65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になるといわれています。
そんな時代に、自分の問題として「認知症」について考えさせられる映画が話題になっています。
認知症の父親と、戸惑いながらも寄り添う娘を描いた映画『ファーザー』
今年のアカデミー賞で、主演男優賞と脚色賞に輝いた話題の作品です。
記憶が薄れゆく父親を演じるのは、アンソニー・ホプキンスさん(83)。
名優の演技もさることながら、斬新な演出方法が評判を呼んでいます。
娘が、「お父さん 私よ」と、父親のもとを訪れるシーン。
【娘】「手伝いにきたの」
【父】「何のためだ?誰の助けも必要としとらん」
何気ない会話が繰り広げられます。
しかし、別のシーンでは、娘役を別の女優が演じています。
【父】「アンはどこだ?」
【娘】「なんですって?」
【父】「アンはどこにいる?」
【娘】「ここよ」
映画を見る人も、娘が別人となって現れ、混乱します。
こんな演出で、娘の顔が分からなくなる認知症患者の受け止め方を表現しているのです。
父親にとって見ず知らずの女性が、娘だと名乗って目の前にいる…
当事者にしか分からない混乱や不安を見る人にも体験してほしい。
そんな制作者の意図があります。
【監督/脚本 フロリアン・ゼレールさん】
「認知症は現代において最も悲しい問題です。観客には認知症を自分の事として見てほしいんです。認知症の症状の一部を自分で経験しているような立場でね。ストーリーは迷路のようなもので観客はその中にいて、出口を探さなければなりません」
高齢社会になり、多くの人が長生きする分、認知症はより身近な問題になっています。
厚生労働省が2017年に出した認知症施策推進総合戦略「新オレンジプラン」には、「わが国の認知症高齢者の数は、2012年で 462 万人と推計されており、2025年には約 700 万人、65 歳以上の高齢者の約5人に1人に達することが見込まれています。今や認知症は誰もが関わる可能性のある身近な病気です」とあります。
認知症の人が生きている世界がどのようなものか、様々な分野で研究が進められています。
認知症の人の内面世界を描いたとも言えるこの映画も、そんな努力の中で生まれたものの一つと言えます。
他人事と思っている人でも、明日は自分が当事者かも知れない。
認知症について、考えるきっかけになるかもしれません。
(カンテレ「報道ランナー」 Hello!ニューノーマル「よのなかラボ」 5月20日放送)