11月19日に解禁されたフランス産ワインの新酒、「ボジョレ・ヌーボー」。
今年の仕上がりは、「心地よい余韻が残る芳醇な味わい」です。
世界への輸出のうち半分を占める日本で、”解禁日”はまさに国民的行事です。
【訪れた客は…】
「待ってる人がいるんで。みんなで楽しく飲みます」
このわずか3日前、港の倉庫が大混乱に陥っていました。
実は今年、業界の常識をくつがえそうと、前代未聞のプロジェクトに挑んだ人たちがいたのです。
大阪にある「株式会社徳岡」
お酒の卸や輸入を手掛けています。
【徳岡グループ・徳岡豊裕代表】
「CO2を95%削減するという社会的貢献をみんなでしていこうというのが、必ず共感を得ることやから。これをとにかくやっていこう」
代表の徳岡豊裕さんが発案したプロジェクトとは…
”30万本のボジョレヌーボーを陸路で輸送”
日本から1万キロ離れたフランスのボジョレ地区。
その年に収穫されたブドウでつくるのが、ボジョレ・ヌーボーです。
解禁日に間に合わないと価値が下がってしまうため、数日で日本に到着する飛行機で輸送するのが常識ですが…
これを、史上初めて”鉄道”で運ぼうというのです。
産地のフランスから中国までを鉄道で、そして中国から日本までを”船”で運びます。
1万キロを1カ月かけて運ぶ、長い道のりですが、その理由とは…
■「ボジョレ」にも新型コロナウイルスの影響…しかし“逆手にとった戦略“で「低価格・エコ」に挑む!
【徳岡グループ・徳岡豊裕代表】
「(新型コロナウイルスの影響で)6割くらい、飛行機賃が上がっているんですよ」
「本当に困ったなと思ったところに列車というところに挑戦してみようと」
鉄道は飛行機に比べて輸送コストが安く、販売価格を例年より1割ほど引き下げることができます。
さらに、CO2排出量を95%削減できるため、「低価格でエコ」な商品を提供しようというのです。
一方で、トラブルが起きた場合、間に合わなくなるリスクがあり、まさに「賭け」ともいえる選択です。
【徳岡グループ・徳岡豊裕代表】
「コロナを逆手にとるというくらいの気持ちでビジネスをしていくことが大切だと思います」
解禁日の約1ヵ月半前、商品を乗せた列車がフランスを出発しました。
プロジェクトを任されたのは、海外営業部の進藤芳明さん。
【株式会社徳岡・進藤芳明さん】
「ドイツを越えて、ポーランド国境まで来ているという」
列車の位置をGPSで把握し、順調に進んでいるかどうか確認する毎日です。
【株式会社徳岡・進藤芳明さん】
「本当に毎日どきどきというか、心がすり減るような気持ちで待っていますね」
その間にも、他の大手メーカーの商品は、航空便で次々と日本に到着していきます。
解禁まで20日あまりとなった10月末、トラブルが起きたとの連絡がありました。
――:Qどういう状況ですか
【株式会社徳岡・進藤芳明さん】
「かなり想定していたよりも、いろんな問題が発生して、かなり厳しい状況であるのは間違いありません。」
■“通関検査”に“渋滞”…トラブルが次から次へ 「解禁日」に間に合うか?
ポーランドとベラルーシの国境付近で税関検査が予想以上に長引き、10日以上足止めに。
さらにカザフスタンと中国の国境付近で貨物列車が渋滞。
解禁日に間に合わなくなる懸念が出てきたのです。
【徳岡グループ・徳岡豊裕代表】
「地球環境を守るためにみんなでやろうや!と先頭きってるだけなんやと。だから11月13日までに(日本に)着けなあかんことを理解してもらわなあかん」
「6日・7日に(中国に)着いたら即通関して、10日の船をつかまえて、そこは」
【株式会社徳岡・進藤芳明さん】
「全力尽くしてます…」
中国から船が出港することになったのは、解禁の6日前。
しかし、トラブルは船でも・・・
【株式会社徳岡・進藤芳明さん】
「最新は最新です。思ったより到着時刻が8時間ほど遅くなっちゃってるんですよ。荷物おろす時間がなくなっちゃってるんで、すごくまずい」
大阪港への到着が大幅に遅れるという情報です。
配送作業に大きな影響が出ることになります。
ーー:Q次から次にですね…
【株式会社徳岡・進藤芳明さん】
「本当にそうですね…」
そしてついに…
【徳岡グループ・徳岡豊裕代表】
「あー来た。見えた」
「間違いない間違いない、OKOK、来たやっと」
ボジョレ・ヌーボーを乗せた船がついに大阪に。
当初の計画より、10日以上遅れての到着です。(解禁の3日前)
【株式会社徳岡・進藤芳明さん】
「あーやっと来たかというところですね、ほんとにやっときたかと」
「船が目の前で到着して通過していく様子を見ると、ちょっと感慨深いですね」
残る作業は、百貨店やスーパーなど、取引先へ配送するのみ!
社員総出で取り掛かります。
■「これでプロジェクトは無事終わる」誰もがそう思っていたが…
【徳岡グループ・徳岡豊裕代表】
「荷物が移動できないんですよ。そんなん理由にならないですよ」
「今日入港することなんてわかってるわけやから。朝から。それはすんませんでは絶対すまんですよ」
税関を通過する手続きでまたしてもトラブルが発生。
目の前に商品はあるのにも関わらず、配送ができなくなってしまったのです。
【株式会社徳岡の社員】
「完全にタイムリミットになってしまって、今日の出荷がもう間に合わないので。明日の出荷、水曜日の着になってしまいそうなんですね…」
取引先への説明に追われる社員を尻目に、商品を積んで全国へ向かうはずだったトラックが、空のまま倉庫を後にします。
結局、税関を通過できたのは、翌日…
進藤さんや徳岡代表も汗だくになりながら、配送作業を手伝います。
夕方になって、商品を乗せたトラックがようやく出発。
急遽タクシーを使って運ぶところも…
解禁ぎりぎりで、ほとんどの商品を届けることができました。
―――そして、解禁日の午前0時―――
【徳岡グループ・徳岡豊裕代表】
「おいしい!」
列車の揺れや気温の変化による品質の劣化が心配されましたが、例年以上のおいしさに、一安心です。
【徳岡グループ・徳岡豊裕代表】
「我々の努力が地球環境を守るために、何らかお役に立つとすれば、感無量です」
【株式会社徳岡・進藤芳明さん】
「毎回毎回泣きそうな顔してたと思うんですけど、本当にある意味報われた日だと思っています」
地球環境にやさしく、低価格のボジョレ・ヌーボー。
業界の常識を変える、確かな一歩を踏み出しました。