外国人観光客が姿を消した京都。
三条商店街のすぐそばにあるホテルも、去年4月、オープンからわずか2か月で休業を余儀なくされ、再び営業することはありませんでした。
設備がそのままの状態で置かれたホテルに…3月3日、なぜか星野リゾートのスタッフが。
【星野リゾート OMO京都エリア 総支配人 唐澤 武彦さん】
「京都の観光自体を新しい観光に作っていくくらいの気持ちでやっていければいいんじゃないかなと思っています。」
「星のや」などの旅館やホテルを日本全国で運営する「星野リゾート」。
都会の喧騒から離れた場所でゆったりと過ごす、高級感溢れる施設が人気です。
今回、休業したビジネスホテルの再生を担うことになったのですが、そこにはどんな狙いがあるのでしょうか?
【星野リゾート・星野佳路代表】
「ビジネス客ではなく、都市観光がターゲット。周りの地域の店、文化、楽しみをひとつのリゾートとして捉える、その違いを出していくことで、競合他社との差別化が明確になってくる」
新たにオープンするのは、関西初進出となる低価格ブランド「OMO」。
目玉は、従業員が「OMOレンジャー」と称して、無料で周辺を案内するツアーです。
開業スタッフの1人、今江いづみさん(26)。
入社4年目にして、「OMOレンジャー」に抜擢されました。
【星野リゾート OMO5京都三条 今江いづみさん】
「京都はたくさん美味しいものがあるので、いろいろ食べてしまって太ってしまったので、最近早歩きで帰っているのと、銭湯に行くようにしていて、きのうも行きました。皆さんぜひ一緒に行きましょう。よろしくお願いします」
2020年まで山口県の高級旅館に勤めていましたが、大阪出身で学生時代に京都に住んでいた経験から、「地元の都市観光に携わりたい」とここでの勤務を希望しました。
しかし、これまではフロント業務などが中心で、ガイドをした経験はありません。
―開業まで3週間―
この日、総支配人を前にして、近くを流れる“高瀬川”の歴史を伝えるツアーの練習をしますが…。
【今江さん】
「京都の…伝統工芸品が発展するきっかけにもなったといわれていますし物資がたくさん来ることで…あの…」
【唐澤総支配人】
「ここでいったんあれしますか、1回目のフィードバックしましょうか」
唐澤さん、見ていて気付いたことがありました。
【唐澤総支配人】
「キャラ設定、今江さんのキャラがどんなキャラでご案内します、っていうそこの入り口のところ」
京都には奥深い歴史が山ほどありますが、ただ説明するだけでは面白くありません。
【今江さん】
「ずっと温泉旅館で働いていて、どうしてもゲストを前にするとその時の癖が出てしまうと思っていて、あまりユーモアを意識して接客してこなかったので、そうですね、頑張りたいなと思います」
OMOレンジャーが紹介するのは、街の歴史だけではありません。
一見では入りにくいような店も紹介します。
【今江さん】
「この間買わせてもらって、すごい小さいけど作りが精巧で」
ここは、知る人ぞ知る創業400年の縫い針の専門店です。
紹介する店は、すべて自分の足で見つけていきます。
【石黒香舗 石黒史絵さん】
「観光客の方も激減しましたし、星野リゾート様を通じて当店の魅力も発見していただけたらなと思います」
集めた情報は「ご近所MAP」としてホテルの中で表示します。
コロナで遠方への旅行を控える傾向がある中、京都に何度も来ている近場の人でも楽しめるように、いかに地域の魅力を掘り起こせるかが、カギを握ります
今江さんがこの日向かったのは古本屋。
【今江さん】
「私は物知りキャラでやろうと思っているので、本をたくさん持っていて、途中で調べたりしたらおもしろいかなって、本を探してます」
もともと歴史が好きだったため、物知りキャラとして、ツアー客の質問に何でもこたえられるガイドになろうと考えました。
――Q:一から勉強しようとされてるんですが…どうですか?
【古本屋の店主】
「京都は若干奥深いんですのでがんばってください」
自分らしいキャラクターを作ることができるのか、試行錯誤は続きます。
休業していたホテルの改装も、急ピッチで進み、新しいホテルの形が見えてきました。
もともとの設備も生かしたシンプルな客室は、1泊6000円~。
これまでの星野リゾートとは違い、若い世代がメインターゲットです。
―開業9日前―(4/6)
この日行われたのは星野リゾートの社員による“試泊会”、
目の肥えた社員を前に、「物知りキャラ」として、頭にたたきこんだ豆知識を披露していきます。
しかし…
【社員の男性】
「話のピークがどこにあるんだろうと、ツアーのピークが。そこが分かりづらかったですかね」
【社員の女性】
「京都はまじめな話になりがち。ちょっと冗談も交えてみても全然いいと思うんで」
オープン前の最終試験、合格はお預けとなりました。
―開業初日(4/15)―
【星野リゾート OMO5京都三条 マネージャー八十田 香枝さん】
「ほんまに私ら運営していけるんやろか、っていうときから今日まで。本当によく頑張ってくれたと思います。ありがとうございます」
(スタッフ一同)
「今日もよろしくお願いします!」
京都にまん延防止措置が適用され、予約のキャンセルも出ましたが、万全の感染対策をとって、客を迎え入れます。
【今江さん】
「皆さまお揃いでしょうか」
「開業して初めてのOMOレンジャーということで皆さんにOMOの眼鏡をお配りしております」
この日ツアーに参加した多くが京都府民。
京都をよく知る人たちを前に、緊張のデビュー戦です。
【今江さん】
「実は私、レンジャーの中でも歴史に詳しい物知りキャラでやっておりますので、ここでちょっと物知りっぽい眼鏡をかけます。ダブル眼鏡になっちゃうんですけども、」
今江さん、お茶目さを出すため、「小道具」を用意していました。
高瀬川を中心に、町の歴史や周辺の名店を紹介していきます。
(今江さんによる案内)
「おすすめのお店で一口わらびのお店で、中にあんこがぎっしり入っていてとてもおいしいレンジャーおススメのわらびもちのお店です」
「先斗町という名前、普通の日本語の読み方じゃない気がするんですが、由来ってご存じだったりしますか?」
「太鼓に見立てて、高瀬川という川(皮)と、鴨川という川(皮)に挟まれた通りなので、太鼓の様ですよね。たたいて頂いていいですか?(ツアー参加者が叩くと…)『ポン!』とちょう…という説もございます。このためだけに太鼓持ってきました」
【今江さん】
「戻ってきましたー!ただいまー!おかえりなさーい」
【ツアーに参加した京都に住む大学生】
「いつも何も考えずに通り過ぎてたけど、よくよく話を聞いたらそういう意味があったんだと」
――Q:.星野リゾートに泊まったことは?
【ツアーに参加した京都に住む大学生】
「なくて、ずっと星野リゾートに泊まりたくて、念願の星野リゾートって感じで」
【ツアーに参加の京都・桂から来た人】
「わかりやすくて、とてもよかったです。星野リゾートをしょっちゅうあちこち行ってるからどんなんかなと。(今までは)名所・観光地ばっかりやったけどな、裏道がまたいいやんね」
京都府民のお眼鏡にもかなったようです。
【今江さん】
「今日やってみてああいうもの(小道具)があったほうが反応して頂けたので、有効だったなと、太鼓もいい音がなってよかったです。意外と年齢層高めの方もいらっしゃることが分かったので、太刀打ちできるような知識と経験を増やしていければと思いました」
星野リゾートは休業したホテルなどを活用し、ことし、三条以外にも2つのOMOをオープンさせます。
観光の本格的な復活を見据え、スタッフたちは、個性を生かした“OMOてなし”を磨いていきます。