ビルの屋上でミツバチを育てハチミツを採ろうというプロジェクトを大阪の百貨店が始めました。
都会の自然を守ることにつながるそうなのですが、どんな試みなのでしょうか?
大丸百貨店の社員、防護服で屋上へ
大阪の大丸百貨店。
地下一階のハチミツ専門店で打ち合わせをしているのは店舗開発などを担当する吉田真治さんです。
いつもはスーツ姿ですが…
週に1度、全身黄色の防護服に着替えます。
向かった先は、大都会の真ん中、地上約60m。
大丸心斎橋店の屋上です。
おととしの大規模リニューアルに伴い、屋上を緑化した大丸心斎橋店。
今年3月から、約5万匹のミツバチを育てる「心斎橋はちみつプロジェクト」を始めました。
吉田さんがもつ巣板には蜜がびっしり詰まっています。
【大丸心斎橋店 店舗開発担当 吉田真治さん(38)】
「もう蜜と言わなくてもわかるぐらいこの辺に、片手で持てないくらい重いです」
なぜミツバチなのか。
そこには、市街地に緑を増やすという目的があります。
ミツバチを育て…都会に緑を増やす
ミツバチが花や木々の花粉を運ぶことで植物は実をつけます。
その実を野鳥が食べ、種を遠くまで運ぶと周辺に植物が増えます。
そして、また、ミツバチが花粉を運びます。
このように、ミツバチは、都会に緑を増やし、生態系を循環させる上で、大きな役割を果たすのです。
このプロジェクトを発案した吉田さん。
大丸に勤めて15年。大阪出身で、ずっと地域に貢献したいと思っていました。
【大丸心斎橋店 店舗開発担当 吉田真治さん(38)】
「この心斎橋だけではなく、いろんなところに波及すれば大阪として緑が広がっていって住みやすい街をつくっていく中では、そういった環境も必要だろうと思いましたので、都市養蜂にトライしてみようと思いました」
さらに、大丸心斎橋店は、ミツバチが蜜を集めるのにとってもいい場所にあるのです。
大阪市内の「花のある場所」から効率的な立地
ミツバチは、巣から半径約3キロ圏内にある花から蜜を集めます。
このエリアには、大阪城公園や靭公園、天王寺動物園といった蜜の採れるスポットがたくさんあり、大丸心斎橋店はまさにその中心にあるのです。
【大丸心斎橋店 店舗開発担当 吉田真治さん(38)】
「都会の蜜だからあんまり美味しくないというのはないですね。お花がちゃんと咲いているところはしっかりと美味しいですし、排気ガスの多いところには蜂が行かないので、やっぱりきれいなん蜜を採ってきてくれているので美味しくなります」
こうした都会でミツバチを飼う取り組みは、環境への意識の高まりをうけ、世界中で広がっています。
花の都パリにある劇場オペラ座の屋上をはじめ、大阪梅田でも2009年からヤンマー本社ビルの最上階で行われています。
しかし、誰もが簡単にできるわけではありません。
――Q:苦労した点は?
【大丸心斎橋店 店舗開発担当 吉田真治さん(38)】
「我々百貨店がド素人だったので、この養蜂に関して何も知らなかったということころです」
飼育には厳しい条件…なかなか許可も下りない
大阪府の条例では、「ハチの巣箱は人が常時出入りする場所から20m以内に置いてはいけない」など、飼育方法について厳しい条件が定められています。
多くの企業が申請していますが、なかなか許可がおりないのです。
吉田さんは、ミツバチを育てるプロの業者を訪ね歩き、勉強を重ね、週に1回の巣の手入れや、蜂の健康状態のチェックなどを学びました。
約1年がかりで許可を得ることができたのです。
【吉田さん】
「子供っていうより、一緒に生活して頂ける友達かなっていう感じです」
――Q:デパートの店員というより養蜂家さん?
【吉田さん】
「転職しましょうかね ほんまに」
緊急事態宣言に伴い休業していたレストランフロア。
この日、吉田さんは、5月初旬に初めて採れたハチミツを持って自家製のうどんを出す店を訪れました。
【自家製粉 石臼挽きうどん 青空blue 松井宏文 代表】
「ちょっとさっぱりした味ですね」
吉田さんは、ハチミツを使ったメニューを作れないか相談しました。
【自家製粉 石臼挽きうどん 松井宏文 代表】
「お客さんが自ら仕上げにかけてもらうというのもありかなと思いました」
飲食店のメニューだけではなく、はちみつを使った菓子なども開発し、今年の9月ごろからの販売を目指しています。
6月1日、巣箱を設置してから2回目となるハチミツ絞りが行なわれました。
巣板を設置した遠心分離機を回すと…とろーりおいしそうなハチミツがあふれ出てきました。
【大丸心斎橋店 店舗開発担当 吉田真治さん(38)】
「あっきれいな色…まず採れたてのところを」
吉田さんがハチミツの味を確かめます。
【吉田さん】
「採りすぎた、ごめんなさい」
カメラに見せながら、その貴重さを教えてくれます。
【吉田さん】
「スプーン一杯で1匹のミツバチが採ってきた蜜の一生分です」
口に含むと…吉田さんの表情が自然と笑顔になります。
【吉田さん】
「すごいスッキリしてる。初夏の味という感じ、ほんとにすっきりしている」
大丸心斎橋店では、ハチミツを最終的に200kg採る予定で、子供向けの体験イベントなども今後企画するということです。
【大丸心斎橋店 店舗開発担当 吉田真治さん(38)】
「これからこの心斎橋の将来を担う方々、そういった全ての方に食べて頂いて、大丸から発信していろんな地域で広がっていったらいいなと思ってます。改めて(蜜を)集めてくれたミツバチに感謝ですね」
都会の真ん中から緑を広げたい。
ミツバチと百貨店の店員が、大阪・心斎橋に新たな名物を生み出そうとしています。