12月18日、神戸どうぶつ王国にはいつもより多くの人の姿が…。
そのお目当ては…
11月生まれたばかりのスナネコの赤ちゃん。
好奇心旺盛な男の子で、母親のバリーに連れ戻されても、おかまいなしに展示場を走り回ります。
スナネコはもともとアフリカなどの乾燥地帯に生息。
その愛くるしい姿から「砂漠の天使」とも呼ばれています。
実はこのスナネコ…とても繊細で、国内の飼育例はほとんどありません。
親子一緒に公開される日を迎えるまでには、飼育員の知られざる苦労がありました。
■ストレスがかかると育児放棄も…慎重な飼育が必要な”スナネコ”
11月6日、母親のバリーは巣箱の中で赤ちゃんを産みました。
しかし…
実はここからが大変で、スナネコはストレスがかかると育児をやめてしまうことがあるのです。
飼育員の馬場瑞季さん(27)。
人の目が苦手なバリーを刺激しないよう、獣舎には決められた人しか入らないようにしています。
生後35日目…。
赤ちゃんスナネコの健康状態をチェックするため、バリーと赤ちゃんがいる部屋の隣のスペースに餌を置き、バリーだけをおびきよせます。
親子を離すのは数分と決めていて、素早く赤ちゃんを体重計に乗せました。
【馬場瑞季さん】
「347グラム、でっかくなったなあ」
生まれた時に比べ体重は約3倍、すくすくと成長しています。
繊細なスナネコ…
飼育には最大限の配慮をしています。
【馬場瑞季さん】
「母親に与える餌を置いて、プレッシャーかからないようにすぐ引いたり、あとは掃除と給餌と、本当に最低限」
「そろ~っと入って、気配がわかると巣箱の穴から覗きにきたりとか、じっと見すぎるとシャーって言ったりとか」
さらに、体重を図る時以外は”スマートフォン”で獣舎の中を確認します。
【馬場瑞季さん】
「このちょろちょろしてるのが子どもです。出産前とか出産した後とか気になりすぎて、暇があれば見に来てましたね」
■実は…お兄ちゃんスナネコを育てようとしなかった過去も…
実はバリーが赤ちゃんを生むのは2回目。
すやすや寝ているのが、2020年8月に生まれたお兄ちゃんです。
バリーはこの子を育てようとしませんでした。
【佐藤哲也園長】
「しばらくは当然母親に面倒見てほしいですから、様子を見たんですが全くその気がなかったので…もう駄目だと判断して取り上げましたけど、あと1時間遅かったらあの子はだめだった」
飼育員たちが親代わりとなり、お兄ちゃんを育てています。
【佐藤哲也園長】
「人工保育は否定しませんけど、人工保育は子供を助けるための手段の一つ」
――Q:園としては自然保育の方が望ましい?
「園としてもだし、動物としてもですよね。やっぱり野生動物ですから」
「野生動物として繁殖の機会も与えられなければならないし、一生の中でやる行動をなるべく再現しなければいけない」
■お客さんに”自然”な親子の姿を! 初公開までの飼育員の奮闘
バリーと赤ちゃんの一般公開が決まりました。
“自然保育”としては初の展示。
しかし、そこには大きな問題があります。
展示場はバリーと赤ちゃんがいる獣舎の隣にありますが、そこには育児に参加していない父親がいて、赤ちゃんを襲ってしまう恐れがあります。
そのため、別の場所に獣舎と展示場を新しく増設し、公開することにしました。
これまでと異なる環境に引っ越すことで、子育てに影響が出ないように入念な準備をします。
新しい獣舎にも、親子がすぐ馴染むよう工夫をしました。
【馬場瑞季さん】
「掃除じゃないんですよ。(もともとバリーたちがいた)部屋にあった、匂いのついた草を新しい獣舎に付けています」
バリーを運び出すときにも細心の注意が…
【馬場瑞季さん】
「あんまりいつもと違う雰囲気出さないように、警戒するから」
刺激しないよう、木箱の中におびき寄せますが、異変を感じたバリーは警戒心をむき出しに。
馬場さんは慎重に木箱に入れ、静かに引っ越しをしました。
展示場はなるべく自然に近い環境にしようと、砂や流木などを用意。
【馬場瑞季さん】
「とりあえずは新しい環境に慣れてもらうのが最優先だと思うので」
「あの子らにとって隠れられる場所を作ったり、展示環境を安心できるスペースにしていくのも自分らのやるべきことなので、工夫しないといけないなと」
一般公開まで2日となったこの日、展示場のまわりに普段はバリーと赤ちゃんに接しないスタッフたちが集まりました。
見慣れない人に囲まれた環境で、獣舎から展示場に、出てきてくれるのでしょうか…。
飼育員たちが見守る中、まず入ってきたのはバリー。
少し戸惑いを見せます。
赤ちゃんスナネコは…なかなか出てこようとしません。
スタッフたちは焦らず、そのままじっと待っていると…
おそるおそる足を踏み入れてくれました。
馬場さんも一安心です。
――そして、いよいよ公開当日――
お客さんに見せる時間は1組1分間。
公開する時間を短くすることで、ストレスをかけないようにします。
木登りに何回も挑戦する赤ちゃん。
さっそく訪れたお客さんたちに、元気いっぱいの姿を見せました。
しかし少し時間が経つと、展示場のすみっこに…
【お客さんは…】
「お母さんにだっこ抱っこされていてあまり見えなかった」
「あんまりいい写真が撮れなかった。自然界、砂地を再現しているので、遠い所からちっちゃい赤ちゃんとお母さんが見えるっていうのは、それもひとつの楽しみ方なのかと思います」
“お客さんに近づいてこない”…この姿こそが野生の親子の形なのです。
【馬場瑞季さん】
「理想として、見てもらいたい姿は”母親が子供を育てる”姿なので」
「親子の関わりであったりを見てもらえる。それを見てお客さんが、今しか見られない愛らしい姿を見てもらって喜んでもらえるのはすごく嬉しいですね」
「私も癒されながら、親子ってすごいなと思います」
半年ほどで赤ちゃんは大人になります。
野生の動物たちにいかに自然な姿で過ごしてもらうか。
飼育員たちはこれからも追い求めます。
(カンテレ「報道ランナー」12/22放送)