よく焼けた肌と、おしゃれに遊ばせた髪が目を引く男性。
村田翔一さん(35)は“ねぎ”を生産している農家です。
【村田さん】
「ここからねぎが見える範囲はすべてうちの畑になるんですけど」
周りの人からは…
【農家仲間】「まあ一言で言ったら…イケイケ?」
【社員】「イケイケですね、イケイケ」
“イケイケ”と評される村田さんですが、たったひとりで農業を始めてからわずか3年、年間の売り上げは1億円を超え、従業員30人を抱える企業へと急成長させた、注目の若手農家なのです。
■元消防士から転職3年で急成長…取引先は『全国100件』北海道から沖縄県まで
京都府久御山町にある『ロックファーム京都』。
村田さんの経営する農業法人です。
看板商品は、京野菜・九条ねぎ。
20代から30代が中心となって働いています。
【ロックファーム京都・村田翔一代表取締役】
「土台が悪いと良いねぎができないので、土作りにいちばん力は入れていますね」
近隣の農家にアドバイスをもらいながら堆肥を作り、その日の気候に最適な肥料の撒き方を研究。
しっかりと身の詰まった良質なねぎが育つようになりました。
京都・祇園の料理店も、ロックファームの九条ねぎに太鼓判を押します。
【ぎをん遠藤 遠藤功太さん】
「手間暇かかっているのが見た瞬間わかりますよね。生き生きしてますし。ぴーんと力強い。本人の顔出ますよね、あれを見た時に」
北は北海道、南は沖縄県まで、全国100件におよぶ取引先へ九条ねぎを届けているロックファーム。
ここまで規模を大きくできた秘訣はいったい何なのでしょうか。
村田さんは、実は、元消防士。
実家は代々続く農家でしたが、父親はサラリーマンと兼業で、細々と野菜を育てていました。
休日に畑仕事を手伝ううち、村田さんは農業の魅力に気付きました。
【ロックファーム京都・村田翔一代表取締役】
「農業って、まだまだほかの産業に比べると遅れているとは思うんですよ。なので逆にプラスアルファ、どんどんやっていけば、その業界で勝っていけるというか、勝負でもないんですけど、面白おかしくやっていけるんちゃうかなと」
10年務めた消防士をやめた村田さん。
需要はあるのに、暑い夏に栽培をする農家が少ない九条ねぎに目をつけ、あえて休まず生産を続ける手段をとりました。
しかし、台風で畑が全滅。
そこで、久御山町から北に25キロほど離れた亀岡市にも拠点を構え、リスクを分散することで、1年間途切れることのない供給が実現しました。
【ロックファーム京都・村田翔一代表取締役】
「わざわざ高速乗って30分かけて行く人がいいひんっていうのは思ってましたけど。通常、農家さんでいうと、出せなくなったらそこで出荷をストップしたら済むんですけど、僕らはいろんなお客さんがいる中で、年間通して供給する義務があるんで」
関東の百貨店などへ京野菜を卸す会社「トレード」には、ほぼ毎日ロックファームのねぎが届けられます。
【「トレード」ブランド野菜事業部・石飛賀津也係長】
「他の地域にも畑持つ方ってなかなかいらっしゃらない。ある程度の規模で安定供給されて、品質も高く保っていくとなると、なかなかうちの契約の方も200件以上いらっしゃるんですけども、本当に一握りの方しかできない」
■若者が農業を志し全国から…「舞妓×トウモロコシ」など若手農家ならではの戦略も
村田さんが力を注ぐのは、味や供給量だけではありません。
この日は、スーパーの店頭で流すためのレシピ動画を撮影していました。
―動画撮影の様子ー
【ロックファーム京都・村田翔一代表取締役】
「さあ始まりました、さむらいクッキング!」
手塩にかけて育てた野菜を消費者に届けるため、農業にもプロモーションが大切だと考えています。
去年の夏に新しく販売した白くて甘いとうもろこしは、舞妓さんの白い肌に見立て「京都舞コーン」と命名。
舞妓さんが畑でたたずむ姿が注目され、即完売となりました。
そんなロックファームには、農業を志す若者が全国から集まります。
北海道で農業を学んでいた坂本さんは、この4月からロックファームへの入社が決まっています。
【坂本哲也さん】
「いろんな大阪の農家さんも見たんですけど、ここが一番印象に残っていて。ホームページのカッコよさとか」
――Q:カッコいいって大事ですか
【坂本哲也さん】
「めちゃくちゃ大事です。農業っていうのはなんかこう高齢者っていうか上の世代がやってるっていう感じなんですけど、30代や20代が率先してやってるって形は珍しいので」
ロックファームは今、次なる商品の開発に挑んでいます。
それは…イチゴです。
村田さんが選んだ生産担当者は2人。
今期それぞれのイチゴを試験的に販売し、購入者の投票でより好評だった方を正式にブランド化する作戦です。
【ロックファーム京都・村田翔一代表取締役】
「誰かひとりにするとその子の能力に固執するじゃないですか。うちもゼロからスタートなんで、どうなるかわからへんというところでいうと、いろんなパターンが見えた方が僕も可能性を感じるというか」
任された担当者の一人、川口さん。
【ロックファーム京都・川口陽平さん】
「下にだらーんと倒れちゃうんで、倒れないようにしてみたり。でもこっちは垂らしてみたり。あとこれ下、容器がプラスチックなんですよ。でこっちが発泡スチロール。どれが一番いいのかっていうのを今年は試す年なので、色んなことをやってみて」
もう一人の担当者、ライバルの廣村さんと、どちらがおいしいイチゴを育て上げるか“真剣勝負”です。
【ロックファーム京都・廣村大樹さん】
「まあ負ける気はしいひんですけどねえ」
【ロックファーム京都・川口陽平さん】
「同じくね。もう勝ちのルートが見えてるんで大丈夫です。向こうの人(廣村さん)よりはカッコよく育てたいなって」
■新商品イチゴに苦戦…「これも勉強」 “カッコいい”農業であり続ける
1カ月後、再びハウスを訪ねてみると、神妙な面持ちの川口さんがいました。
なんと、イチゴの天敵、アブラムシが発生してしまったというのです。
この日はいつもアドバイスをくれる苺農家の長村さんが駆けつけていました。
【おさぜん農園・長村善和代表取締役】
「ちょっとこれはね、対処した方がいいですよ。取った方がいいレベルです」
【ロックファーム京都 川口陽平さん】
「捨てる?丸ごと?」
廣村さんのハウスにも、赤くなりきらないままのイチゴが…。
2人それぞれに苦戦していました。
【おさぜん農園・長村善和代表取締役】
「こんにちは。順調ですか?」
【ロックファーム京都・村田翔一代表取締役】
「順調じゃないでしょ。なかなか苦戦してると思います」
【ロックファーム京都・村田翔一代表取締役】
「まあ最初やし仕方ないかっていうところですけど、これも勉強で。まあその分成長してくれるやろうし。うちの廣村が」
【ロックファーム京都・廣村大樹さん】
「めっちゃムズイっすね。なめてました…楽勝や思ってましたね」
来年度の販売に間に合うように、早速反省会です。
【ロックファーム京都・川口陽平さん】
「これの雑草は絶対ダメやって。これアブラムシめっちゃ好きなんですって」
みんなが生き生きと働く“カッコいい”農業でありたいと、村田さんは考えています。
【ロックファーム京都・村田翔一代表取締役】
「今後は若い世代の子たちに職業の一つとしてしっかり選択していけるような産業にしていくためにも、“カッコいい”に越したことはないかなというか」
「そこをこだわるというのは、自分が好きでこだわっているんですけど。そこは追及していけたらいいなと思っています」
若手が輝く、これからの農業。
村田さんの目の前には、無限の可能性が広がっています。
(カンテレ「報道ランナー」2/18放送)