京都府の北部に、約2万人が暮らす与謝野町があります。
町に一つだけの、小さな法律事務所で働く澤田将樹さん。
この町でたった一人の弁護士です。
事件・事故、離婚問題、遺産問題、多岐に渡る相談が舞い込みます。
【依頼者】
「お願いします」
この日は、土地の貸し借りに関する相談です。
【依頼者】
「これを読んで基本的には納得して、”ハンコを押した”と普通は皆、解釈するのではないの?昔のことを持ち出されても…」
【澤田将樹弁護士】
「思います。それを払ってくれない場合には、” 裁判も考えています”というところまで言ってもいいですか?」
澤田さんが”たった一人の弁護士”となった背景には、”過疎化”が進む地域の実情がありました。
■大手事務所から”弁護士過疎地”へ… 移住を決意した一人の弁護士
日本には、約4万人の弁護士がいますが、東京・大阪・愛知に約6割の弁護士が集中していて、地方には弁護士が足りていない現状があります。
澤田弁護士がこの地にやってきたのは、10年前のこと。
それまでは、東京の大手弁護士事務所で働いていました。
【澤田将樹弁護士】
「僕が入ったころはM&A、合併・分割とか、グループ化とか、そういうのが流行っていた。日経新聞の一面にバーンと出てくるような事件にも携わったこともある」
「3年くらい経ってくると、同期が留学に行くという話になってきた。進路を固めないといけないようなことになった。僕の場合は、将来的に一般民事をやりたいという思いがあった」
司法修習生の時代に、”弁護士過疎地”といわれるこの地域で研修を受けた縁もあり、与謝野町で働くことを決意しました。
【澤田将樹弁護士】
「誰も助ける人がいないなら、助けてあげたいというような、きれいごとではないんですけど、そういう性格。であれば、弁護士さんがいっぱいいる所よりも、弁護士さんが少ない所でやらせてもらったほうが、自分としても頑張れるというか…」
これまで、与謝野町に、弁護士事務所はありませんでした。
関東出身の澤田弁護士は、町になじむために、積極的に地域の催しに顔を出すようにしています。
この日は、地元の人と一緒に野球を楽しむ澤田さんの姿が…
【地元の人】
「特に田舎の方はね、ずっと弁護士さんがいなかったからね。消費者金融にお金借りた人たちなどが、どうしようもなくなって相談するところがなかったからね」
「大体、弁護士といったら、敷居が高いですやん?なかなか普通の人が相談するには、敷居が高い。(澤田さんは)そういう感じが全くないので。もう“澤田”呼ばわりですからね」
「野球は頼りないけど、ゴルフは上手ですよ」
■認知症や寝たきり… 町の高齢者たちの”財産を管理する”仕事も
澤田弁護士が、この町で請け負っているのが「成年後見制度」の仕事です。
【澤田将樹弁護士】
「成年後見人は、主に高齢者の方で、認知症になってしまったような方の財産管理をする仕事なのですけど、ちょっと寝たきりっぽくて、現金書留で生活費を送っても、ちょっと玄関まで出るのがしんどい方に、僕が届けて回っている。必要な生活費を届けて回っています」
この日は認知症の女性の家へ向かいました。
【澤田将樹弁護士】
「弁護士の澤田です。突然すみません。入らしてもらいますね」
女性は身寄りもないため、澤田弁護士が代わりに財産を管理しています。
【澤田将樹弁護士】
「来月分は、手渡しで持って来ましたので、3万円。年末年始、いつもお金いるようですけど、足りています?」
【依頼者】
「年末年始?足りていますよ」
【澤田将樹弁護士】
「おせちは、請求書、こっちに回してもらったらいいし」
【依頼者】
「27日ごろから、お弁当が止まる。その間、6日間ほどないですね、ご飯が」
【澤田将樹弁護士】
「どうしましょう、何か頼みます?宅配の」
【依頼者】
「私いい加減な食生活していますから」
【澤田将樹弁護士】
「心配ですよ…。そしたら、1月の分は、12月の終わりごろにお送りする。多めにしときますね。お金いると思いますので。足りなくなりそうだったら、電話して下さい」
澤田弁護士は計10人ほど、こうした人たちの財産管理をしています。
別の日は、脳梗塞によって言葉を発するのが難しくなった男性の相談を受けていました。
――Q:先生に成年後見制度の補助人になっていただいて、どうですか?
男性は、ノートに『弁護士に大助かり』と書き記しました。
■東京では『何かに追われていた…』 澤田さんを変えた与謝野町
東京から移り住んで10年。
澤田さんは”家族との時間が増えた”と嬉しそうに話します。
【澤田将樹弁護士】
「本当に充実している。最高ですよ。(町に来るまでは)何かに常に追われているような、何もしてなくても、何かしなきゃとか、勉強・仕事しなきゃとか、そんな感じだったと思います」
【妻・佳織さん】
「ちょっと、人間らしくなったというか、あの表情が柔らかくなって…。角が取れたように丸くなってにこやかになりました」
病院や役所と同じように、社会のインフラの一つとして、弁護士を必要としている人が実はたくさんいます。
【澤田将樹弁護士】
「やっぱり人がそこで生活している以上、法律の問題というのは必ず起きます。その時に、どこにも相談する場所がないのは、とてもさみしいことなので」
「一人ぼっちの方、一人で苦しんでいる方、そういう人の力になれたらいいなと思います」
これからも澤田弁護士は、ここ与謝野町で町の人に寄り添い続けます。
(カンテレ「報道ランナー」12月16日放送)