福島第一原発にたまり続けている「処理水」。
政府は4月、この「処理水」について海洋放出することを決定しましたが、地元の漁師を中心に、風評被害が避けられないと強い反発を受けました。
関西テレビは、この問題について、地元テレビ局のスタッフに取材。
聞こえてきたのは、「この問題を福島県だけに押し付けないで」という切実な声でした。
関西テレビのスタジオと中継で結んだのは、同じフジテレビ系列の福島テレビのスタジオです。
話を聞いたのは、夕方のニュース番組を担当している豊嶋キャスター、瀬谷デスク、小野田記者の3人
福島第一原発の事故と向き合い続けてきた地元のテレビ局の想いを聞きました。
【関西テレビ・新実彰平キャスター】
「海洋放出決定となった時の受けとめはいかがでしたか」
【福島テレビ・豊嶋啓亮キャスター】
「率直に、一番は対策ってどこまで出来るんだろうというのが一番大きくて、これにつきまとうのって風評なんですよね」
政府は4月13日、福島第一原発にたまり続けている処理水の海洋放出を決定しました。
ほとんどの放射性物質を取り除いた上で、残ったトリチウムなども国の基準を下回る濃度に薄めて放出するとしましたが、地元の漁師を中心に、風評被害が避けられないと強い反発を受けました。
【関西テレビ・新実彰平キャスター】
「すごく難しいところなんですけど、海洋放出自体についての、福島テレビさんの伝え方はどのようになっていますか」
【福島テレビ・瀬谷健太デスク】
「海洋放出することに関しては、やむなしというのが私たちのスタンスとしてはありますね。というのは、漁業者の方が心配する風評が発生してしまう恐れは否定できないことだと思うんですけども、処理水の処分を進めることがというのが、第一原発の廃炉を進める上では必要だということがまずあって」
【福島テレビ・豊嶋啓亮キャスター】
「私たちが一番守りたいのは漁業者のみなさん、これはどうしても守りたいです。私たちの報道を通してなんとか守っていきたいという意識は凄く強いです。そのために私たちが何が出来るかというところで、国と東京電力のデータ、そういったものを信じてトリチウムの安全性を伝えるということ。これは本当に信じるしかないですよね」
■風評被害を防ぐには…地元テレビ局が注目する大阪府・吉村知事 海洋放出について「日本政府から要請があれば大阪でも真摯に検討したい」
福島県の風評被害をどう防ぐのか。
福島テレビは、そのヒントが大阪にあると考えていました。
【福島テレビ・豊嶋啓亮キャスター】
「福島と東電と国の三者の問題みたいになっちゃっているのが、なんとかならないのかなと常に思っているので、そこは吉村知事のお話の部分は具体的に丁寧に伝えていければなと」
福島のテレビ局が、吉村知事に注目する理由はこの発言にあります。
【大阪府・吉村洋文知事】(4月13日)
「日本政府から正式に要請があれば、大阪においても真摯に検討したいと思います。福島だけの問題じゃなく、日本全体の問題だと思います」
処理水の海洋放出決定後も、これまでと変わらず大阪湾での放出の可能性に言及した吉村知事。
この発言を、福島テレビはどう受け止めていたのでしょうか?
【福島テレビ・豊嶋啓亮キャスター】
「福島のことを見てもらってるというのが嬉しかったです。先ほど新実さんもおっしゃったように、私たちが伝えられる範囲は200万人弱の福島県民だけなので、どうしても全国のみなさんにこの思いを伝えるのは非常に限定的な部分がどうしてもあるじゃないですか。大阪湾に流すとか東京湾に流すとかそういうことではなく、なによりも全国民が、このトリチウム水、処理水が福島で海洋放出されるということについて、関心をもってもらうところにしっかり行き着いてほしいなと思うんですよね」
【福島テレビ・小野田明記者】
「徹底的に色んなことを知ってもらいたいですし、色んな意見交換をしてもらいたいですし、本当にこれからまだまだ続く問題なので、福島のことを忘れずに、知ってもらい続けたらなというふうに思います」
ただ、吉村知事の発言ついては様々な意見があり、大阪府漁連は「新たな風評被害につながる恐れがある」として正式に抗議しています。
■「処理水」とは…福島第一原発事故前は、日本全国の原発から、あわせて年間380兆ベクレルが放出
ここで問題となっている処理水とは何なのか。
福島第一原発では、核燃料が溶け落ち、金属などの構造物と混ざり合って冷えて固まった「核燃料デブリ」に冷却水を注いできました。
建屋に流れ込む雨水や地下水もあり、放射性物質を含む汚染水が大量に発生します。
汚染水はアルプスと呼ばれる施設で浄化されるものの、放射性物質「トリチウム」だけは取り除くことができません。
このトリチウムを含んだ処理水が施設内のタンクにたまり続けていました。
トリチウムは自然界にも存在し、ごく弱い放射線を出します。
体内には濃縮しないとされています。
また、トリチウムを含んだ水は、国内外の原発で放出されています。
福島第一原発事故の前は、日本全国の原発から、あわせて年間380兆ベクレルが放出されていました。
また韓国の月城(ウォルソン)原発では、年間140兆ベクレル放出されています。
福島第一原発のタンクには2019年の時点で、約860兆ベクレルがたまっていますが、政府はこれを十分に薄めた上で、30~40年かけて流すとしています。
■福島県以外でも、原発から出る「トリチウム」…原発の立地地域・福井県の人々の複雑な思い
福島テレビのインタビューの中で、瀬谷デスクから「稼働中の原発周辺の漁業関係者・魚を買う人は“トリチウム水“をどう見ているのか」という質問を受けました。
実際に、今も運転している原発がある福井県を取材しました。
【関西テレビ・新実彰平キャスター】
「福井県にやってまいりました。私の後ろに見えている、あの半島の先端のあたりに大飯原子力発電所があります。そこから8キロぐらいしかはなれてません、小浜市です。大飯からもトリチウム水は例外なく流れているわけですけども、福井県の方はそれをご存知なのか、ご存知であればどんなことを思ってるのか、聞き方すごく難しいんですが、率直に聞いていきたいと思います」
【関西テレビ・新実彰平キャスター】
「福島県の原子力発電所の処理水が流れるというニュースはご覧になってます?安全だとされてる水だけど、風評被害が懸念されてるじゃないですか、あれってどうご覧になってますか」
【小浜市民・女性】
「怖いなと思いますよね」
【関西テレビ 新実彰平キャスター】
「福島県でこれから流れるトリチウムは、福井県で普通に動いてる原子力発電所からも、同じく出ていることはご存知ですか?」
【小浜市民・女性】
「そこまでは私は知らない。」
【関西テレビ 新実彰平キャスター】
「福井でも流れてるというのはそんなに今聞いても気にならないですか?例えば魚買うのどうしようかなということにはならないですか?」
【小浜市民・女性】
「それはあんまり。普通に食べてますね。(福井は)ちゃんとしてるので、と思うんやけど」
【別の小浜市民・男性】
「(トリチウムが福井でも流れてるのは)知らんかった」
【関西テレビ 新実彰平キャスター】
「人体に害のないものだとは言われてるんですよ、その辺どうですか?」
【別の小浜市民・男性】
「まぁ日本政府のいうことですさかいな、100%信じることはできんわな」
【別の小浜市民・女性】
「タブー的なところ、ちょっとあると思うんです。でも関心持つべきことではあると思いますけど、それが安全で風評被害があるということも事実として、(知るのは)必要だと思うし、家族で考えるというも大事だと思うし」
街頭でインタビューを行った市民全員が、福井の原発からもトリチウムを含んだ水が流れていることを知りませんでした。
一方で、漁業関係者はどう見ているのでしょうか?
小浜漁港で取材を試みましたが、風評被害に繋がる懸念があるとして、ほとんどの人にカメラの前でのインタビューには応じてもらえませんでした。
【漁師・男性】
「トリチウムが安全で、福井県でも流れているのは知っている。これまでも気にせずにずっと漁はやってきた。ただ、新型コロナの影響で魚の値段が下がってしまっていて、新たな風評被害に繋がるかもしれない話題については、どうしても今はお答えすることができない」
【鮮魚店経営・女性】
「こっちでも流れているのは初めて聞いた。でも福井でも流れているなんて言われるとかえって迷惑です」
魚を扱う地元の店からは、こんな声も…
【関西テレビ・新実彰平キャスター】
「テレビでトリチウムは全国の原発でも流れてるんですよみたいなことを日々いう訳じゃないですか。福井でもそうなのかと思ってしまう人が出てくるかもしれない、といった不安はないですか」
【魚加工品店・女性】
「それは出てくると思いますけど、現実離れしてるから、そこまで(不安は)深く感じないですね」
【関西テレビ・新実彰平キャスター】
「福島のことを思えば、福井でも流れているとお伝えしたほうが福島はありがたいじゃないですか。でも逆に福井の新たな風評被害を生んでしまうんじゃないかとか考えると…」
【魚加工品店・女性】
「それもあるけど、でもそんなこと言ってたら前に進まないよね」
【関西テレビ・新実彰平キャスター】
「じゃあある意味、福井でも流れているというのは声を大にして?」
【魚加工品店・女性】
「それはええんちゃいます。そこまで毛嫌いはしませんよ」
事実を知ることで、福島県以外の原発立地自治体にも風評被害が及びかねないリスクは間違いなく存在します。
そして、そうした風評被害を防ぐために、科学的根拠に基づいた正しい情報発信する必要性もあります。
しかし、その情報発信の元となるデータを出す、政府や東京電力への不信感を感じている人がいるのも事実です。
この不信感を払拭するためにも、国や東京電力には、徹底した情報公開が求められるのではないでしょうか。
(カンテレ「報道ランナー」5月3日放送)