『障害があってもおしゃれを楽しんでほしい』と、車いすの人が着やすい服を作る元美容師の男性がいます。
自治体のトップも巻き込み、叶えようとする大きな夢とは?
■「おしゃれは諦めた・・・」”車いすの人”の言葉がきっかけに
【奥田ののさん】
「プリーツこのままで、上だけレザーとか。ムートンレザーとか柔らかい生地にしてもいいやろうし」
車いすに乗った女性が身に着けているのは、特別な”巻きスカート”の試作品です。
【平林景さん】
「なるほどね、その質感も確かにきれいですね」
奥田さんの意見に熱心に耳を傾けるのは、この巻きスカートの『商品化』を目指している平林景さん(43)。
【奥田ののさん】
「脚の麻痺が重い人で、脚ずれちゃわないようにするベルトがあるんですけど、服でそのベルトが隠れたらそっちの方がおしゃれはおしゃれ」
【平林景さん】
「確かに確かに、そっか、そうやね」
この巻きスカートは、車いすの人でも簡単に身に着けられ、座った状態でシルエットが整うよう、前と後ろの長さを変える工夫がされています。
作ろうとしたきっかけは、かつて車いすの人から「おしゃれは諦めた」という話を聞いたことでした。
【平林景さん】
「『車いすで入れない試着室もあったりするんだよね』って。『誰かの手を煩わせて自分の欲求を満たすのに正直心苦しなってきたんや』って言われて、締め付けられたんです」
男性も女性も、障害者も健常者も、みんなおしゃれを楽しんでほしい。
巻きスカートの名前は『ボトム』と『オール』という言葉を組み合わせ、「ボトモール」としました。
試着した奥田ののさん(26)は、平林さんの活動に共感しています。
【奥田ののさん】
「(これまでは)マイナスをゼロにするとこにまでしか考えてなかったけど、『じゃあもっとおしゃれにしていきましょう』とか『楽しくしていきましょう』とかプラスのとこにって言われると、『今まで言ってなかったけど、本当はこういう服着たいんです』とか『こういう遊びしたいんです』とか言っていけて、すごく心強いなって思います」
デザインだけでなく、着心地にも気を配ります。
【平林景さん】
「やっぱ寒い?」
【奥田ののさん】
「めっちゃ寒いです。動かへんと血行が良くないんで冷えるんですよね」
奥田さんから「冷える」という”生の声”を受けて『服の設計図となる型紙を作る会社』へと向かいました。
【生田アパレルパターン・生田弥衣代表】
「生地を起毛素材にされて、ここの上だけを優しい生地にされたらここ全部暖かいです。無理にこれ1枚にする必要ないですから」
【平林景さん】
「確かに。暖かくてかっこいいっていいですね」
■美容師から一念発起!発達障害の子どもたちを支援する施設を設立
元々は美容師だった平林さん。
しかし、アトピー性皮膚炎に悩まされ、薬剤などに触れる機会が多い美容師の道を諦めざるを得ませんでした。
その後、身近な人に発達障害があることが分かり、一念発起。
発達障害の子供たちを支援する放課後等デイサービスを設立しました。
【平林景さん】
「その時に、僕はどんな施設にしていいのか分からなかったので、そこに通ってたお母さんとかにも色々聞いたんですよ」
「9割以上の方がそろって言っていたのは『明るくて華やかでおしゃれなとこに通いたい』ってことを言われてたんですね」
楽しくて、未来を感じられる場所にしたいと、色彩豊かに作り上げ、個性に寄り添う指導が口コミで広がって、入所を希望する人たちの列が絶えない人気の施設に。
【平林景さん】
「例えば車いすの方だったら、車いすだからこそ知っていることであったり、提案できることがあるんじゃないかなと思って、発達障害に関しても一緒じゃないかなと思うんですね」
「『実はこれ強みにもなるかもしれへんからな、逆に強みやで』って言ってあげられるのかで、子供の未来って大きく変わるんじゃないかなって僕は思っています」
【子供を通わせている山根寿豊さん】
「ものすごくたくさん行った中で、『やっぱここや』と。他にないんですよね、こういうところが。でかい物差し持ってるところに預ける、親じゃ駄目なところって多々あるので」
■夢は”パリコレ”…叶えるため『大阪府知事』に交渉も
2018年「日本障がい者ファッション協会」を設立し、活動に励む平林さんには大きな目標があります。
それは、2021年”秋のパリコレクション”への参加。
車いすのモデルたちとパリのランウェイを歩く夢の実現に向け、ファッションショーを運営するプロ「関西コレクション」に協力を求めました。
関西コレクションは2011年から京セラドーム大阪を舞台にショーを重ね、今年3月に第20回が開催予定です。
【平林景さん】
「今のマイノリティ(少数)とマジョリティ(多数)を逆転させるというイメージで。パンツ、スカート、もう1つの穿き物じゃないですけども、ジャンルでボトモールというのが広がってくれれば」
「関西から発信していけたら、もっと面白いんじゃないかなと思うんです」
【KANSAI COLLECTION・中川康之会長】
「私自身も生まれつき左耳が一切聞こえない。『障害を抱えててもやれるんだぞ』と、『輝けるんだぞ』という強いメッセージ性を込めて、ぜひ一緒に関わらせてもらいたいなと思ってます」
【平林景さん】
「ありがとうございます。やった」
さらに、平林さんは活動の拠点を置く大阪府茨木市の市長とも、強力なタッグを組みました。
目標の実現に向け、フランス領事館や国への働きかけなどで、大きな支援を得ています。
さらに伝手をたどり…ついにこの人の元へも。
【大阪府・吉村洋文知事】
「色々な取り組みをされてるというので、その話を聞かせていただこうかなと」
【平林景さん】
「ありがとうございます」
【大阪府・吉村洋文知事】
「パリコレってあのパリコレに出るってことですか? 出ることは決まってるわけなんですか?」
【平林景さん】
「場所と日時が決まっていないというだけです。もしかして、ちょっとプッシュしていただける…?」
【大阪府・吉村洋文知事】
「万博誘致でよくフランス行ってましたんでね。フランスの日本大使館の日本大使も知ってますし。こういうことがありますっていうのを」
【平林景さん】
「ぜひお願いしたいです、それは。」
【大阪府・吉村洋文知事】
「1回やってみます」
次々と周りの人を巻き込み、夢が現実に近付いていきます。
平林さんは、休むことなく次の試作品を考えています。
■おしゃれで華やかな”福祉”を実現する「生涯をかけたミッション」
【まるさんかくしかく・福井彩恵代表】
「ジップがこんな感じで開くんですね。片腕に麻痺があったとしても、肘を曲げた状態で脇を入れられるような」
ボトモールに合わせ、座っていてもしわになりにくい、丈の短いジャケットです。
【平林景さん】
「車いすの方が(着る)って考えた時にそのデザインって逆に生まれてくるというか。『後ろいらないよね、前は欲しいよね、座ってるからね、でも立ってもかっこい長さって何だろうね』みたいな」
【平林景さん】
「僕の使命は結構はっきりしてて、福祉におしゃれを掛け合わせて、世の中の障害や福祉業界に対するイメージを明るく華やかにするっていうのが僕の生涯懸けたミッションなんですよ。変わることないんですよ、ここだけは」
すべての人が分け隔てなく輝ける社会の実現を目指して、平林さんは動き続けています。