今、神戸で起こっていること ~神戸市健康局長が語る「コロナ最前線」~
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。
神戸市では、介護老人保健施設で130人を超えるクラスターが発生したほか、入院調整を自宅で待っていた感染患者の死亡も後を絶たない。
関西テレビは、神戸市の新型コロナ対応の司令塔を務める花田裕之健康局長にインタビューを行った。
多忙の中で1時間以上にわたって語られた、最前線の実情とは…。
-
―――検査をした医療機関などが感染の判明を報告する文書を「発生届」と呼ぶ。
保健所はそれを受け取ると、聞き取り調査を行い濃厚接触者がいないか調べる。その作業で、従来と第4波にどんな違いがあるのだろうか。
【花田局長】
第3波までは全件、保健師が訪問していました。PPEという保護ガウンを着て対応しますが、患者のご自宅の外から着ていくと大変なことになります。目立たないところに車を停め、分からないように入り、玄関でPPEを着てから患者に会って話を聞きます。
第4波になって余裕がなくなり、50歳以下は電話で済ませたり、家族以外の調査ができなくなったりしています。血中酸素濃度は96%以上が正常です。第3波では「93%や91%の人が家にいてもらうのは大変」という話でしたが、現在は80%台の人が普通に家にいます。
保健所の担当者は「もう70%台の方しか入院できていない」と言います。80%台は、呼吸が苦しくちゃんと話すことも難しい。普通の感覚でいうと、80%台の人が家におるなんてムチャクチャです。絶対ええことない。あり得ないです。
「入院させなあかんけど…」往診で命をつなぐ
―――入院させるべき患者が入院できない。
神戸市内の病床使用率は9割に達している。それは「1割が空いている」わけではない。受け入れ準備やスタッフの確保があるため、ほぼ満床を意味する。
そんな中、医療従事者たちは新たな取り組みを始めているという。
【花田局長】
宿泊療養施設で軽症から中等症になる方もいます。酸素吸入設備も置いていて、本来そういうことをする施設ではないが、やっています。ご自宅では色んな方が急変するので、なかなかその対応ができません。本来は入院させなあかんけど、入院させられないのです。
病院も、「受け入れできない」と断った患者がその後どうなったかを知りません。ご説明すると、どこかの病院に行ったわけではないと初めて分かるのです。重症化したかなり後で入院するので、適切なタイミングでステロイドなどを投与できておらず、入院日数が長引く。長くなるから次の人が入れない。どんどんどんどん悪循環になっています。
市民病院では、「本来は自分たちが診るべき人だ」ということで、往診や電話診療を行い、酸素やステロイドの投与も行っています。医師会も民間のクリニックにも、「神戸の医療人として何かできることはないか」と同様の協力を頂いています。
今は「災害医療」のレベル。十分かというと十分ではない。我々は「往診に何人行けた」という数の話になりがちですが、患者ご自身にとっては1つの命です。1回の往診でその人の命が助かるのはすごいことです。
- 病床確保の現状「医療崩壊の引き金は、簡単に引くべきではない」
―――5月に入り、神戸市内の病床数は43床増えた。
感染の急拡大には追い付くはずもないが、コロナ病床が増え続けているのは確かである。
神戸市は「勧告に従わなければ病院名公表」といった、感染症法に基づく強制力のある要請はしていない。
背景には何があるのか。
【花田局長】
病院には「病床を少し開けてくれませんか」と回らせて頂いています。医療機関の中のことは我々には分からないので、勝手に「何床出せ」と言うと、下手すると通常医療を止めてしまうかも知れません。我々は状況だけお伝えします。最近は「1回受け入れたら次もいけるとは思わないから、1回だけでも助けてください」とお願いしています。神戸市の姿勢をお伝えすると、我々が思う以上に20床、30床と病床を増やして頂きました。
それで「できるやん」と言うのは違う。かなり無理をしています。あまりコロナに特化して無茶をさせると、コロナ以外の方を亡くならせてしまう。コロナ以外で亡くなっても報道されないですよね。もっと事態が悪化して海外みたいになったら、市民病院が救急をやめたりするでしょう。その時はもう普通の医療じゃなく、医療崩壊が始まっていると思います。簡単に「医療崩壊」と言う人がいるけど、その引き金は簡単に引くべきではありません。
病床の確保で「法に基づく要請」はしていません。今までの信頼関係で、常に情報交換しながらやってきました。神戸は震災を経験しているので、独特の助け合いの風土があります。そして第1波では、中央市民病院で院内感染がありました。神戸にとって中央市民病院は最後の砦。その神話が崩れたので、ものすごく皆が心配しました。少しは受け入れないと神戸の医療はもろとも終わると、皆が手を挙げて病床が増えたのです。
- 疲弊する保健師たち「代われるもんなら代わってやりたい」
―――聞き取り調査で濃厚接触者を見つけ、入院先を探す保健師。
入院できない患者が増え、「自宅療養・入院調整中の患者のケア」という仕事も増大している。
保健師たちの仕事場では今、何が起こっているのか。
医師でも保健師でもない事務職員である花田局長は、「代わってやることができない」と目を潤ませながら語った。
【花田局長】
正直、体調を崩す者はいます。激務なので。管理職は2月から休んでいない。入院調整の担当者は、血中酸素濃度が85%の人を入院させられずに「しょうがない」と言って帰っても、患者さんが気になって寝られないと言います。それが毎日ですから。
震災の時は、全庁を挙げて頑張って、他都市からもたくさん応援に来てもらいました。土木や建築の技術が要るものもありましたが、大半は皆で一緒にやればできたんです。今は医療の話が多いので、あの時とは違います。
できたら少しでも休むというか、早く帰ってほしいんですけど。私の話が空虚なもんでね、タクシーチケットを配ってるくらいです。「遠慮なく乗って帰ってくれ」って。夏や冬、定時の執務時間が終わると冷暖房が切れるんですけど、「切らんとってくれ」とかね。それぐらいのことしかできひんのです。
「あんまり無理せんとってくれ」と言うと、「患者さんの命があるのに」って怒り出すんですよ。「市民の命がかかってるんで、局長そんなこと気にせんとってください!」って。保健師らの使命感の高さと、このやる気は、いったい何なんかなと。このパンデミックが終わっても、反省して体制を持っておかなあかんと思います。
―――神戸市は、今年4月に保健師を45人増やした。それでも足りず、来年度はさらに50人増やし300人体制にする。
年度途中でも働ける人は加わってもらう。コロナ終息までの臨時雇用や民間企業からの応援派遣ではなく、正規職員としての採用だ。
久元喜造市長は「定年まで在職して頂く。コロナはいつか必ず終息するが、市民の健康のために働いてほしい」と話す。
保健師の仕事は多岐にわたり、感染症対策だけでなく乳幼児などの健康指導も行う。それで児童虐待の端緒をつかむことも多い。
仕事は尽きることがないのだ。
-
―――家庭内や施設内の感染など、避けようがない事例もある。
感染者を非難するのは間違いだし、差別など絶対にあってはならない。
一方で、神戸市の感染者1万3000人超の聞き取り調査を丹念に積み上げてみると、約8割に共通する原因が見えてきた。
そこに感染拡大を食い止める鍵があるという。
【花田局長】
「マスクを取って話をしない」「マスクを取って話をするなら十分に間隔を空ける」。その単純な2つのことだけで、医療を正常に戻していけるんです。そのうちご自身の身内で、入院できない人が出てくる。その時に分かると思います。自分の行動がつながっているとはピンと来ないんですね。
「医療ひっ迫」とか「医療崩壊」とか毎日のように聞いているから、もう言葉に「免疫」ができているんじゃないかって。コンビニの前で立ち飲みしとう人らですわ、輪になって…どないしたら通じるんかな。難しいですね…。変な「免疫」をつけずにもう一度、気を引き締めてこれ以上事態を悪化させないように、しばらくは慎んでほしいということですね。
―――「医療の危機」と言われて久しい。今こそ、不要な「免疫」を捨て、改めて危機感を持たなければならない。取材を通じてそう強く感じた。
取材:鈴木祐輔(関西テレビ報道センター神戸支局長)