19歳の新人舞妓『ふく苑さん』。
この日、初めて着る衣装に袖を通し、初舞台の準備を進めていました。
本番前のリハーサルでは厳しい指導が…
【振り付けを指導する 若柳吉蔵さん】
「位置おかしいやろ、中よってへんか。もう一つ外じゃなかったか」
「顔はこわばってるね、緊張してるんか。それはしゃあないけど」
【舞妓】
「おたのもうします」
【振り付けを指導する 若柳吉蔵さん】
「声が小さい!」
新人舞妓の夢の初舞台がせまっていました。
■夢を叶えたい…東京から来た”新人舞妓”に立ちはだかる『新型コロナ』
5月―
緊急事態宣言中は、5つの花街で全てのお茶屋が営業を自粛。
お座敷で客をもてなすことも、毎日通っていたお稽古もなくなり、ふく苑さんは手ぬぐいからマスクを一つ一つ作っていました。
【お茶屋『しげ森』 谷口三知子女将】
「普段はお針のことやら舞妓さんにはさせへんのどすけどもね」
「長いこと見たら芸妓さんになったら自分たちの襟を付けたり着物の繕いをするのにちょうど今の期間のお稽古にいいかなと思って」
「どれくらいかかる?1枚」
【ふく苑さん】
「1枚1時間くらい…」
【お茶屋『しげ森』 谷口三知子女将】
「でも今はちょっと時間あるもんな」
舞妓になる夢を叶えようと中学卒業後の16歳で東京から京都へやってきたふく苑さん。
修学旅行で舞妓を一目見て憧れました。
【ふく苑さん】
「舞妓さんの事を考えると夜も寝られへんくらい憧れてて…」
「親から最初は反対してはったんですけど、うちがずっと『なりたいなりたい』言うのをみて、最後はものすごく応援してくれてはりました」
ふく苑さんは、他の舞妓さんたちと一つ屋根の下で暮らしています。
彼女たちを育てるのは、女将の谷口三知子さんです。
営業再開の見通しが立たない中、家の中で踊りの練習を続けることにしました。
【お茶屋『しげ森』 谷口三知子女将】
「背中の骨もっとくっつけなあかんやろ」
「なんで扇子二人違うの?」
「ちょっと体を動かして使うことを忘れているのはいかんことやと思いますね…」
「ただ見ていただく人がないっていうのは精が出ないのかもしれないですしね。だからいかに自分と向き合うことができるかやね、今ね」
【ふく典さん】
「久々に別の方に見ていただく機会だったので緊張しましたね」
「緊張の無い生活をずっと送ってきてしもたな、って後悔してます」
伝統の灯を絶やしたくない・・・
その一心で厳しく向き合います。
【お茶屋『しげ森』 谷口三知子女将】
「子供さんたち預かって、自分が生きていく場所と、女性が『自分が芸があったら生きていける』という自信をつけてもらえる場所として、絶対に私はここを残していかないとあかんと思うんですよね。世界というかこういう街をね。」
■やっと”お茶屋の再開” しかし夢の『舞踏公演』はすべて中止に…
緊急事態宣言が解除され、迎えた6月―
【ふく苑さん】
「あ~ドキドキする」
【髪結師さん】
「なんで?」
【ふく苑さん】
「久々やから」
【髪結師さん】
「どんな生活してたん?寝る時間とかは」
【ふく苑さん】
「寝る時間はみんなで夜更かしして映画を見る日もあったんどすけど」
「お母さんに寝なさいって言われて。夜更かしして怒られたこともあったので」
お茶屋の営業が再開になり、1か月半ぶりに舞妓さんの頭に。
新型コロナウイルスの影響で5つの花街で行われる舞踊公演はすべて中止になりました。
ふく苑さんの夢は「舞台に出ること」
しかし、舞妓になって1年半、一度も舞台に立てずにいました。
【ふく苑さん】
「春の京おどりが、ものすごくうちの憧れの舞台やったんでお舞台にたてへんことになってさみしかったり次はいつたてるんやろう思ったり」
目標を失い、舞妓としてこれからやっていけるのか、悩んだ日もあったといいます。
そんな時に見返したのがお母さんからの手紙でした。
親元を離れて2年半。
届いた手紙は段ボールいっぱいになっていました。
【ふく苑さん】
「声がなるんですけど、母の」
~ふく苑さんの母親からのボイスメッセージ~
「17歳の誕生日おめでとう。離れていてもいつもいつも応援しています」
【ふく苑さん】
「お電話もできひんのんで母の声も聴く機会もあらへんかったのんで…これ届いたときはお手洗いで大号泣しました」
■ふく苑さんに訪れた初舞台のチャンス――
長い間、舞台に立てず練習の成果を披露する機会を失った舞妓たちのために、「特別公演」が開かれることに。
さっそく稽古が始まりました。
【振り付けを指導する 若柳吉蔵さん】
「こう止まった時はしっかり沿って。だらりの帯とおしりの間に空間つくって帯綺麗に魅せな。」
「そうそうそう。ちょっとし過ぎやで」
初めて踊る演目に、うまくいかないことも・・・
本番まであと3日と差し迫っていました。
そして迎えた本番の日―
約500席のチケットは完売。
ふく苑さんが初舞台を終えると、会場からは大きな拍手が送られました。
【ふく苑さん】
「幕が上がった時に照明が当たって、すごく嬉しくてそこからずっと楽しおした」
「今回お舞台に立たせていただいた機会が、自分の中でものすごく自信につながった」
「これからもしっかりとお稽古を気張ってまた次のお舞台に立てるように気張ろうと思います」
もう1度夢の舞台に立ちたい
ふく苑さんに新たな目標ができました。
(カンテレ「報道ランナー」12/7放送)