世界遺産『熊野三山』の一つ、和歌山県の熊野本宮大社。
12月、新しい年への願いを漢字一文字で表す恒例の『大筆書』が行われました。
九鬼家隆宮司が書いたのは…「前」
【熊野本宮大社・九鬼家隆宮司】
「現在コロナ禍の中で厳しい状況が今なお続いている中で、現状よりも少しでも、半歩でも”前に”行っていただきたいと」
多くの神がまつられている熊野本宮大社。
心願成就や家庭円満などのご利益を求めて、三が日は全国から40万もの人が訪れます。
宮司たちは、”密”の状態となり、新型コロナウイルスの感染リスクが高まることを懸念していました。
■初詣の”密”どう防ぐ? 全長50メートル超の「さい銭箱」などユニーク対策も…
【熊野本宮大社・九鬼家隆宮司】
「初詣、神社には多くの方が全国各地からお出ましになる。安心して安全な熊野本宮大社においでいただくことが第一であります」
神社は半年前から地元の人たちと協議を開始。
初詣の期間を例年より2週間延長し、分散して参拝するよう呼び掛けたうえで、参拝の仕方自体を大きく変えることにしました。
一体どんな対策をしたのでしょうか?
初詣対策① 参道を分けて片側通行に
【熊野本宮大社・九鬼家隆宮司】
「行きと帰りが混雑してしまうので、完全に上りと下りをわけて、中央にポールをたてました」
神社にとって参道の真ん中は神々が通る道。
そこにしきりを置くことは、苦肉の策でもありました。
初詣対策② 長さ54メートル”巨大さい銭箱”
最も感染リスクが心配されるのが、本殿の前。
熊野本宮大社には主に4つの本殿があり、順番にお参りをするのが通例です。
大晦日から元日にかけては、特に密が避けられません。
そこで考案されたのが”巨大さい銭箱”です。
【熊野本宮大社・九鬼家隆宮司】
「こちらの正面の大型プールのさい銭箱で」
なんと、4つの本殿を一度にお参りできる巨大プールのようなさい銭箱を設置。
長さは54メートル。
最大50人まで並ぶことができ、行列を防ぐのが狙いです。
【熊野本宮大社・九鬼家隆宮司】
「お参りというのはゆっくり手をあわせて新年のお参りをするのが当然、本来ですがそれを重々承知の上でとにかく短縮、いる時間を短くする方が先決」
■いざ”初詣シミュレーション” しかし万全の対策が裏目に…
新年まで3週間…
地元の住民ら約40人を集めて、初詣を想定したシミュレーションが行われました。
【神職】
「皆様恐れ入ります。17名様ずつこちらのさい銭箱の方に広がっていただきましてご拝礼いただきますよう…」
合図をして、一斉に参拝してもらおうとしますが…
【神職】
「一回のご拝礼でご参拝いただくようよろしくお願いいたします」
【地元の関係者たち】
「ずっとみんなにこれ順番に説明していくん?」
「こんなことできませんわ、絶対バラバラになるわ」
さい銭箱が大きすぎて、どうしても参拝客の動きがバラバラになってしまいます。
【熊野本宮大社・九鬼家隆宮司】
「大変申し訳ございません。中途半端な案内に…」
【地元の関係者】
「無理や無理、あかんあかん。何万人と来るのに追い付かない」
【熊野本宮大社・九鬼家隆宮司】
「もう少しこうした方がスムーズにいくんじゃないかというご意見もいただきたいと思います。ここが一番肝心なところなんです」
【地元の関係者】
「ロープをここまで張った方が混雑せえへんのちゃう。どうせ一方通行やねんから。40人くらいでばらつくんやから」
話し合いの結果、合図が無くてもスムーズに誘導できるよう、ロープを張ることにしました。
■迎えた大晦日 新型コロナで『いつもより静かに祈る』
宮司自ら境内を見て回り、看板の設置場所などの”最終確認”を行います。
【熊野本宮大社・九鬼家隆宮司】
「こういう時だからこそ、心を置く場所、祈りをささげる場所が必要ですし、気持ちが切り替えられる場として神社は第一の場所だと思っている」
31日午後11時ごろ―
【警備員】
「それではどうぞお入りください。コロナ対策にご協力してください。ソーシャルディスタンスを保ってください」
例年と同じく、午前0時を前に参拝客が集まってきます。
印に沿って1.5メートルの間隔をとってもらいました。
新年の瞬間、宮司が太鼓を鳴らします。
参拝客は特に”密”が心配されていた本殿の前へ…。
シミュレーションでは人がバラバラになっていましたが、ロープに沿って人がスムーズに流れていきます。
そして、それぞれのタイミングで参拝。
【熊野本宮大社・九鬼家隆宮司】
「良かったと思いますね。皆さんも戸惑いながらご理解いただきながらお参りしてもらっていると思います。このままスムーズにいければと思います」
大きな混乱もなく、宮司も安堵の表情です。
さらに、いつもは午前2時ごろまで混雑していましたが…
今年は開始から40分で人がまばらに。
神社によると、三が日の人出は例年より8割も減ったということです。
【参拝した男の子】
「いつもと違ったけどこれはこれでありかなと思った。できんよりはできた方がいいかなって」
【参拝した女性】
「やっぱり振って鈴がなるとお参りした実感があるので、さい銭を入れて手を合わせるだけだと寂しいというか」
【参拝した男性】
「歩きやすいなって感じはあった。人とか接触もないので。参れるなら、こんな感じでもいいかなって思う」
大きく変わった初詣の形…
いつもより静かに祈る場所がそこにありました。