大阪市西成区。
路地を入って行くと見えてくる赤いテント。
中華料理店を改装した古い建物は、『教会』です。
【メダデ教会 西田好子牧師(70)】
「ヨセフは探しまくった。何をか、宿屋です。子供産むのに宿屋なかったら、路上では産めんわな。西成の人は路上でも寝はっからな、あんたら寝るわな。西成の女の人が路上で子供産んだのは見たことがない。聞いたこともない」
独特の口調で説教するのは、メダデ教会の牧師、西田好子さん(70)。
集っている信徒はみな、野宿者だったり、罪を犯したりと人生につまづいた過去があります。
西田さんに声を掛けられ、教会にくるようになりました。
かつては”日雇い労働者の街”として知られた西成「あいりん地区」。
バブル崩壊と高齢化で、今では生活保護受給者がずば抜けて多い街です。
西田さんはここで暮らす人のためにメダデ教会を作りました。
【メダデ教会 西田好子牧師(70)】
「わしの人生はこんで終わりや、とみんな思ってる。開き直ってはんねん。違うやろと、生きられるんやと、それが生まれ変わる。変わるんやということを教えてあげたい」
■信徒全員が“生活保護受給者” かつて暴力団員だった男性も『家族』として
西田さんは、若い頃、小学校の教師でした。
たまたま河川敷で出会った野宿者と話をしたことがきっかけで、多くの野宿者を救いたいと思うようになり、教師をやめて、50代で牧師になりました。
そして60歳のとき、ひとり西成で教会をつくりました。
【メダデ教会 西田好子牧師】
「教師は私でなくてもいいねん。ここは私がいなかったらあかんというところに立ってしまってるねん。傲慢で怒られるかもわからんけどな。私、自信を持ってんねん」
メダデ教会の近くにある、家賃約4万円のマンションが信徒たちの住まいです。
約20人いる信徒は、全員が生活保護を受けています。
身寄りがない人がほとんどで、互いに身の回りの世話をしながら”メダデの家族”として暮らしています。
信徒たちは、週3回教会を訪れ、礼拝をしたり、聖書や賛美歌を学んだりしています。
かつて暴力団の組員だったアベマサミチさん。
7年前、公園でたまたま見かけた、西田さんの説教を聞いてメダデ教会の信徒になりました。
【メダデ教会 西田好子牧師】
「マサミチなんて完全に変わりよったわ。俺はヤクザのトップになるんやってな。金のためならしのぎでも恐喝でも何でもしたし、できた」
「親父の為、組長のためにな、一肌脱いでやろうとな、トラックで組にぶち込みよったよ。パーンと一発かましてさ、それにてお終いや」
アベさんは殺人などの罪で、のべ10年以上を刑務所で過ごしてきました。
【アベマサミチさん(66)】
「この日本一の西成のメダテ教会で、アベも頑張っているから、皆さん達も頑張ってください。よろしくお願いします」
信徒たちの前で力強く話すアベさんも、暴力団を辞めてからは行き場を失っていました。
【アベマサミチさん(66)】
「えらく熱く訴えるおばちゃんがおるなと。こんな世の中でまだこんな熱いことをしゃべるおばちゃんがおるんかなと思ってな。ワシはそんな普通の社会知らんから。その話を聞くうちになんとなく、涙が出てきたんや」
今は、糖尿病でインスリン注射が欠かせません。
ここが、アベさんにとって最後の居場所です。
■突然いなくなる信徒…何度裏切られても「人生を生き直す方法」を説く
西田さんは、毎朝、信徒と買い物に行きます。
信徒のささいな変化に気づくように、顔を合わせるのが大切だと考えています。
生活保護を受けられるように支援しても、ギャンブルや酒で金を使い果たす人もいます。
信徒がそうならないよう、うるさく口出しをしていますが、なかには、嫌気がさしてしまう人もいます。
この日、一人の信徒がいなくなりました。
【メダデ教会 西田好子牧師】
「公園とかに泊まってるかと思ったけど、一応ようさん見てくれたけど、いてない」
これまでに何度も罪を犯してきた男性です。
1人になり、また犯罪に手を染めないよう全員で探します。
【信徒・中嶋秀一さん】
「自分の仲間だから、早く帰ってほしいのもあって。兄弟だから」
2週間ほどして、行方が分からなくなっていた信徒が、マンションに帰って来ました。
【ディレクター】
「みんな桑田さんの事、心配して探していましたよ」
【行方が分からなくなっていた桑田民一さん】
「ええわもう」
【メダデ教会 西田好子牧師】
「ええんか、ほんまに。どんだけみんな探したと思ってる。ええわじゃないで」
【別の信徒】
「めちゃくちゃ探したぞ、はっきり言って」
【メダデ教会 西田好子牧師】
「今までにあんたのために探した人間がいたかって聞いてるんや。あんたを探した人間はお巡りしかいてないやろ。私らはお巡りのために働いたんじゃないで、必死に探したんやで」
「世間はあんたブラックやねん。でも私たちはブラックにしてへんのんや。たった一つの砦をなんであんたが崩すんや」
西田さんが教えているのは、キリスト教だけはなく、「人生を生き直す方法」なのです。
何度裏切られても、決して諦めないのが西田さんです。
■全財産をなげうって『新たな教会』を建設 信徒たちと決意新たに
去年、西田さんは全財産をなげうって、隣の空き地にもう少し大きな、新しい教会を建てることを決めました。
今の教会には、新たな信徒を受け入れる余地がなくなっているのです。
【メダデ教会 西田好子牧師】
「あんまり敷居が高いような、あんまり綺麗だったら入りにくいじゃないですか。入ってくる人は野宿者って思ってますやん。その人たちが入りやすいような、普通に考えてる教会のイメージではない」
この日、新たな教会の建設を記念する式典が開かれました。
西田さんは、この教会を建てる意味を訴えました。
【メダデ教会 西田好子牧師】
「西成だけでいいねん。西成だけでええねん。ここだけでええねん。ここだけを神の国にしいやって言うねん。酒でへたばりよんねん、ギャンブルで狂いよんねん、刑務所にまた入りよんねん、シンナーで狂いよんねん、シャブで狂いよんねん。なんでそいつらを立たせてやろうとせんのんや。それが私たちの仕事や」
【アベマサミチさん】
「ヤクザでてっぺんまで登ってやろうと人殺しまでやった。しかし、これが間違いであったとメダデに来て分かった。僕は今、やくざでブイブイ言わせている奴をメダデに引っ張ってきてやるぞ」
信徒たちは、「生き直す」決意を手紙にして、新しい教会が建つ場所に埋めました。
人は、必ずやり直せる。
どんな人でも受け入れる場所が、ここにあります。
(カンテレ「報道ランナー」3/17放送)