「戦後最悪」とまで言われる日韓関係に変化の兆しです。韓国政府は、6日、いわゆる“元徴用工”への賠償について、解決策を発表しました。
6日午前、韓国の外務省で行われた会見で、韓国・朴振外相から解決策が発表されました。韓国政府の示した解決策は、元徴用工や遺族への賠償を命じられた日本企業に代わって、韓国政府傘下の財団が賠償を肩代わりするというものです。焦点となっていた資金の拠出については、日本側が難色を示したため、当面は韓国企業が出資する形となりました。これを受けて日本では、林外相が今回の解決策発表を評価した上で、資金の拠出には関与しない考えを示しました。
これについて龍谷大学 李相哲教授の解説です。ポイントは3つ。
・この解決策でみんな納得する?
・尹大統領は本気?
・日韓関係は変わる?
まず、今回の解決策の仕組みについてあらためて整理します。賠償を命じられた日本企業に代わって、韓国政府の傘下にある支援財団が原告への支払いを肩代わりします。財源は、日本の被告企業が寄付するのではなく、韓国の企業から「自発的な貢献などを通じて準備する」、つまり寄付を募るということです。韓国側はこれで納得するのでしょうか?
【龍谷大学 李相哲教授】
「韓国の原告側や支援団体は、いかなる解決策を出しても、納得しない人が半分ぐらいいます。それを気にしていては永遠に解決しないので、政治的判断をするしかない。韓国の原告側は『日本企業のお金でないとだめだ』言っていますが、日本からすると寄付とはいえ、お金を出したら間違ったメッセージを送ることになるので、出すべきではない。今回の解決策では韓国企業がお金を出すということになっていますから、一旦は両国とも満足のいく方向になったということです」
韓国国内の世論調査で、6割以上の方が今回の解決策に反対という結果が出ています。李教授は「尹政権は本気だから、きっとやる」と以前から言っていましたが、韓国国内には反対が多く、尹政権の支持率も高いわけではない中で、正直、本当にやるのかとも思われました。“それでもやる”のは、なぜなのでしょうか。
【龍谷大学 李相哲教授】
「経済的にも、安全保障的にも、早く解決しなければだめだという、政治的な判断があると思います。今、安保上、米韓関係がとても大事なんですが、日韓関係がぎくしゃくすれば、米韓の協力もうまくいかなくなります。5日に韓国の安保室長がワシントンを訪問したのですが、まもなく尹大統領がワシントンを訪問する際の “おみやげ”として、今回の解決策を持っていきたいということもあって、政治的な判断をしたと思います。(韓国と日本が仲良くしていることを)アメリカは切に願っています。バイデン大統領も『画期的な、世紀の判断だ』と評価しています」
尹政権が日韓関係改善に前向きなので解決に向けた動きとなりましたが、政権が変わったら蒸し返されてしまうのでは、という疑念もあります。もし支援財団が支払わないとなれば、解決されないことになります。支援財団は韓国政府の傘下にあるということですから、政権が変われば財団が支払わなくなる可能性があるように思われますが、どうでしょうか?
【龍谷大学 李相哲教授】
「十分ありうることです。今までそのようなトラウマがあります。2015年12月の慰安婦合意も韓国はほごにしました。それもあって日本は譲らないということですが、だとして問題を解決しないのかいうと、やはり解決する必要があります。尹政権はあと4年続きます。今の段階で日本が納得できるのであれば、日本は受けるべきで、今度韓国がほごにした場合は毅然とした対応を取ればいいです。国家の関係は、尹政権の任期がくる4年先のことを考えて、迷うべきか、今判断するべきか、日本政府は判断しないといけません」 「韓国・東亜日報の特ダネによりますと、大統領府のスタッフたちは『リスクが大き過ぎるので、ちょっと待ってもいいんじゃないか』と言ったのだけど、(尹大統領が)『これでは一向に解決しないから、未来志向で行きましょう』と判断したと言われています」
そうなると日本側も歩み寄りといいますか、お返しが必要になるのかと思います。例えば「反省とおわび」の継承表明。1998年に小渕首相と金大中大統領の間で結ばれた「日韓共同宣言」が、「今も生きていますよ」という言い方をするのでしょうか。
【龍谷大学 李相哲教授】
「(日韓共同宣言の内容を)読み上げるのか、ただ継承しますと言うのか、ちょっと問題になっていますが、政府が知恵を絞って考えることでしょう」
自衛隊出身の佐藤正久議員は「読み上げるな」と言っていました。自衛隊に対する韓国軍のレーダー照射問題などが残っているので、怒っている方もいます。
関西テレビ・神崎報道デスクは、「日本側、特に自衛隊サイドとしては、韓国軍に対して、疑っている部分がある。安全保障の面でいうと、これまで北朝鮮という共通の課題があったのが、ロシアのウクライナ侵攻であったり、中国のそれに対する動きがあったり、安全保障環境はがらりと変わっています。アメリカとの同盟関係もありますので、このまま日本と韓国で仲たがいしているわけにはいかない。尹政権の任期もあと4年ありますので、ここで安全保障環境を変え、さらに経済の状況も前に進めていけば、尹政権の支持率も上がっていくという狙いもあると思います」と話しました。
またさらに、韓国の解決策を受けて日本側ができる対応として ・韓国を輸出管理で優遇される「ホワイト国」に再指定 ・日韓の財界で留学生支援の共同事業を行う といったことがあがっています。これらによって、日韓関係はよくなると考えられますでしょうか?
【龍谷大学 李相哲教授】
「尹大統領が6日午後3時ごろに、談話というか感想を発表しまして、『これで日韓は未来志向で行くんだ』と言っています。留学生支援の共同事業とか、未来志向なんですね。韓国の支援団体に日本企業がお金を出すと、それは過去を向いたものとなります。しかし留学生支援は、未来の若者のためなので、日本企業もお金を出す可能性があるのでは。私は日韓関係はよくなるとみています」
(関西テレビ「報道ランナー」2023年3月6日放送)