兵庫県丹波篠山市にある、兵庫医科大学ささやま医療センター。
県庁から担当者がやって来て、『新型コロナウイルス患者の受け入れ』について、話し合いが始まります。
【兵庫県医務課・元佐龍課長】
「病床利用率もかなり高くなっております。受け入れ病床の皆さん方への支援ということを書いておりますので、また後ほどお目通しいただければと思います。病床確保への協力、よろしくお願い致します」
この病院がコロナ患者を受け入れるのは、初めて。
病棟の一部を区切って3床を受け入れます。
課長は院長と共に病棟を視察しました。
【兵庫医科大学ささやま医療センター・片山覚病院長】
「本当に駄目だったら、ここの病棟全部でと思っているんですけど、今のところはこれで…」
この病院は、内科やリハビリなど23の診療科と180の病床を備える地域医療の拠点病院です。
新型コロナでは診察と検査を行ってきました。
ここで陽性と診断された患者は、隣町の県立丹波医療センターに入院するという役割分担をしてきましたが…。
【兵庫医科大学ささやま医療センター・片山覚病院長】
「県立丹波医療センターは県の医療機関ということもあり、(丹波)圏域内だけでなく圏域外の患者もたくさん受けざるを得ない状況。(丹波)圏域内の患者さんが、かえって遠くに入院することが起こってしまう。軽症で入院できる施設が必要だろうということで手を挙げた」
兵庫県では、すぐに使える中等症・軽症用の病床のうち、76.3%が埋まっています(12月22日現在)。
その背景には「兵庫県独自の方針」がありました。
■兵庫県が掲げる「自宅療養ゼロ」…見通しの甘さも露呈
【兵庫県感染症等対策室・山下輝夫室長】
「自宅療養をなるべく出さない、すなわちゼロを堅持してきたって言うのが大きな特色。陽性者の健康の問題、突然重症になったり不具合にならないこと。それから、周りへの感染の波及を防ぐこと。これを大きな目的に、自宅療養ゼロということを掲げてやってきた」
自宅療養が大阪府で1000人を超える一方、兵庫県はゼロ。
近畿で最も早く、ホテルなどの宿泊療養施設を導入したのも、「自宅療養ゼロ」のためでした。
さらに、感染者の数に応じて必要な病床の数をあらかじめ医療機関側と決めておくなど、計画的に備えてきました。
しかし「最大650床」では足りず、見通しの甘さも露呈しました。
【兵庫県・井戸敏三知事】
「(感染者の)数がこれだけ増えていることもあるので、緊急にあと100程度、病床確保の協力要請をして確保を図ってまいります」
【兵庫県感染症等対策室・山下輝夫室長】
「はっきり言って、ものすごい現場の苦労がある。コロナだけじゃなくて他の病気とのバランスも考えないといけない。ちょうどバランスが取れたところを綱渡りしながら確保している」
病院では、初めての患者の受け入れ準備が進んでいました。
感染者が入院するときに使う車いすは、事務職員の手作りです。
飛沫を防ぐ覆いを取り付けました。
コロナ病棟の看護師長が、他の病棟の看護師長たちに説明します。
【コロナ病棟の看護師長】
「歩けても自立できてもこの車いすに乗っていただきます。周りに触らないようにとこれに座っていただきます。背の高い男性でも頭を打たないように、ここを開けて…」
「(専用車いすは)今、手に入らないみたい。なかなか高額だし、頼んだところですぐには…」
【別病棟の看護師長】
「でも、らしく出来上がりましたよねえ」
病院の中を区切った「レッドゾーン」の中で、患者たちは過ごします。
シャワーやトイレ、洗面台がついた個室を活用します。
清掃業者は入れないので、患者が使った食器やごみの袋を適切に消毒するのも、看護師の仕事です。
【看護師】
「不安はもちろんあるけれど…(家族には)そういう病棟にいるとは説明はしてある。うちの家族は理解がある。高齢の家族もいるが、家庭に持ち込まない。家でも感染対策をしっかりしている」
病室には、タブレット端末を設置しました。
看護師が病室に入る回数を減らせて、患者も遠慮せずに声を掛けることができます。
■「地域医療の役割はもっとある…」 あえて患者”受け入れ”を決めた理由
入院患者を迎える日が来ました。
感染防護のための医療用ガウンやマスクの取り付け方法を確認します。
【看護師】
「ふーっと吐いて、この辺から息が出ていないかをしっかり確認します。隙間があったら風が出てくるので」
入院患者が到着したとの一報が入り、病院内には一気に緊張が走ります。
【看護師】
「着かれたそうです!到着されたそうですー」
60代の男性患者1人に、数人がかりで対応します。
肺炎がないか確認したあと、専用の車いすに乗せて病室へ向かいます。
外から顔が見えないようにシートも張られるなど、患者のプライバシーには細心の注意を払います。
【看護師】
「では座っていただいて。上からかぶせますね」
「あまり乗り心地はいいもんじゃないかも知れませんけど…」
「手前のお部屋になるのでここからは歩いていただきます。体温とか測ってから病棟の説明をしようと思いますので」
患者は原則として病室から出られないことを説明し、タブレットの使い方も教えます。
【看護師】
「Aってところを押していただいたら。そうすると、そうです。Aは私たちの詰所に繋がるので」
防護服を着ての対応は、看護師たちの神経をすり減らします。
ナースステーションのモニターから響くのは、つらそうに咳き込む患者の声…
軽症患者でも、容体が急変する例が数多くあり、24時間体制で気の抜けない看護が続きます。
この病院は、あえて火中の栗を拾いに行きました。
しかし院長は、地域の医療機関が担える役割は、もっとあるはずだと話します。
【兵庫医科大学ささやま医療センター・片山覚 病院長】
「重症のベッドが“詰まる”のは“出口”がないから。私たちがやろうと思っているのは、重症の治療が終わった後、もう厳しい感染管理は必要ないがリハビリは必要な人がいる。軽症治療やリハビリは住んでいるところの近くに配置されると、家族との交流もしやすくて、心の回復もしやすいだろうと」
現場では奮闘が続きます。
限りある病床と人を、うまく活用する術はあるのでしょうか。