「世界一のコロナ対策」として注目される台湾は、なぜ封じ込めに成功したのか?
その、中心的役割を担った、台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タンさんとリモートインタビューをつなぎ、独占でインタビューを行いました。
IQ180といわれる「天才」オードリーさんが目指す社会とは?
インタビューを通じて、オードリーさんから「ニューノーマル」を学びます。
■コロナ封じ込めの理由…オードリーさんが大事にしてきた、3つの「F」
【吉原功兼アナウンサー】
「オードリーさん。日本のアニメ、漫画がお好きと伺ったのですが?」
【オードリー・タンさん】
「日本のマンガやアニメで育ってきました。ちょうど「進撃の巨人」を読み切ったところで、とてもおもしろかったです」
『世界一のコロナ対策』と称される台湾。
衛生福利部の発表では、これまでの新型コロナの感染者数は1178人、死者は12人。(5月7日時点)
注目を集めたのは、オードリーさんが指揮をとった「マスクマップ」という取り組みです。
マスク不足になる前に政府が市民に配るマスクを管理し、アプリを使って在庫をリアルタイムで確認できるようにしたことで、日本のようなマスク不足による混乱は起きませんでした。
アプリは市民プログラマーが開発に加わり、わずか3日で完成したそうです
【吉原功兼アナウンサー】
「いま振り返ってどのあたりが成功につながったと感じていますか?」
【オードリー・タンさん】
「政府が市民を信用していたこと、これが一番重要なことです。マスクマップは私が作ったのではなく、台南市の市民プログラマーが作った技術で、政府はそのアイデアを拡張しただけです。新型コロナが広がってきた当初から、台湾は1回もロックダウンしてないんです。緊急事態宣言も出していない。もちろん恐ろしさはあるけれど、人々が何をすべきか正確にわかっているんだと思います」
オードリーさんが感染対策で大事にしてきたのが、3つのF。
「fast」(速さ) 「fair」(公平さ) 「fun」(楽しさ)です。
コロナ禍の台湾で、「トイレットペーパーが不足する」とのデマが流れた時、政府はいち早く 「私たちのおしりはひとつだけ!」というスローガンをSNSに投稿。
トイレットペーパーを買い占めなくても大丈夫ですよというメッセージを市民に向けて発しました。
ユーモアをもってデマを封じ込めたのです。
【オードリー・タンさん】
「例えば、政府が市民からアイデアをもらって4か月後・4年後には(政策で)なんとかしますでは、民主主義は政治家だけものものだと感じて、民主主義に興味がなくなってしまいますよね。それがもし24時間以内に対応すればどうでしょうか。例えば、ある男の子が『学校にピンクのマスクをつけて行きたくない。だって他の男の子はみんな青色のマスクなんだよ』と言ったんです。すると、次の日には、大臣や関係者が男の子を想って、記者会見にピンクのマスクを着けてきたんです。その対応がとても早くて、楽しいことでしたよね。多くの賛同者を得ることで、市民の分断や陰謀論は解決できるんです。いかに早く・楽しく対応することが、誰も取り残さない社会につながり、社会問題を解決する鍵になるんです」
■「困難に直面している人の声を大切に」…デジタル技術を使った民主主義が社会の課題を解決
【吉原功兼アナウンサー】
「日本はコロナをどう乗り越えていけばいいと思いますか?」
【オードリー・タンさん】
「お互いに助け合えば大丈夫です。日本の皆さんは、何が起きているのかを見極める力がすごいと思っています。私は、大臣や内閣の人が、現場で起きていることを必ずしも理解しているとは思えません。だからこそ、困難に直面している人の声を大切にすることに力を入れているんです。例えば、台湾では誰もが新しい提案をできるフリーダイヤルを設けて、市民からのコロナ対策の意見を受け付けています。去年は、1年間で200万件の意見が来たんです。200万もの人がアイデアをくれたわけです。とても大切なことだと思います」
オードリーさんは、台湾史上最年少で入閣し、2016年にデジタル担当大臣に就任しました。
台湾では毎年、「総統杯(そうとうはい)ハッカソン」という社会問題を解決するアイデアを出しあう大会を開催していて、オードリーさんは、設立時からこの活動に力をいれています。
「総統杯(そうとうはい)ハッカソン」には全世界から参加することができます。
入閣直後には、市民が、生活の中の問題を意見できるHPを開設。
5000人以上の賛同が集まれば、政府も動くことが義務付けられ、実際に2019年、高校生の投稿がきっかけで、店内飲食のプラスチックストローを禁止する法律ができました。
【オードリー・タンさん】
「四年に一度、改選される選挙というのは、とても遅いものですよね。大事なのは民主主義のビットレート(質や速さ)を上げていくことなんです。同じように大切なのは、みんなからの意見を集めるHPやハッカソンのような市民主導のもの。これらは新しいデザインの民主主義です。立場の違う人たちが、共通の価値観を持つことで繋がることができます。デジタル技術を使った民主主義は、これまでの世の中を超えることができると、私は考えています」
■緊張する中国との関係について…「台湾海峡で起こっていることを理解することは大事」
どんな小さな声にでも耳を傾けるという改革を、デジタル技術を使って進めてきたオードリーさん。
そんなオードリーさんに、中国との関係についても聞いてみました。
4月の日米首脳会談では、約半世紀ぶりに共同声明に台湾情勢が盛り込まれ、これに対し中国側は「内政干渉だ」と強く反発しています。
【吉原功兼アナウンサー】
「中国の台湾にむけた発言もあるようですけど、どう受けてらっしゃいますか?」
【オードリー・タンさん】
「(中国の姿勢は)長いことそうですよ」
【吉原功兼アナウンサー】
「ことし4月の日米の共同声明で、台湾に触れられていますがどう感じていますか?」
【オードリー・タンさん】
「台湾海峡で何が起こっているかをみんなが理解することは大事だと思います」
■「IQ」よりも大切な「EQ」…心の知能指数
台湾では、IQの高さよりもEQと呼ばれる「心の知能指数」を大切にする文化があります。
人前で誰かをののしるような行為は、「感情をコントロールできていない」、つまり「EQ・心の知能指数」が低いとされます。
オードリーさんにインタビューを重ね、著書「オードリー・タンの思考」を書いた近藤弥生子さんは、IQ180のオードリーさんも、実はEQも高いといいます。
【「オードリー・タンの思考」の著者・近藤弥生子さん】
「オードリーさんの魅力ってIQだけじゃないですし、ご自身は、成人してからのIQは特に意味をなさないって公言している。大切なのは、オードリー・タンさんみたいに天才にはなれなくても、1人1人が心の中で、オードリー・タンさんのような考え方できるようになること。自分の中に小さいオードリーさんがいれば、社会はもっといい方向に進めるし、より良い日本になるんじゃないかな」
■「コロナが世界をつなげた」…ポスト・コロナ社会の「ニューノーマル」とは“グローバルな団結”
ポスト・コロナ社会は、まさしく「ニューノーマル」な世界。
この「ニューノーマル」について、オードリーさんに聞きました。
【オードリー・タンさん】
「ニューノーマルの非常に大切なことは、”ネイバーフッド“つまり”近所”の定義が変わったことですね。これまでは、近くにいる人との心の距離が近かったですよね。でも今はコロナウイルスという同じ危機に直面したことで、世界のほかの国に住む人のことも、近くに感じられるようになったと思います。コロナが世界中の人々をつなげたんです。ちょうどこのリモートインタビューのように、コロナが世界の人々をつなげ、あたかも“近所”であるかのように接することができる。それは、今後の社会課題を共有しているからですね。 “近所”の範囲が広がることつまりグローバルな団結が、重要なニューノーマルだと思います」
最後に、日本へのメッセージについて聞きました。
【オードリー・タンさん】
「まずは日本の皆さんの長寿と繁栄を祈ります。なぜ長寿なのかというと、長生きすると人として成熟し、若い人を信頼できる人になれますよね。世代を超えた団結をしてくださいというのが私のメッセージです。世代を超えた団結さえすれば、誰も取り残さない社会をつくるアイデアが生まれるんです」
(カンテレ「報道ランナー」 “Hello!ニューノーマル よのなかラボ” 5月6日放送)
■【取材後記】 オードリーさんの「懐の深さ」…ITを人のために使う可能性
日本では「会いに行けるアイドル」なんて言われ方をしますが、「会いに行ける大臣」がいることにまず驚きました。
日本と台湾、距離は離れているのに、とても近くに感じられました。
そうさせたのは、リモートという技術ではなく、オードリー・タンさんの懐の深さなのではないかと思います。
市民の声を拾うために定期的に子どもや年配の方と話し合い、民意と常に向き合っているオードリーさん。
だからこそ、「台湾の人」とか「日本人」という枠組みを超えて、迎えていただけたのだと思います。
これこそが、新しい時代の政治家の姿ではないかと感じました。
オードリーさんと対談をして感じたことは、政治は刻々と変わる民意を反映することが何よりも大切だということです。
日本の民主主義において、民意を問う選挙は4年に1回、6年に1回というのが当たり前だと思っていましたが、デジタル技術を使えば、敏感に、迅速に民意に反応し、政治を変えられる。
人がITに支配されるのではなく、ITを人のため、幸せのために使う可能性を感じました。
(関西テレビ放送アナウンサー・吉原功兼)