認知症など精神疾患のある、新型コロナウイルスの感染者は、特別なケアが必要となります。
一般の病院では診ることが難しい患者を、どのように受け入れていくべきなのでしょうか。
大阪府寝屋川市の精神科病院「ねや川サナトリウム」。
精神疾患がある新型コロナウイルスの感染者を受け入れています。
去年12月から40人を診てきましたが、その半数は認知症です。
看護師が夕食を運んでも…
【認知症のコロナ患者】
「朝からご飯は食べないから、パン食やから」
【看護師】
「今は夕食やから、食べてね」
朝と夜を勘違いし、食事をしようとしない女性。
【看護師】
「ご飯食べるよ」
【認知症のコロナ患者】
「おなか空いてないのよ、朝から食べられへん」
【看護師】
「朝じゃないよ、いまは夜。夕食やから食べといて」
【患者】
「夜なん…」
看護師は、患者を落ち着かせるためにできるだけ会話をしながら、全身の症状を確認していきます。
認知症などの患者は自らの症状を訴えることが難しいため、看護師が1日4回、こまめに体温や血液中の酸素飽和度を測定します。
【看護師】
「37.5度あるね…ちょっと熱があるみたい」
【認知症のコロナ患者】
「ありますか?」
【看護師】
「体はしんどいことない?」
【認知症のコロナ患者】
「元気すぎて困っています」
マスクの着用など、感染対策をすることができない患者が多く、動き回って周りに感染を広げてしまうおそれもあります。
そのため、たとえ無症状であっても、ホテルや自宅での療養が難しいのです。
【「ねや川サナトリウム」・長尾喜代治センター長】
「高齢者住宅であれば、他の部屋に入ってしまったり、家で生活している人なら外を徘徊していってしまったりとか、そういうことで周りに感染を広げてしまうリスクがあるということで来る方が多かった」
■デイサービスで感染した女性…“徘徊”繰り返し一人で自宅待機できず
2月中旬に、ねや川サナトリウムに入院した認知症の女性(85)。
数年前から、徘徊を繰り返していました。
【認知症の女性の長女】
「靴に電話番号を書いたり。迷子になっていたので」
認知症の女性は、夫を亡くしてから1人暮らし。
近くに住む長女が朝と晩は見守っていますが、長女が仕事に行く日中は、高齢者施設のデイサービスなどを利用していました。
しかし、施設で一緒に過ごしていた人が陽性になり、女性も感染が確認されました。
【認知症の女性の長女】
「(徘徊するため)家にはやっぱりいられない。すぐに出ていってしまうので、家では絶対にみられない。受け入れ先があるのかと」
入院先が調整できるまで3日間の自宅待機中は、長女がつきっきりで徘徊を止めていました。
【認知症の女性の長女】
「(保健所から)『濃厚接触者になっていただいて、お母さんを家にとどまらせるように』と言われた。」
「母はじっとしないので、新聞受けを見るという理由で玄関まで行っていたり。(保健所と)電話していたら、隙を狙って行く」
「どうしたらいいのやろ、どうしたらいいのやろという不安な気持ちしかなかった」
女性はその後、ねや川サナトリウムに入院。
長女は幸いにも感染はしませんでした。
【認知症の女性の長女】
「ねや川サナトリウムみたいなところがあって、本当に良かった」
「認知症のうえのコロナの患者ということを分かってもらうところがたくさんあれば、助かると思います」
■受け入れ先の精神科病院は府内に数カ所…クラスター発生時の対応は?
大阪府では2月末までの時点で、認知症などの精神疾患の感染者を受け入れられる精神科病院が数カ所に増加しています。
しかし今後、大きなクラスターが起きた場合に対応できるかが課題になっています。
【大阪府「入院フォローアップセンター」・浅田留美子センター長】
「精神科病院で病棟ごとクラスター起こしたりすると、いっぺんに何十人の人が陽性になってしまう。そういったときには数十人単位で一気にどこかに入院させられるかと言われたら、それは難しい」
大阪府は感染の再拡大に備え、精神科病院の病床を増やすべきかどうか検討しています。
しかし、コロナ専用の病床をつくるスペースの確保や、看護師の不足が課題になっていて、病床を増やすのは簡単ではありません。
【「ねや川サナトリウム」・長尾喜代治センター長】
「私たちの病院では(コロナ病床は)6床」
「満床になることもあるが、一方で、介護の度合いとか病状が悪い場合は、4床までで受け入れを止めることもある。スタッフの状況によってもベッドのコントロールはしている」
入院していた認知症の女性の容体に変化がありました。
当初は無症状でしたが、37.5度以上の発熱が続くようになり、胸のCT検査などを行うことになりました。
検査の結果、女性の胸には肺炎像が見られましたが、その範囲は一部にとどまっていて、呼吸には問題がないと診断されました。
【「ねや川サナトリウム」長尾喜代治センター長】
「思っていたよりよかった。そんなに悪くなくてよかった」
「外から見ている感じと、実際の検査の結果が全然違う人が今までも多かったので、本当にわからないです」
その後、女性の容体は落ち着き、退院することになりました。
【認知症の女性の次女】
「元気でなにより」
【認知症の女性】
「ごめんな、いつもお世話ばかりかけてごめんなさい」
同じ日、ねや川サナトリウムには、新たなコロナ患者が運ばれてきました。
利用していた高齢者施設で感染したということです。
感染の再拡大に備え、患者の症状に応じた医療体制を作っていくことが求められています。
(カンテレ「報道ランナー」3/22放送)