■壁の穴から…「クマの手」が
12月頭に中国のインターネットメディアに掲載された1枚の写真には、何やら、壁の穴から人形のクマの手らしきものが出てコーヒーを差し出している様子が映し出されていた。
クリスマスも近いし、人々を和ませるためのちょっとした冗談とか広告なのかな・・・と思いつつも支局スタッフにリサーチしてもらうことに。
■SNS映えだけでなく…実は「共働」の目的が
すると、これは上海市内に実在するコーヒーショップで、お客に実際に商品を手渡す際に行われていることだということが判明。そもそも、なぜこんなやり方をしているのだろう?という興味がまず沸き起こった。
また、商品を渡してくるのが“モコモコ”のクマの手で、確かにかわいらしいが、顔の見える店員から商品を受け取った方が安心じゃないのか…?と、ある意味、日本人ならでは(もしかして、日本のおっさんならでは?・・・)の疑問も浮かび上がった。
そしてさらに支局スタッフに調べてもらったところ、店の中では生まれつきハンディを抱える人たちが働いていて、そのプライバシー保護と働きやすい環境作りを両立させるため編み出されたやり方ということも分かった。
なるほど!確かにこのやり方なら、ハンディのある人もほぼ人目を気にせずに働くことができる。また店の中と外では、健常者も一緒に仕事をしているとのこと。
流行りのSNS映えを狙った話題作りと、健常者とハンディキャップのある人との「共働」の2つを両立しているわけだ。
■大行列も…「おもてなし」を感じるお店
そして現地取材に行ってみてまず驚いたのはその人気ぶり。お店の前から伸びた行列が道路の反対側にまで続いていて、整理券も配られていた。外にいた店の人に話をきくと、「一番売れた時で1日500杯、最も長い時で3時間待ちになったこともある」とのこと。
人気の秘訣は値段にあるようで、どの飲み物を買っても全て1杯20元(日本円にして300円ぐらい)。上海市内の他のカフェ店などでは、同じような商品がその倍以上の値段で売っている場合もあることを考えれば格安、さらに、商品を受け取った後、クマの手に撫でてもらったりすれば、ちょっとしたアトラクション気分も味わえる。
ハンディある労働者に対してはもちろん、お客にも優しいこのコーヒーショップでは、日本でいう「おもてなし」の精神に近いものを感じられ、とてもほっとした。
そして何より、普段は満員電車の中でも容赦なく携帯電話で通話する人がいたり(時には電話相手とケンカがはじまったりもする…)、買い物のときに現金でお金を払おうとすると舌打ちされたりすることもある中国で、他者を思いやる精神を垣間見ることができて正直うれしかったりもした。
■あまりの人気に…”パクリ”も登場
と、ここまでは良いことばかり書いたが、こんなおまけも。上海のお店がオープンして10日もたたないうちに、あの「武漢」に似たようなコーヒーショップが登場したとの報道がなされた。その報道によると、この店でも同じように壁の穴から出てきたクマの手が商品を渡す仕組みだが、ハンディキャップある人を雇っていないし、値段も一番安い商品で29元と割高。つまりアイデアだけ「パクった」わけだ。
この店の様子がSNSにアップされると、さすがに「サル真似だ!」「恥を知れ!」などという怒りの声が多数あがっていた。
すぐに「パクり」が出てくるあたり、よく言えば、中国ならではの「たくましさ」というか、何というか・・・。人口14億人の巨大国家の「広さ」をも感じる機会となった。