【解説】“森友”文書改ざん問題 国が「一転」して「赤木ファイル」の存在認めるも…財務省の調査報告書では分からなかった“新事実”が、「黒塗り」にされる可能性 2021年05月07日
森友学園をめぐる財務省の公文書改ざん問題。
近畿財務局の職員・赤木俊夫さんが、改ざんの詳細を記したとされる「赤木ファイル」について、これまで頑なに説明を拒んできた国が、6日になって一転、その存在を認め、裁判で提出する方針だと明らかにしました。
国の姿勢が大きく変わった背景には、いったい、何があったのでしょうか。
【赤木俊夫さんの妻・雅子さん】
「今まであるともないとも、訴訟にも関係ないとか、いろんなことを言われてきましたけど、やっぱり実際にここにあるんだ、夫が残したものがまだ残ってるんだという安心感はあります」
近畿財務局の職員だった赤木俊夫さん(当時54)は、学校法人「森友学園」に関する公文書の改ざんを苦に3年前に自殺しました。
妻の雅子さん(50)は、国などに対し、損害賠償を求める訴えを起こしています。
この裁判で、最も重要な証拠だと考えられているのが…
【赤木雅子さん】
「赤木ファイルが出てきたらちょっと(状況は)変わるかな」
赤木さんは生前、雅子さんに「自分たちがやってしまった犯罪行為を事細かく書いてファイルにとじてある」と話していました。
赤木さんの直属の上司も、雅子さんに直接、ファイルについて証言していました。
【赤木さんの直属の上司(当時)】(音声データ・2019年3月9日録音)
「めっちゃきれいに整理してある。全部書いてあるやんと。どこがどうで、何がどういう本省の指示かっていう。これを見てもらったら、我々がどういう過程でやったかが全部わかるので」
しかし、これまでの裁判で国は、「改ざんの経緯や内容などの事実については、おおむね争いがないため、赤木ファイルが存在するのかどうかも、回答する必要がない」と主張し続けてきました。
こうした状況を打開するため、雅子さん側は今年2月、裁判所が証拠資料として必要だと判断すれば、所有者に強制的に提出させることができる手続き、「文書提出命令」を申し立てます。
さらに国会でも、「赤木ファイル」の提出をめぐって激しい攻防が繰り広げられてきました。
(今年2月の衆議院財務金融委員会)
【財務省・大鹿行宏理財局長】
「ご指摘のファイルについて、ご提出することは“裁判に影響を及ぼしうる”ものと考えておりまして、そのために控えさせて頂いている」
【立憲民主党・階猛議員】
「矛盾しているでしょ」
国は赤木ファイルについて、裁判では「結果に影響しない」という趣旨の主張をしながら、国会では「裁判の結果に不当な影響を及ぼしうる」と説明。
つまり、裁判と国会とで、“二枚舌”とも言える正反対の説明を繰り返しながら、赤木ファイルの提出を拒み続けてきたのです。
(今年2月の衆議院財務金融委員会)
【立憲民主党・階猛議員】
「(国会への赤木ファイルの提出が裁判に)不当な影響を及ぼすと考える理由、これだけ端的に答えてください」
【麻生太郎財務相】
「訴訟指揮(裁判所の指示)に従います」
麻生財務大臣のこの言葉通り、“裁判所の指示”が事態を動かすきっかけとなります。
雅子さんの弁護団によると、ことし3月の非公開の協議で、裁判長が「赤木ファイルがあるなら任意の提出を検討してほしい」と発言。
国は「赤木ファイルについての何らかの回答を5月6日の日中に書面で提出する」と約束しました。
そして、回答の期限だった6日…
【記者リポート】
「締め切り時間ぴったりの午後5時です。いま、弁護士事務所に国側からの書面がファックスで届きました」
国は、赤木ファイルが存在することを初めて認めました。
赤木ファイルには、改ざんの過程を時系列で記したものや、財務省と近畿財務局との間で、やりとりがされたメールなどがまとめられているということです。
国は、6月23日までにファイルを裁判所に提出するとしていますが、雅子さんが注目したのは、この“但し書き”でした。
【国の書面】
「もっとも、本件文書については、次のとおり、マスキング処理の必要性が認められる」
マスキングとは黒塗りのこと。
つまり、国はプライバシー保護の観点などから、個人名を隠す可能性を示したのです。
【赤木雅子さん】
「夫に改ざんを促した人の名前はちゃんと出してほしいなと思います。国が夫の残したものを真摯に出していただいて。夫がなぜ死ななければいけなかったのか、改ざんをしなければいけなかったのか、それを明らかにできるように進むだけです」
■【記者解説】国が存在認めた「赤木ファイル」…しかし、財務省の調査報告書では分からなかった“新事実”が、黒塗りにされる可能性も。
今後の焦点の一つが、「『赤木ファイル』がどれぐらい黒塗りにされるか」です。
国は、今回の回答書面で、「公務秘密文書に該当する情報が含まれることは否定できない」として、赤木ファイルを一部黒塗りにする必要性を主張しています。
確かに、国が例示する「パスワードが記載されたメールなど情報セキュリティに関わる文書」など、開示が難しい情報も含まれているのでしょう。
しかし、回答書面の中には、黒塗りの範囲が“拡大解釈”されかねない、一文が含まれていました。
【国の回答書面】(原文のまま)
「特に、森友学園案件は、報道等において引き続き取り上げられる実態があり、このような状況下で、財務省の調査により決裁文書の改ざんなどの一連の問題行為に関与したとは認定されていない者や、同行為に関与した者のうち幹部職員ではない者の個人に関する情報を公にした場合、取材等が殺到することなどにより、当該職員はもとより、その家族の私生活の平穏が脅かされるおそれがあることも否定できない」
つまり、財務省が公表した調査報告書で、改ざんに関わったと認定している幹部職員以外の個人に関する情報は、開示されない可能性があるのです。
そもそも、雅子さんは「財務省の調査では、俊夫さんが誰にどんな指示をされて、死に追い込まれたのかが分からない」と考え、裁判を起こしました。
調査報告書には書かれていない「改ざんの具体的な経緯」を知るために、赤木ファイルの開示を求めてきたのです。
国は「マスキング処理の範囲についてはできる限り狭いものとする予定である」としていますが、黒塗りの範囲の基準が「財務省の調査内容」であることに、雅子さんは不安を感じています。
国は回答書面で「雅子さん側からの文書提出命令の申立てを受けて、探索した結果、赤木ファイルが見つかった」と説明しています。
この説明が正しければ、「財務省の調査が終わった後に、赤木ファイルが見つかった」、つまり、「調査報告書は赤木ファイルの中身を検討せずに作成された」と考えることができます。
財務省の調査報告書では分からなかった“新事実”が、黒塗りにされる可能性もあるわけです。
関西テレビは7日、「調査報告書は赤木ファイルの内容を踏まえて作成したのか」と質問状を送りました。
財務省は「近畿財務局の職員がお亡くなりになったことについては、誠に残念なことであると考えており、改めて、深く哀悼の意を表します」とした上で、「お尋ねの意見書については、訴訟に関わることであるため、お答えを差し控えます」と回答しています。
(関西テレビ放送記者・諸岡陽太)