「ヤングケアラー」の苦悩…障害ある家族を10年以上ケアも「人に頼るという発想がそもそもなかった」 まともに就職活動もできない現実 2021年06月14日
今、家族の介護や世話を日常的に担う子どもをどう支えるかが、問題になっています。
こうした子どもは「ヤングケアラー」と呼ばれていますが、経験者を取材すると、誰にも相談できず孤立する現実が浮き彫りになりました。
■「家族だから当たり前」知的障害のある弟と生きる21歳の女性…相談することへの抵抗
大阪に住む清﨑鈴乃さん、21歳。
作業所で働く弟・陽斗さん(18)には、中等度の知的障害があり、送り迎えをしています。
【清﨑鈴乃さん】
「弟の場合は、小さい子の声とか泣き声、誰かの怒っている声とか表情みたいなものをすごく敏感に感じ取ります。パニックになりやすかったりとか、他傷行為をするかもしれないし、自傷もあります。私も弟と一緒にいる時は、楽しい時は楽しいけど、緊張感はずっと持ちながら、常に気を付けている感じはあります」
清﨑さんが陽斗さんのケアを始めたのは、小学生のころ。
登下校に付き添って精神面のケアを行ったほか、次第に、入浴の介助も母と交代でするようになりました。
――Q:自分がヤングケアラーだという認識はありましたか
【清﨑鈴乃さん】
「全然なかったですね。お手伝いの中の一つとして弟の世話をしていました。私にとっては、弟が家族にいるのは当たり前の状況としてあるので、弟に何か起これば、それに対応するのは当たり前だったので、ケアを担っているという感覚は本当になかった」
”家族だから当たり前”
そんな意識があり、誰かに相談することには抵抗がありました。
【清﨑鈴乃さん】
「弟が批判されたら、すごい苦しいです。家族なんだから、それくらい当たり前ちゃうかとか、『弟くん障害者なんだから、もうちょっとお姉ちゃん頑張らないとだめだよ』って言われるのも怖かったです。自分の心もしんどくなる瞬間を、誰かと共有できないことで更に苦しんだりとか」
■家族のケアが1日7時間超も…国の「ヤングケアラー」実態調査
家族の介護や世話を担う「ヤングケアラー」について、国は中学2年生と高校2年生を対象に初めて調査を行い、今年4月、その結果をまとめました。
中学生の約17人に1人、高校生の約24人に1人が「世話をしている家族がいる」と回答。
こう回答した生徒の1割以上は、世話に1日7時間以上費やしていて、相談した経験がないという生徒は6割を超えました。
■ダウン症の弟、うつ病の母と生きる…10年以上家族のケアをしてきた女性の思い
上野千草さん、28歳。
弟・拳王(げんき)くん(11)はダウン症で、もう一人の弟にも発達障害があり、高校生の頃から10年以上家族のケアをしています。
【上野千草さん】
「勉強もしないといけないし、子守もしないといけないし、大変でした。母親も、ちょいちょい”爆発”して姿をくらますんですよ。土曜日とか日曜日とか、帰ってこないみたいな」
母の敏子さん(52)は、うつ病を患い、家事が思うようにできませんでした。
父からのサポートを得ることは難しく、ケアの負担は、全て千草さんにのしかかりました。
【千草さんの母・敏子さん】
「私の場合はずっと死にたくて、家の中で包丁を振りまわすこともありました。外出して、車を見たら、この子の手を振り切って突っ込む。踏切を見て、降りてきたら、(遮断機を)くぐっていくみたいな。とにかく目が離せないような状況でした」
「(千草さんが)友達と遊びに行くとかっていうのは全くありませんでした。家とか弟のお世話…泣きそうだけど、あれは本当に申し訳なかった」
千草さんは、大学に進学した後も、日々のケアに追われ、限られた時間しか授業を受けられず、まともに就職活動をすることもできませんでした。
【上野千草さん】
「周りの学生を見ては、あんな感じで何も考えないでよかったらいいなとも思いました。他の方にもそれなりに悩みはあるんでしょうけど、帰ったら母が病院に運ばれているんちゃうかって、そんな心配もせず何も考えずに(大学に)行けるってすごいなという感じでした」
「なんで私はこんなんなんだろうって思っていました。何をしていても何か気になるんですよ。何も集中なんてできないし、心から楽しいって思うこともなかったです。とりあえず、そのうち出口があるだろうって。逆に言えば、あまり何も考えずに過ごしました。先のことも何も考えられないけど、とりあえず今日何もなかったら、それでいいと思っていました」
ケアを続ける中で、千草さんはめまいに悩まされ、過食と拒食を繰り返すようになったといいます。
大学を卒業した後も、定時の仕事に就くことは難しく、しばらくは居酒屋などで働きました。
その後、敏子さんは症状が改善し、生活に困窮している人たちのために食堂を開いています。
千草さんも休日は店を手伝いながら、去年から、アルコールの製造会社で正社員として働けるようになりました。
【上野千草さん】
「やっぱり家庭のことなので、外に出すのもいかがなものかなと思っていました。その時、人に頼るっていう発想がそもそもなかった。自分で何とかしようっていう感じでした」
■「身近に立ち寄れる居場所を」…「ヤングケアラー」当事者同士の交流会
知的障害がある弟をケアしている清﨑鈴乃さん。
同世代の人たちで、障害のあるきょうだいについて、気持ちを打ち明けられる場所が必要だと感じ、定期的に交流会を開催しています。
【交流会の参加者】
「周囲にカミングアウトしたりしますか?」
【交流会の参加者】
「高校生くらいまでは、できるだけ言わないようにしていた。障害がある弟がいるお兄ちゃんって見られるのに抵抗があった。そういう風に周りに思われたくなかった」
【交流会の参加者】
「障害がある兄がいたから、自分は障害系のことについて学んでいる。それ自体は悪くないけど、やっぱり影響されているんだなって」
【清﨑鈴乃さん】
「影響受けることがすべて悪いわけでもなくて」
この会があったからこそ打ち明けられた悩みや思い。
2時間以上話し合いました。
【清﨑鈴乃さん】
「相談機関というよりかは、身近に立ち寄れる居場所が必要なんだよとか。ヤングケアラーが求めていることは、こういうことなんだよということを発信できたらいいなって思っています」
清﨑さんは、ケアしてきた経験を生かしたいと思うようになり、来年から、福祉に関わるNPOで働く予定です。
【清﨑鈴乃さん】
「ケアの捉え方は人それぞれだと思います。一概にケア経験をいい経験だと思っていますとは言えないですし、声を大にしてはいえないけど、私にとっては弟のケアがあったからこそ今の私の人生だと思っているので、マイナスな面はもちろんあったけど、マイナスだけではないとも思っています」
人知れず悩み、家族のケアを受け入れ、生きている人たちがいます。
(カンテレ「報道ランナー」6月14日放送)