長】
「まん延防止措置の時はまだ4割近くには戻っていたんです。そこからさらに(通常の)2割5分まで落ちているので。本業の卸売業は利益ってほとんどない業態で薄利多売なので、鮎1匹売っても10円、20円しか儲からない世界。1匹さばかせてもらって300円頂戴できるというのは僕らの業界としては魅力的かなと」
あらゆる手を尽くして何とか生き残る。
卸売業者たちの現状です。
(2021年8月26日放送)