―2020年4月 緊急事態宣言翌日―
大阪市西区のビジネス街に店を構える、うどん店「讃州」。
【店主・久保達也さん】
「これが一ヵ月単位で長引くと、廃業も視野に入れないとと思ってますけどね」
客が減った店を見ながら、心配そうに話す店主の久保達也さん(44)。
緊急事態宣言が出された当時・・・
新型コロナウイルスの脅威がどれほど続くかは、誰にも予想できていませんでした。
―それから7カ月後、2020年11月20日―
店主の久保さんの不安は現実となり、店を閉めることになりました。
【久保さん】
「ここまでならないと思ってました。もしかしたら辞めないといけないかなとは思っていたけど、辞めるとは思ってなかったし、ここまでひどくなるとは思っていなかった」
「客足が3分の1ぐらいになってしまったんで」
予想以上の苦境を強いられた久保さん…
旅館で料理人を務めていた父のもとで育ち、大学を中退して料理人を志すようになりました。
25歳の時にうどんの道に誘われ、「讃州」の看板を掲げて約14年。
自ら作った手打ちのうどんを、注文を受けてから『切りたて茹でたて』を提供するスタイルで人気店に育て上げました。
【久保さん】
「あとから聞いたら父親が香川出身でうどん屋をやりたかったらしくて。小学校の時に父親亡くなったので出来ないままだったんですけど、『讃州』っていうのは親父がやる予定だった名前」
その店でうどんが味わえるのもこの日が最後です。
【訪れた客は…】
「うどんのコシもですけど出汁がおいしい」
「これが食べられなくなるのはほんまに辛い」
【久保さん】
「寂しいですね、正直。これだけ大切な店を閉めてまでやろうと思ってるんで、閉めることに意味があったと思えるような仕事をしていかないとと思ってます」
大切な店を諦める決断をした久保さん。
しかしここで終わりではありません。
実は、閉店を機に新たな挑戦をしようとしていました。
■うどんの次は『冷凍ラーメン』!? コロナ禍で生き抜く新たな販路
―閉店から約1ヵ月後―
久保さんの姿は神戸市のとある工場にありました。
ここは『冷凍のラーメン』の製造拠点となるキッチンです。
【久保さん】
「ラーメン屋さんとコラボしたり、うどん用の粉で中華麺を作ったりした経験はあるんですけど、ラーメン屋として経営はしたことはない。楽しいですよめちゃくちゃ」
久保さんたちが新たに仕掛ける事業は冷凍ラーメンの通販サイト「menjoy(メンジョイ)」。
関西の人気店のラーメンをインターネットで全国に販売しています。
イベント用の冷蔵庫などをレンタルする会社「クールランド」がラーメン店の新たな販路を作ろうと、2020年11月に立ち上げました。
【クールランド常務取締役・山田浩平さん】
「コロナ禍で、従来人が集まるような仕事が多かったので、かなり仕事が激減した。飲食イベントであったり飲食業であったり日頃お世話になっているので、何か力になれるビジネスモデルを作りかった」
ここにあるのは最新の冷凍機器。
店と同様にこのキッチンで作ったスープをマイナス30度で急速冷凍します。
麺は自然なコシが出るようにアレンジして冷凍。
最新の技術によって店と変わらぬ味のラーメンを届けます。
久保さんは麺や料理に精通した実績を買われてmenjoyに携わることに…。
【久保さん】
「毎日、日替わりで有名なラーメン店主さんが来られて、その人の作業をお手伝いする形になる。毎日色んなラーメンの作り方を見てるんで楽しくて仕方ない」
この日は数々の店を手掛けてきた有名店主が製造に訪れていました。
【ハラミノカミサマ店主・平井孝彦さん】
「自分の店で(通販を)やるとクオリティの高いものができないんですよ。だから(通販は)二の足を踏んでた。(コロナの影響で)お客さんが減った分、全国配送できる。未知なるお客さんに食べてもらえるこのチャンスがすごくうれしい」
冷凍された麺を茹で、スープをパックのまま湯せんして”完成”
その名も「トリュフ香る牛ハラミ白湯ラーメン」(税別1000円)です
味を店主が自ら確かめてみると…
【ハラミノカミサマ店主・平井孝彦さん】
「バッチリです。めっちゃおいしいと思いますよ。自画自賛です」
順調に進むラーメンの製造にとどまらず、久保さんは次の一手を考えていました。
■『切りたて・湯がきたて』のうどんを冷凍で…コロナ後に”夢のある”ビジネスを!
【久保さん】
「ラーメンは生麺で冷凍で同じ味でいけるけど、うどんは切りたて、湯がきたてがおいしい。急速冷凍を使って店の味そのままのものを作るというのを研究、試作中です」
冷凍うどんのサービス開始を目指し、参加する店舗を求めて自ら営業にも臨んでいます。
【久保さん】
「テイクアウト、通販が伸びてくるし、これが一時的なものじゃなくて定着するんじゃないかと思っている」
「全体の収益を上げて、うどん屋やったら夢あるって子供に見させるようなビジネスモデルにしないと、やる人がいなくなって絶滅危惧種になる」
他のうどん店に足を運び、熱い思いを伝えます。
【うどん工房悠々店主・中山優子さん】
「リスペクトもしているし、ついていきたいなと思う。いいきっかけを与えてもらっていると思う。『ここで絶やしたらあかん』と余計に大きく感じる」
“子供に夢を見せたい…”と話す久保さん。
実はうどん店「讃州」を畳んだ日、息子の啓達さん(18)が店を手伝いに来ていました。
その日の光景は啓達さんの目に焼き付いています。
【息子・久保啓達さん】
「やっぱりお父さんすごいなと思いました。料理作るだけじゃなくてお客さんに愛されるような店を自分もできたらいいなと思います」
気付けば親の背中を追いかけて料理の道に進んだ久保さん。
次は息子に背中を見せる番です。
【久保さん】
「コロナが収束したら僕もまた自分の店をやりたいと思ってます。それまではちょっとでも飲食業界を支えることができればと。頑張っていきたいなと思っています」
苦境の時に踏み出した大きな一歩。
その目は飲食業界の未来を見据えています。
(関西テレビ「報道ランナー」 2021年1月5日放送)