大阪府阪南市にある西鳥取漁港。
漁師20人ほどの小さな港に、長い列が出来ていました。
客のお目当ては、大阪湾で水揚げされた『牡蠣』です。
【購入した人】
「正直、『大阪湾でとれるの?』って思うじゃないですか。この牡蠣を食べるのが楽しみで楽しみで今年3回目なんです」
「身近で食べられる。今までは遠くに行かないといけないという感覚だったが、気軽に食べられるのがいいことだと思います」
この漁港では、5年前に大阪で初めて牡蠣の養殖と販売に成功。
知る人ぞ知る地元の名物として人気を集めているのです。
この日は、約500キロの牡蠣が完売となりました。
■“牡蠣”を大阪湾の新たな名物に! 実は好条件がそろう西鳥取漁港
普段は流し網漁やワカメの養殖を手掛ける組合長の相良康隆さん(57)。
【西鳥取漁港組合長・相良康隆さん】
「魚をとらんでも食べていける漁師がある程度増えれば、お互いに取り合いにならなくていいし、やりがいになるし。そうなるともっと組合盛り上がって人も増えてくるんちゃうかなと」
西鳥取漁港では、年々魚の水揚げ量が減り、収入は減少。
漁師の数も最盛期の半分以下となり、後継者不足に悩んでいます。
そこで相良さんたちは、新しい取り組みにチャレンジした漁港に補助金が出る水産庁の制度を活用し、新たな“名物”を作ることにしました。
地方の漁港を視察する中、目を付けたのが二枚貝の養殖。
比較的管理がしやすく、これまでの漁を続けながら、養殖出来るメリットがあります。
ためしに『あさり』と『牡蠣』を育ててみると、ほかの漁港の人も驚くくらいの、良質な牡蠣が育ったのです。
【西鳥取漁港組合長・相良康隆さん】
「ええ牡蠣が出来たのでびっくりしてるくらい。もっと人が来てくれるんちゃうかなとこれからの夢が膨らんだ」
実は、大阪湾で牡蠣の養殖が成功したのは、奇跡ではありませんでした。
海洋環境学の専門家は、西鳥取漁港だからこそ出来る好条件が揃っているといいます。
【大阪府立大学 海洋環境学専門・大塚耕司教授】
「大阪湾の南の方は海藻にとっては栄養が少ない環境ですが、牡蠣が食べる量のプランクトンは十分にある」
「物理的な条件としては、西鳥取漁港は一文字の防波堤があってそれで牡蠣イカダがきちんと冬の季節風に潰れないような役割になっている。それに並行して潮が流れて、次から次に餌が流れる。これらの条件があるので、いい牡蠣が出来ていると思います」
牡蠣の養殖が成功すると、早速口コミなどで広がり直売所には行列ができるように…。
牡蠣の名前は、西鳥取漁港がある旧波有手(きゅうぼうで)地区にちなんで「ぼうでの牡蠣」と命名しました。
今や地元の飲食店でも、ぼうでの牡蠣をふんだんに使った定食が看板メニューとなっています。
【飲食店に訪れた客】
「身近で牡蠣がとれるって知らないから来て見てビックリで満足しています」
「予想よりは大粒で新鮮で、おいしいですよね」
■小さい漁港から『大阪湾』を盛り上げたい クラウドファンディングも
牡蠣の養殖をきっかけに元気を取り戻した漁港。
地域の子供たちとの交流として、3年前からワカメの収穫体験を始めました。
――Q:新しい風が入ることへの抵抗は
【西鳥取漁港組合長・相良康隆さん】
「最初はありましたよ。魚をとるばっかりの漁師やから」
言葉数は多くありませんが、子供たちを優しく見守ります。
【西鳥取漁港組合長・相良康隆さん】
「やっていて良かった。子供らも楽しいしワカメを手で触って、これから関心持ってくれるんちゃうかな」
そして相良さんたちには、今計画していることがあります。
お客さんが年間通して漁港に足を運んでもらえるようにするための施設を作ることです。
とれたての牡蠣や魚をその場で食べてもらったり、さらに定期的に漁業体験できるイベントなどを計画。
現在クラウドファンディングで資金集めをしています。
【西鳥取漁港組合長・相良康隆さん】
「もっと自分らがとった魚も含めて、みんなに食べていただけるような、みんなが笑顔で漁師しながら色んな人との出会いができたらなと思います」
大阪湾の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたい。
小さな漁港は活気に溢れていました。
(カンテレ「報道ランナー」2/24放送)