来年卒業する大学生などを対象とした企業の採用面接が、6月、解禁となりました。
新型コロナウイルスの影響で、オンラインでの就職活動が定着しているのですが、就活中の大学生を取材すると、仕事選びに大きな変化が起きていました。
神戸市にある神戸大学のキャンパス。
就職活動を支援するキャリアセンターには、いつものように学生の姿はありません。
緊急事態宣言が出される中、大学の授業はほとんどがオンラインとなり、キャリアセンターも学生からの相談はオンラインで受けています。
【神戸大学キャリアセンター 田中美恵さん】
「のべ人数になりますけど、(来春卒業の)3400名近くの学生が相談にきております。オンラインツールを使うことも増えてきましたので、面接対策のガイダンスもウェブに特化したってところですね」
5月下旬、企業が選考のために行うグループディスカッションの体験講座がオンラインで開かれました。
初めてのオンラインに、学生たちは戸惑いがあったようです。
【神戸大学大学院1年生】
「オンラインでは雰囲気が感じられなくて、自分だけで話すと気まずい」
【神戸大学キャリアセンター 田中美恵さん】
「ずっと頬杖をついているとか髪をすごく触っているとか、画面の中で見ると非常に気になるところかなと感じました。WEBでどんな風に自分が映っているかを意識することが大事かなと」
人材サービス会社の調査では、来年春入社の新卒採用を行う企業の91.4%が、選考において“オンライン”に対応している、もしくは対応予定と回答しています。
(プレシャスパートナーズ調査 来年度 新卒採用を行う186社)
就職活動中の大学生は…
【関西学院大学3年生】
「コロナで先行きが分からないという状況に漠然とした不安がある」
「姉の就活をみているとずっと、対面が最後までなかったと思う。自身の思いなどをどれだけ伝えられるか」
コロナは企業の採用人数にどんな影響を与えているでしょうか。
今年春に卒業した大学生の就職率は96%と前の年より2ポイント低くなり、リーマンショックの影響を受けた2010年に次ぐ下げ幅となりました。
(厚生労働省・文部科学省 就職状況調査)
しかし、売り手市場は続いています。
運輸業や旅行業などが採用人数を絞る一方で、製造業など業績が堅調な企業は採用を増やしていて、来年春に卒業する学生に対する求人倍率は1.5倍となっています。
(リクルートワークスの調査)
学生たちは今どんな就職活動をしているのでしょうか。
神戸大学4年生の松田完(まつだ かん)さん
5月初旬、自宅から東京に本社がある大手不動産会社の“オンライン”での社内見学に参加しました。
【社内を案内する社員】
「緩めの会にしたいと思いますのでよろしくお願いします。みなさんこんにちは!今日これから私はみなさんを本社の中を案内します。ここが受付になっておりまして、ここの見せ場が皇居の緑でございます!」
松田さんはすでに希望していた会社から内定を受けていますが、就職活動を続けています。
【神戸大学4年生 松田完さん】
「社員の雰囲気をなかなか知ることができないので、生で本社に行ってみたり、実際に面と向かって会って話してみたりとかができていないのが、本当に判断が遅れている大きい一因になっているかなと思います」
就職活動の合間は、スーツのズボンを脱いで、リラックス。
手際よく、自炊で昼食を取ります。
【神戸大学4年生 松田完さん】
「一人の時間は増えましたね、もちろん。めちゃめちゃ増えたと思います」
所属するラクロス部は活動休止で、大学もオンライン授業のため、1日中家にこもる日々が続いています。
【神戸大学4年生 松田完さん】
「面接も通る通らないで一喜一憂する。自分の感情が揺れ動くことが就活はすごく多いので、そういうときに「こんなことあったよ」ってしゃべる友達にも会いづらい」
内定をもらった企業に対しては、理解を深めようとオンラインでの社員訪問を重ねています。これまで9人と面談しました。
【神戸大学4年生 松田完さん】
「オンラインになると東京で働いている方と結構すぐ会える。この人が仕事に対してどれぐらいの熱量があるのかとか、オンラインだと淡々としている方もいるので、見えづらい。できるだけ(社員訪問の)数を稼ごうとは考えています」
オンライン就活が定着したことで、企業の採用活動にも変化が起きています。
大阪府忠岡町に本社がある三進金属工業。
物流などの倉庫で使用される産業用ラックの生産量日本一を誇る中小企業です。
【三進金属工業 前田大輔係長】
「一番困ったのはリアルの学生との接触が減ったことです。我々、企業名が圧倒的に知名度がないので、いかに学生と接点をもっていくのかが課題で、それを解決するためイベントや合同企業説明会に参加していました。しかし、コロナ禍において合同企業説明会が中止になって…」
そこで活用したのが、オファー型の採用です。
一般的なケースでは、企業は新規採用の募集をして、学生からエントリーシートを提出してもらいますが、「オファー型の採用」は、専用サイトに、学生が自らの経歴や自己PRなどを公開し、企業側の担当者が興味をもった学生にコンタクトを取る仕組みです。
金属を扱うメーカーでありながら、在庫管理システムといったソフトウェアの開発ができることをIT系の学生に能動的にアピールできました。
【三進金属工業 前田大輔係長】
「学生の志向性に合わせてオファーを送っているので、どんな仕事をやりたいのかプロフィールで拝見して『うちであれば君が考えている仕事ができるよ』ってオファーを送って」
北海道大学大学院で情報系の学部に通う、太田玲花(おおた れいか)さん。
IT系企業を志望していましたが、三進金属工業から内定をもらい、入社することを決めました。
【北海道大学大学院2年生 太田玲花さん】
「ずっと北海道で、面接も説明会も全てオンラインで完結。一度も北海道から出ずに就活しました。移動の時間も費用もかけずに済むのでとても楽でした」
北海道生まれの北海道育ち、縁もゆかりもない大阪の中小企業ですが、“オンライン”で自分に合うと感じられたといいます。
【北海道大学大学院2年生 太田玲花さん】
「事業自体にとても強い興味を抱けたということと、説明会で感じた会社の温かさや雰囲気の良さにひかれて内定承諾させていただきました。よく聞かれるのですが個人的には(大阪での就職に)あまり不安はない」
来年4月から、ここでIT系の技術職として働きます。
【北海道大学大学院2年生 太田玲花さん】
「最寄駅からオフィスまでの経路が一切分からないので、確認しておかないとと思っています(笑)」
――Q:働くの楽しみ?
「はい、もちろんです!」
学生約17万人が登録しているオファー型の就活サイトを運営するi-plugによると、今春に卒業した学生の97.5%が就職先に満足している(内定時点)と答えているということです。
【i-plug 中野智哉社長】
「就活でたくさん課題があった中の大きな部分、地方との格差がかなり是正されたのは結果としてはよかった。関係を構築するところはリアルの方が勝っているところは多分にあるので、今後(オンラインと)リアルのハイブリッドで新しい進化した就活に移行するでしょう」
膨大な選択肢の中から、自分に合う相手を探す就職活動。
“オンライン”で思うようにいかない部分もありますが、学生と企業がつながるチャンスは大きく広がっています。