兵庫県三田市北部の山間部で、『神姫バス』が1月から、週に2回、乗客と地元でとれた野菜を一緒に運ぶ「貨客混載」と呼ばれる実験を始めました。
新型コロナウイルスの影響で経営が厳しさを増す中、地域とともに、新たな収益源を探す狙いです。
兵庫県三田市の高平地区。JR三田駅から北へ10キロ以上離れた山あいの地域で、欠かせない存在となっているのが、市の中心部へと向かう路線バスです。
【運転手のアナウンス】
「神姫バスをご利用いただきまして、ありがとうございます」
朝や夕方は30分に1本、それ以外は1時間から2時間に1本と、本数は決して多くはありませんが、地域の足として、住民たちの生活を支えています。
【路線バスの乗客(68)】
「目がかすんできて、それまで車だったんですけど、危なかったらいかんから、今バスに乗ってるんです」
【路線バスの乗客(80)】
「(運転)免許はありません。返納しました」
「買い物とか病院とか全て街の方に出ていくしかないんでね。バスがないと、生活が成り立たないですね」
「高齢者にとっては、バスはなくてはならないですね」
一方、乗客の減少に歯止めがかからず、路線の廃止が相次いでいます。
【記者リポート】
「JR三田駅から市の山あいに向かう阪急バスは、4月から廃止されることになりました」
国土交通省によると、路線バスの乗客は、この50年で6割ほど減っています。
2008年度以降10年間で廃止された路線は、約1万3000キロに及び、事業者の約74%が赤字となっているのです。
■バスで“採れたて野菜”を運ぶ JAとタッグで新たな挑戦
こうした中、三田市内を走る神姫バスが、高平地区で新たな試みを始めました。
2月19日の午前10時半ごろ、かごを乗せた台車を押す人たちが、停留所に。
バスが到着すると、そのかごを続々と車内に入れていきます。
かごの中身を聞いてみると…
【高平地区の生産者】
「水菜と白菜とミブナなんです」
この日の朝、収穫されたばかりの野菜です。
神姫バスとJAがタッグを組んで、1月から始めた実験。
通常ダイヤの路線バスに野菜を積んで、10キロほど離れたJAの直売所の最寄りのバス停まで運びます。
午前11時半ごろ、直売所に到着。
すると、生産者に代わってJAの職員が野菜をおろします。
店頭に並べられると、早速野菜を買い求める客の姿が…。
通常より遅い時間の出荷ですが、8割ほどが売れるということです。
【JA兵庫六甲パスカルさんだ一番館・野田浩史店長】
「この時間帯(正午ごろ)になると野菜が減ってくるので、どんどん朝のうちから売れていくので、この時間帯に鮮度のいいものが入ってくることは、お店にも利用者の方とってもいいことだと思います」
野菜のかご1つあたりの料金は、200円から250円と、通常運賃(520円)の半額で、この日の収入は1300円。
これでも実験に取り組むのは、新型コロナウイルスの影響で2020年度の決算が初の赤字になると見込まれる中、路線を維持するため、地域とともに、新たな収益源を探すのが狙いです。
【神姫バス三田営業所・日下直哉所長】
「コロナ禍の中で、新たにもう一度、バス事業としてお客様以外の何か取り組みができるか、新たなサービスができるか、考えていくべき機会、チャンスであるととらえています」
■乗客と“荷物”を一緒に 各地にも広がる『貨客混載』
高平地区では、生産者の高齢化も進んでいます。
車の運転への不安もあり、輸送手段の確保が喫緊の課題となっていました。
83歳の大南幸子さん。
90歳の夫とともに、水菜などをつくっていますが、これまでは自分でバスに乗って直売所まで野菜を運んでいました。
【高平地区の生産者・大南幸子さん(83)】
「運ぼうと思ったら大変ですのよ。なかなか歩いて」
「本当に良かったですわ。本当に時間から何から何まで、経費から何から何まで助けていただいてます」
こうした荷物と乗客を一緒に運ぶ取り組みは、『貨客混載』と呼ばれています。
各地で広がりを見せていて、兵庫県豊岡市では『全但バス』が『ヤマト運輸』と提携して荷物を輸送。
また。京都丹後鉄道が野菜を運ぶ事業を行うなど、鉄道会社にも広がっています。
2019年度には、年間5000万円の補助金を出し、路線バス事業者の赤字を補填してきた三田市は…
【三田市交通まちづくり課・髙寺千寿子課長】
「バス事業者さんには、(乗客の)移動だけではなく、貨客混載であるとか、自動運転であるとか、(乗客の)移動そのもの以外のサービスの提供にぜひチャレンジをしていただいて、地域社会の課題解決にどんどん取り組んでいただきたい。そういったところには、行政も一緒になって積極的に支援をしていきたい」
地域の足を守るために。
苦境にある路線バス事業者の挑戦が続きます。
(カンテレ「報道ランナー」2/23放送)