大阪・ミナミの一角にいつのまにか若者が集まるようになった場所があります。
それが「グリ下」です。
【グリ下に集まる若者】
「1歳の時に出て行った父親!養育費払えよおい」
「アル中の父親、私に缶ビール投げるのやめろ」
ここを“居場所“と感じる子供たち。
そこには複雑な思いもあります。
【グリ下に集まる若者】
「私、ガチでちゃんとしたいねん」
この場所に何があるのか。
集まる子供たちの「本当の声」とは何なのでしょうか…
■大阪・ミナミ 若者が集まる「グリ下」
大阪・ミナミ。
2022年の始まりは、戎橋の上にも下にも人が溢れかえりました。
年が明けてすぐの1月4日。
いつも通り、たくさんの人が行き交う橋の下に若者たちが集まっていました。
【記者リポート】
「今少し風も吹いていて寒いんですけれども、20人ほどの若者が1時間前からずっとこの場所で喋っています」
ミナミのシンボル「道頓堀グリコサイン」の下は、いつからか「グリ下」と呼ばれるようになりました。
そこに集まる若者たちが去年の6月以降、急増しています。
【ミナミによく来る女性(20)】
ーーQ:「グリ下」って聞いたことありますか?
「あります、あります」
「友達がグリ下だけど、普通に溜まって遊んでいるだけらしい」
【グリ下と交流が深い路上パフォーマー ケン太郎さん(24)】
「橋の下にいる印象だったので、上に上がってくるってこと全くない、身をとどめている感じ」
「グリ下」の本当の姿とは…。
そしてなぜここに集まるのでしょうか。
午後9時ごろ、グリ下に7,8人ほどの若者が集まっていました。
■グリ下に集まっていたのは・・・ 語られる事情
【グリ下に集まる若者】
ーーQ:みなさん何歳ですか?
「16歳」「17歳」「さっき21歳って言ってたけど、中3です」
実は話しかけに行く少し前、中学3年生の少年に橋の上でインタビューをしていました。
しかし、その時はミナミでアルバイトをする21歳と名乗られ、「グリ下には行ったことがない」と言われてしまいました。
警戒されていたのです。
【グリ下に集まる若者】
ーーQ:なんで集まるのかなと思って
「何でもよくないですか? 何でもいいじゃないですか」
ーーQ:何でもいいかもしれないけどそれを知りたいです
そんなやりとりをしていると、詰め寄ってくる若者たち。
どんどん人数が増え、いつの間にか囲まれてしまいました。
始めは警戒されていたものの、話を続けると快く取材に応じてくれました。
【グリ下に集まる若者】
ーーQ:みんな今日はどうして集まったんですか?
「友達がいるから」「友達を増やすため」「Tik Tok撮りに来た」
【グリ下に集まる若者】
ーーQ:元々みんなは友達ですか?
「全然初対面から仲良くなった、今日初対面じゃない人もいるし、今日初対面の人もいる」
「インスタつながりとか」
「インスタのストーリーズこんな感じです。これでみんな行くってなったら、これで募集して『はい』を押した人と会う」
この日集まっていたのは、中高生ばかりでした。
「毎日のようにグリ下に集まっている」と話します。
【グリ下に集まる若者】
「家にいたくないから」
「家庭ってもんは色々あるやん」
家庭の事情の話になった途端、彼らは口々に思いをカメラにぶつけ始めました。
【グリ下に集まる若者】
「1歳の時に出て行った父親、養育費払えよ」
「アル中の父親、私に缶ビール投げるのやめろ」
「これ親に見せてあげて。こういう悩みがあって来てる」
中には、家出中に捜索願を出されて警察に保護され、児童相談所に入っていた高校生も。
【グリ下に集まる若者】
「私、児相を出てから。ここに来始めたかも」
「私は同じ家出経験の子に会えたらいいなと思った」
「同じ”毒親”悩みの関連でつながる」
出てくる言葉、ひとつひとつが悲痛な響きを抱えていました。
彼らの多くは、不登校で家出を繰り返し、ビジネスホテルなどで寝泊まりをしています。
【グリ下に集まる若者】
「2人部屋を借りて20人とか15人入ったりする。ギュウギュウでも全然暖かい」
彼らは陽の当たる上には行かず、自らの意思で下に来ていると言います。
【グリ下に集まる若者】
「(戎橋の)上に行ったらナンパされるから面倒くさい。下に行ったらみんないるし守られている」
「マジで第二の家みたいな」
「ここにいる時だけは嫌なことを忘れられる」
様々な人と文化が入り乱れるミナミ。
その中で、一番陰に埋もれた「グリ下」が彼らにとって、守るべき場所であり、心の拠り所になっているのだと取材して感じました。
しかし、その繋がりはSNSで生まれた希薄なモノ。
アカウント名で呼び合い、本名を知らないなんてこともあります。
そんな場所には良いことも悪いことも、簡単に入り込んできます。
そうした現状に、警察も警戒を強めています。
彼らが”犯罪”の被害者にも、加害者にもなるケースが増えているからです。
■グリ下の危険な側面 違法行為・性被害も…
2021年、警察がミナミで子どもを保護したうえで、児童相談所に引き渡した件数は36件。
前年の倍以上になっています。(令和2年:14件)
特に、「グリ下」に若者が定着した9月からは急増しています。
そして、違法行為に関与する未成年も一定数います。
【以前グリ下にいたコンセプトカフェ店員(16)】
「グリ下ってめちゃくちゃヤバいんですよ。小学生くらいでもタバコ吸ったり、お酒飲んだり。急性アルコール中毒になって運ばれたりとか聞きます」
【グリ下と交流が深い路上パフォーマー ケン太郎さん(24)】
「自分の体売ったり、パパ活とかいろいろありますけど、危ないことでお金を貰っている印象がある」
犯罪に利用されたり、巻き込まれたりしている子供たちもいます。
【グリ下に集まる若者】
「児ポ(=児童ポルノ)が多い、何回も被害者になった。ネットで知り合った人と会ってから児ポみたいな」
「アニメの女のコスプレしてて。突然変なハゲ散らかしたおっさんがスカートめくってきて、『お前男か、男でもいいわ』と言われて引っ張られて路地裏行かされた」
【グリ下に行く若者】
「葉っぱ(=大麻)やってる子はいる。グリ下の中には、ちらほら葉っぱ売ってる人もいる」
半グレと呼ばれる不良グループや売春の斡旋業者が出入りするなど、「グリ下」は想像以上に危険な一面も持ち合わせています。
■18歳少女 “虐待”の自宅を出てグリ下に
そんな「グリ下」にいながら複雑な思いを抱く少女がいます。18歳のあんなさん(仮名)。
通信制高校の3年生ですが、途中から授業を受けていません。2021年6月に「グリ下」に居場所を見つけました。
【あんなさん】
「取材ー!ガチ取材」
【グリ下で知り合った少女】
「2万円ほど持ってない?」
【あんなさん】
「なんで?」
【グリ下で知り合った少女】
「3万円にして返すからさ。今日中に2万親に返さないかんからさ」
【あんなさん】
「2000円しか持ってない」
【グリ下で知り合った少女】
「やっぱり無理やんな~、死にたい」
【あんなさん】
「すまんな」
【グリ下で知り合った少女】
「めっちゃ鬱やわ」
【あんなさん】
「さっきまでなら1万持ってたんやけどな」
【グリ下で知り合った少女】
「もぉーーー!」
幼い頃から母親に虐待を受けていたというあんなさん。
新型コロナの影響で、家で一緒に過ごす時間が増えたことが耐えられなくなり家出をし、「グリ下」に来ました。
友人が泊まるホテルを転々として過ごしていましたが、半年以上たった今、「グリ下」を”離れたい”という気持ちを口にします。
【店員】
「グリ下はいつ卒業するの?」
【あんなさん】
「もう卒業気味やで」
【店員】
「最近ガキが多いんやろ?」
【あんなさん】
「そう、最少年齢10歳やからな。グリ下の人、普通じゃないねん、会話つながらん。」
最近はSNSの投稿を見た若い世代が押し寄せるようになり、相談事をする友達も少なくなったと話します。
【あんなさん】
「今は仲いい人いなくなったし、あんまり。別にしゃべることないから。楽しくないもん」
抜け出したい理由は「環境」だけではありません。
将来の夢はデザイナー。
飲食店のアルバイトを続け、去年11月からはケースワーカーの援助のもと、アパートを借りることができました。
【あんなさん】
ーーQ:あんなさんもグリ下の一員って言われたら?
「めっちゃいや!バリ嫌、無理無理無理。恥ずかしいもん。ただ害悪と思われるだけだし」
最初私は、あんなさんは“グリ下の中心”にいるような存在だと思っていました。
なので、この発言は驚きでした。
はたから見れば「グリ下」の一員に見える彼女が、「グリ下」を拒んでいるのです。
■「グリ下を離れたい…」 少女が語った理由と思い
【あんなさん】
「私ガチでちゃんとしたいもん。偶然出会った人がただのグリ下なだけで、仲良くしたいからおるだけでグリ下扱いはされたくない。多分みんなそう思ってる」
ある時、急に「ここにいたら自分の価値が下がる、運が悪くなる」と考えが変わったのだそうです。
あんなさんの変化と決意を取材で感じることができました。
グリ下には様々な境遇、思いを持った若者が集まってきます。
暇だから来た人。
同じ趣味の友達を作りに来た人。
“友達”を食い物にしようとする人。
ここにしか居場所がない人。
慰め合いに来た人。
ここを離れたいと思っている人。
グリ下には感情が複雑に交差しています。
そんな不安定な場所で彼らは生きています。
(2022年1月6日放送)