1月17日、阪神・淡路大震災から26年となりました。
多くの犠牲者が出た神戸市長田区で勤務していた警察官が今年、定年退職します。
自身の経験から、後輩たちに伝え続けてきた「震災の教訓」とは…。
■震災当日…係長だった当時できなかった「実態把握」
兵庫県三田警察署。
大きな事件や事故もなく、穏やかに新年を迎えました。
元旦早々、出勤しているのは道家利幸署長(60歳)。
3月いっぱいで、定年退職を迎えます。
署長が毎日、取り組んでいることがあります。
【道家署長】
「通常であれば1~2時間くらい、歩いて管内を見て回るという…。実態把握ですよ、一番必要なものはね。管内を知っているからこそできる対策もあると思いますしね。あと3カ月歩き回りますよ」
「実態把握が一番大切」
神戸市の長田警察署で係長をしていた頃、当時の福島勲署長から受け継いだ教えです。
当時34歳だった署長…「実態把握」が全くできない日がありました。
1995年1月17日、神戸市長田区。
【当時のカメラマンリポート】
「消火活動も、ほとんど行われていないような状態です」
【道家署長】
「被災者も手を挙げて助けを求める方が何人もいらっしゃったんですけれども、とりあえず長田署に行かなければいけないと、心を鬼にして長田署まで行きました」
道家係長は、警察署の中で無線連絡を受ける役目でした。
【道家署長】
「現場からですね、『何人かが生き埋めになっている、市民と一緒に救出活動をしている、すぐに応援が欲しい』というような要請が来たとしても、応援で出せる部隊もいない。『現場で対応してくれ』というような指示しかできなかったんです。それは非常につらかったですね」
被害の実態が全く分からないまま、夜を迎えてしまいました。
当時の署長は、各交番の警察官を集め、受け持ち地区の一斉調査を命じました。
【道家署長】
「調査に行く時は『私服で全員行け』と言う指示でありました。実態把握の目的で行ったにもかかわらず、(警察の)服装で行ってしまうと、被災者に呼び止められて救出活動に従事せざるを得なくなってしまうんですね。署長にとっても苦渋の決断だったと思いますね」
調査結果を元に態勢を立て直し、翌日から救出活動が本格化。
ただ、救出のリミットといわれる72時間のうち、もう3分の1が過ぎていました。
この時、いかに早く「実態把握」をして救助につなげるかが警察の役割だと思い知ったのです。
■震災を知る署長が定年へ…若い世代に語り継ぐ教訓
どんな災害が起きても国民を守れる警察官を育てたい。
その思いから、全国初となる警察官向け災害訓練施設の設置にも関わりました。
【近畿管区警察局「災害対策官」当時の道家署長(2016年取材)】
「この施設で事態対処能力を向上し、国民の命を守っていきたいと思っています」
さらに防災士の資格も取り、当時の経験を若い世代に伝える「語り部」として、講演も行っています。
【道家署長】
「今のように携帯電話とかスマホとかなかった時代。またインターネットもそんなに普及していなかった。現場では一生懸命救出活動をしているが、通信網が途絶してるんでその情報が本署に上がってこないんですね。これでは助けられる命も助けられないということですね」
情報が簡単に入って来る時代だからこそ、災害の時に情報が入ってこない怖さがあると話します。
■減っていく”震災を知る先輩” 教えを受ける若い世代「誇りと使命感を持たないと」
道長署長の退職まで、残り3カ月。
警察官でいられるのは、あとわずかになりました。
【道家署長】
「42年間お世話になって、その集大成が残り3カ月だという風に思っております。阪神・淡路大震災を経験した者として、それをちゃんと3カ月間のうちにあらゆる機会を通じて、伝えていかなければならないと思っております」
三田市には7つの駐在所があります。
駐在所は警察官1人が勤務し、家族とともに住んでいます。
道家署長は、上高平駐在所を訪れました。
月に一度、駐在所を回って指示を伝えるほか、備品の点検も行います。
【道家署長】
「このジャッキあるやん。狭い空間の中でこういうものを、倒壊した木造家屋にジャッキを全部噛ませていって、グルグル回してみんなでグーッと上げて救出した。意外にこういうのが役立つからね」
署長が最も重視するのが「巡回連絡簿」。
各家庭を訪問し、情報を書き込んだものです。
子供やお年寄りがいるか、持病があるかなど住民の状況を把握しておくことで、迅速な救助活動につながるといいます。
さらに、地域にある危険な箇所の把握も必要です。
そのために、地域をくまなく歩くことも必要だと指導します。
署長はこの日、駐在所の警察官と、地域を歩きました。
【道家署長】
「丹波でも土石流が何年か前に発生したやろ。あれがこんな所やな。この奥にため池が2カ所あって、この付近が土砂災害特別警戒区域になっとる。もし大雨が降って決壊してしまうと、このひとたまり全部、土砂がなくなるんだね。そういう所であることをよく把握して、下流側にいる住民の実態把握をしておいてください」
災害が起きれば、住民が頼るのは駐在所の警察官しかいません。
上司の指示を待つ余裕はなく、自分で決断する場面もあります。
実態把握をした上で、自分が正しいと思ったことは最後までやり抜いてほしいと話します。
【道家署長】
「自分の決断が必要だよな。特に駐在所勤務員は住民を守らなあかんからな。自分で判断せなあかんから、重責やね」
震災を知る先輩たちは、1人また1人と減っていきます。
【上高平駐在所・河本健祐巡査部長】
「警察官になったからには、誇りと使命感を持ってやっていかないといけないと思うので。先輩方の仕事面のことは、自分たちも真似できることは真似して大事にして、自分の力に変えていければと思います」
26年前の教訓。
少しずつ、若い世代に語り継がれていきます。
(カンテレ「報道ランナー」1/12放送)