もし自分の「個性」を隠して生活しないといけないとしたら…
学生時代から性同一性障害に悩み続けたシンガーソングライターが今、若者たちにメッセージを送り続けています
関西を中心に活動をしているシンガーソングライターの悠以（ゆい）さん（31）
その悠以さんのパフォーマンスの真骨頂は…
瞬時に切り替わる2つの声です。
【悠以さん】
「男性として生まれて、当時は性同一性障害という言葉も知らなかったので、人前で立つということを諦めざるを得ないと思ってたんですね」
悠以さんは、生まれた時の体の性別は男性、こころは女性の性同一性障害です。
歌手活動とともに、悠以さんが精力的に取り組んでいるのが学校での講演会です。
【悠以さん】
「性同一性障害は心と体の性別が不一致の状態なので心でどれだけ女性だと思っていても体は勝手に成長するんですね」
自分の経験を隠さず伝えています。
【悠以さん】
「高校入学間近、母にカミングアウトしました。母は認めてくれました。高校に女性として入学したいとお願いしました。母は認めてくれませんでした。なにをもってダメといったかというといじめがこわいと」
「朝起きて顔を洗う瞬間から絶望なんですよ。自分の顔が男、ひげが生えてる、これが本当に嫌でした、その髭を抜いたり剃ったりしたんですけど血が出て膿んじゃったりして…」
小学生の時に違和感を持ち、中学・高校では隠してた悠以さん。
5年前から講演会を続ける中で感じていることがあります。
【悠以さん】
「思ってる以上に当事者の子がいますね、中には講演会が終わった後に先生を通じて、『実はゆいさんと話したいと言ってる子がいるんですけどちょっとだけいいですか』と言って頂いて今の気持ちを吐露する学生がいたりするんで…。学校も急ピッチでＬＧＢＴのこと理解しようってしてくれてるんですけどまだ追い付いてない、間に合ってない部分はあるのかなと思うんですけど」
この日、悠以さんが講演を行った茨木西高校も、過去にトランスジェンダーの生徒が入学した際、いくつかの課題に直面しました。
【茨城西高校・覚前潔校長】
「私は男性ですとか、あなたは女性ですと言うことをいちいち宣言しませんよね。だから性に違和感を感じている子だけが、なぜカミングアウトしなければならない？っていう問題に行き着くと思うんですが、高校の場合はどうしてもカミングアウトしてもらわないと、その更衣室の件であったりとか、修学旅行の件であったりとか、そういったところでいろいろ問題が出てくる場面があるんですね」
当時本人の同意を得て、仲良くなったグループに打ち明けていくという対応をしましたが…
【覚前潔校長】
「最初のファーストステップでうまくいかなかったんですね。具体的に言うと、受け入れてくれた子だけではなかった」
打ち明けたことでかえって当事者の生徒にとって学校生活はつらくなってしまったといいます。
当時学校は、性的マイノリティの人達の存在を伝えきれていなかったと考え、日頃の教育の重要性を痛感することに。
その経験から今では講演会や、教職員の研修に加え、制服の選択肢の幅も広げました。
【茨木西高校の教員は…】
「制服１つについても別にスカートくらいはけるんじゃないかって気持ちが大きかったんですけど研修を受けることでスカート自体を拒否してるって子もたくさんいると思うのでその気持ちをちょっとづつ理解しないといけないなって。様々なマイノリティ多様性を受け入れる生徒に育ってくれればなぁと言う思いでやってます。」
当事者が安心して打ち明けられ、周囲も自然と受け入れられる環境を目指して模索を続けています。
悠以さんがカミングアウトできたのは高校の卒業式でした。
友人たちは受け入れ、その日が悠以さんが自分らしさを隠さずに夢に向かっていく日になりました。
そして母親が「悠介」という名前から「悠以」という名前に変えてくれました。
【悠以さん】
「自分らしい名前を手に入れるのに１８年遅れちゃったんですね。ただスタートラインに立つだけで時間が掛かる人もいれば、スタートラインに立つだけで人一倍苦労する精神的に辛い思いをする人もいるかもしれないですし」
「私は、１日でも早くみなさんが同じタイミングでスタートラインに立てる、そんな世の中になって欲しいなっていうふうに思っています」
“自分らしく生きる姿を見てみんなが元気になってくれたら”と思い悠以さんは歌い続けています。
【講演を聞いた生徒は…】
「性別の多様性について広く考えて認識して寄り添おうという気持ちがより強くなりました」
「世の中にはいろんな意見があると思うしみんなでわかちあえていけるようになりたいと思う」
【悠以さん】
「自分らしく生きれる社会って一言で言ってしまえば簡単なんですけど、自分で道を切り開ける、そのスタートラインに立てるっていうことがすごく大事だなって思います」
（２０２１年８月４日放送）
