“第4波”を受け、過去にないスピードで重症患者が急増し、「医療崩壊」が目前に迫る大阪。
大阪府が確保する224床の重症病床が、近い将来、ほぼ確実に満床になります。
最前線の皆さんが抱いている危機感を取材しました。
■「本来、重症患者に対応する病院で行われるはずの治療」を迫られる恐れ…中等症対応の病院が抱く危機感
【新実彰平キャスター】
「十三市民病院です。ちょうど今から1年ほど前、新型コロナを受け入れる専門病院となりました。この1年で1000人ほどの(4月12日時点で1006人)新型コロナ患者を受け入れてきたんですが、この第4波の脅威、どのように受け止めているのでしょうか」
大阪市淀川区の十三市民病院では、呼吸不全で酸素投与が必要な中等症患者を中心に受け入れています。
確保している70床のうち、4月12日時点で54床が埋まっています。
【十三市民病院 西口幸雄院長】
「急変した人の情報などを聞くんです」
この病院で指揮をとる西口幸雄院長です。
毎朝、特に注意が必要な患者の報告などを受ける巡回に同行させて頂きました。
【新実彰平キャスター】
「87っていう(数値)は酸素(飽和度)ですか?」
【十三市民病院 西口幸雄院長】
「看取りの人ですね。悪くなっても…望まない」
ある90代の女性患者は、重症化しても転院を望まないため、ここで最大限の治療を続けます。
まさに最前線の日常を目の当たりにしました。
現場で戦う人たちは、この第4波のこれまでとの “違い”を肌で感じています。
【臨床工学技士】
「今まで40代で、うちで酸素(投与)はそんなに使ってなかったんですね。それが実は来たときにはすごく悪くて、すぐ酸素(投与)をしないといけない状態だったりとか、そこから転院するまでが1日2日っていう状況、早いですよね」
【新実彰平キャスター】
「中等症でもしんどいじゃないですか。40代50代でも増えている?」
【臨床工学技士】
「増えてますね」
大阪府が4月7日に示したデータによると、第4波では第3波と比べて、50代以下が重症化する割合が高く、また、重症化のスピードが早くなっているというのです。
拡大している変異ウイルスの影響が大きいと考えられます。
そんな中、最も恐れている事態が近づきつつあります。
【臨床工学技士】
「転院(要請)かけたが、とってもらえずで」
【看護師】
「(酸素投与)5リットルで転院要請だけど、10リットルでも受け入れてくれない」
【臨床工学技士】
「ドクターサイドでも、いま転院はするなと言われてるみたいです」
【十三市民病院 西口幸雄院長】
「気にせず要請してください。できないと言っているんだけど…」
【新実彰平キャスター】
「(酸素投与)5リットルで、重症受け入れ病院に任せたい?」
【十三市民病院 西口幸雄院長】
「一般的にはね。厚労省もそう指導してるんですよ。中等症の病院で挿管は大変なんですよ」
本来、重症患者に対応する病院で行われるはずの、人工呼吸器を装着しての治療を迫られる恐れがあるのです。
中等症に対応する十三市民病院には、集中治療の経験を積んだ医師や看護師が少なく、これまでの新型コロナウイルス患者にはまだ施していません。
【十三市民病院 西口幸雄院長】
「挿管して呼吸の管理はできても次の手を打てない。そこまで要求されればどうしようもない。集中治療できる病院なら、次の手はいっぱいある。中等症受け入れ病院は、悪くならないような色んな手段はできるが、悪くなった後は手段がありませんので、患者にとって不幸じゃないですかね」
大阪府ではすでに、十三市民病院よりも規模の大きい24の中等症受け入れ病院に対し、患者が重症化した場合も2人程度は転院させずに治療を継続するよう、緊急要請を出しています。
ここまでしなければならないのは、重症患者の数が、確保していた病床を超えることがほぼ確実になっているからです。
■大阪府から更なる重症病床確保の要請も…「救急潰してしまうと、心筋梗塞などの患者受け入れられない」重症者受け入れ病院の危機感
【近畿大学 東田有智院長】
「これは完全に指数関数的。予想以上なんですね我々も」
現在、確保している10床が全て埋まっている近畿大学病院。(4月12日時点)
4月上旬、大阪府からさらに5床以上確保するよう緊急の要請がきましたが、これ以上増やすと、高度な救急医療などに深刻な影響が出てしまう恐れがあるといいます。
【新実彰平キャスター】
「一般のコロナに関係のない方にとってどのような影響が出るのか、具体的には?」
【近畿大学 東田有智院長】
「心筋梗塞、脳卒中といった疾患は、いつでもどこでも診られるわけでない。ここの救急潰してしまうと、その患者を受け入れられない。時間との戦いなんですね。すっと入れば助かるような命、これを落としますよ」
現実味を帯びる、医療崩壊の危機。
病床のひっ迫を少しでも緩和する手段はないのでしょうか?
■コロナ患者を入院させる“最後の手段”も想定…「後方支援」を担う病院の危機感
東大阪市にある東大阪生協病院。
【東大阪生協病院 橘田亜由美院長】
「入院患者がベッドで搬入できるエレベーターですが、1つしかない」
【新実彰平キャスター】
「1基しかないと、動線分けられる選択肢はもうない?」
【東大阪生協病院 橘田亜由美院長】
「ないですね」
病院の構造上、一般患者との動線を分けられないため、コロナ患者の受け入れはしていません。
一方で…
【東大阪生協病院 橘田亜由美院長】
「第3波以降は、ポストコロナを積極的に受け入れましょうという体制をとっている。治療した後も、しばらくは息切れや呼吸困難感続く方がいますので、残った症状への対応と、リハビリをして職場や地域に帰って頂く」
新型コロナウイルスは発症後10日が経過すれば感染力がなくなるとされていますが、第3波のときは、15日を超えても入院が続くケースが多く、病床ひっ迫の要因となっていました。
この病院では、退院基準を満たした患者を受け入れたり、感染の疑いがある人のPCR検査をおこなったりすることで、大阪のコロナ対応を後方支援しているのです。
しかし、取材の前日、こんなことがありました。
【東大阪生協病院 橘田亜由美院長】
「発熱があるということで発熱外来に来られたら、呼吸が少し苦しくて、CTをとったら両肺に中等症、かなりひどい肺炎があったと」
【新実彰平キャスター】
「何歳くらいの方?」
【東大阪生協病院 橘田亜由美院長】
「20代前半ですね」
【新実彰平キャスター】
「20代でも中等症で発見された?」
【東大阪生協病院 橘田亜由美院長】
「当院でも初めてのケースです」
発熱があり、PCR検査をしたところ陽性が出た20代前半の患者は、すでに入院が必要な中等症でしたが、入院調整を行う大阪府のフォローアップセンターからは、一時、この病院に入院させるよう言われたといいます。
【東大阪生協病院 橘田亜由美院長】
「重症患者の受け入れ先に手を取られて、中等症患者の受け入れを探すのができないので、とりあえずここに入院してみてくださいと。強いご依頼でした」
最終的にはなんとか転院してもらうことができましたが、あくまで“後方支援”をするはずの病院でも、患者を入院させなければならない事態がすぐそこに来ているのです。
高齢の患者が多く、クラスタ―になった時のリスクをはらみながらも、いざというときには病棟の奥の病室をつぶして入院させる“最後の手段”を想定しています。
【新実彰平キャスター】
「最悪の事態の想定は想像でなく目の前に?」
【東大阪生協病院 橘田亜由美院長】
「このまま(感染者数が)減らずに増えていったら、どうにも(転送先が)見つからないという事態はそう遠くない。入院受け入れをどうするんだと迫られると想像してます」
それぞれの役割を担いながら、1年以上に及ぶ長い戦いを続けている医療現場。
迎えてはならない医療崩壊が、今まさに迫っています。
(カンテレ「報道ランナー」4月12日放送)