子供が出来ない夫婦にとって、大きな希望となっている第三者からの「精子提供」。
本来は、認定を受けた病院が提供し、治療を行っていますが、今、SNSを通じて個人間で精子を取り引きするケースが相次いでいます。
その背景には何があるのか、当事者たちが取材に応じました。
SNSで…学歴や容姿をアピール
A型、二重、院卒…、大手企業・高身長・イケメン
学歴や容姿の特徴などをアピールするSNSへの書き込み…。
妊娠を望む女性たちに、個人で“精子の提供”を行っているアカウントです。
中には…
【記者】
「こちらのアカウントは『赤ちゃん28人誕生』とあります」
大勢の子供が生まれたと謳うものまで…。
なぜSNSを介した精子提供が広がっているのでしょうか。
無精子症に悩む夫婦…病院探しにも苦闘
群馬県に住む夫婦。
子どもがなかなか出来ず、3年前のある日、夫の精液を検査することに。
その結果…
【夫】
「ここに“精子確認できず”ってのがあるかなと思います」
下されたのは、“無精子症”の診断。
【夫】
「いや、まさかですよね。」
男性の100人に一人が“無精子症”といわれています。
夫婦は、夫以外の第三者からの精子提供を受けて人工授精をするAIDと呼ばれる治療を行うことを決め、病院に問い合わせると…
【妻】
「東京都の病院だと、百何十人待ちっていうメールが来たり、夫(2年待ちとか)2年待ちとかだったので、そのとき30歳目前だったので一日でも早く妊娠の可能性が高いうちに(AIDを)受けたいなっていう気持ちはありました」
なんとか見つけたのは、自宅から離れた新潟県の病院。精子提供を受けて、無事に去年女の子を出産しました。
【妻】
「本当に病院を探すのが一苦労でしたね」
国内でAIDを行える病院は日本産科婦人科学会の認定を受けた12カ所。
2017年には、115人がこの治療によって生まれましたが、近年、ある問題に直面しています。
減少する「精子のドナー」…匿名性の問題が
【慶応義塾大学病院産婦人科・田中守教授】
「国内では、通常そうだが、匿名のドナーの精子を使用する形になっています。一方、法的な解釈が今後変わってくる可能性があるので、20年後急に、私の子供です。私を扶養してください。そういうことが出てくるという可能性がある。そういう状況を話すと段々ドナーが減ってきた」
生まれた子供が自らの父親を知る権利が世界的に認められつつあり、日本でも将来、ドナーの匿名性がどこまで守られるのか、見通しが立たなくなりました。
国内の治療の約半数を手掛けていた慶應義塾大学病院ではAIDの件数が2年間で半分に…
【慶応義塾大学病院産婦人科・田中守教授】
「年々、他もどんどんAIDするところが少なくなっているので、アンダーグラウンドで(精子を)手に入れる方向に向かっている」
『提供自体は100人位、妊娠は60~70人』
こうした中インターネット上には…
【記者】
「ツイッターで“精子提供”を検索してみます」
画面に出てくるのは、数えきれないほどの精子ドナーを称するアカウント。
実際どのような方法でやり取りしているのか。
1人の提供者が取材に応じました。
【精子提供・jpを運営 西園寺優さん(仮名)】
「例えばレンタルルームとか、ホテルとか、シリンジという器具を使って、液体を吸い取る、注射器を使って、(精子を)取って、膣の中に精子を入れる。タイミング法は性行為です。シリンジ法もタイミング法もやっていて、どういったやり方がいいか面談で話して決めながらやっている」
不妊で困っている知り合いに頼まれたのがきっかけで、10年ほど前から精子提供のボランティアを始めた西園寺さん(仮名)。
これまでに提供した人数は…
【西園寺優さん(仮名)】
「提供自体は100人くらいはしてると思います。~(妊娠したのは)6~70人だったと思います」
――Q:渡している対象は?
「対象はだいたい3つに分かれて、男性不妊のカップル、もう一つがシングルマザー希望の人。最後が同性愛関係ですね。困ってる人を助けたいというのが、一番大きいですね…」
西園寺さんは提供を受ける女性が不安にならないよう、学歴などを提示するほか、定期的に性病の検査も受けているということです。
インタビューを終え、これからの予定を聞くと…
【西園寺優さん(仮名)】
「精子提供に行こうと思っています」
西園寺さんはこの日も精子提供の活動に向かっていきました。
しかし医師は、SNSを介した精子提供のリスクはぬぐえないと指摘します。
エイズや梅毒…性行為感染症のリスクも
【慶応義塾大学病院産婦人科・田中守教授】
「性行為感染症ですね。エイズとか梅毒とか、肝炎とか、精子に含まれているかもしれないウイルスによって人工授精すると、女性に感染する可能性があります。(病気だと)隠そうと思えば隠せるものだと思うので」
病院で提供される精子には条件があり、性感染症などの検査はもちろん、近親婚を防ぐため、一人の提供によって生まれる子供は10人まで、といった指針が定められています。
一方で、SNSではすべてが自己責任となっているのです。
SNSでの精子提供に「頼らざるを得ない」人も
安全とは言い切れない方法…しかし頼らざるを得ない人たちがいます。
【角川さん(仮名)】
「僕が娘を沐浴している動画です。生まれて一週間、かわいくてたまんないですね。奥さん似なので、余計に…むちゃくちゃかわいいです」
9月子供が生まれたばかりの角川さん(仮名)。
女性として生まれましたが、性別適合手術ののち男性に戸籍を変更。去年、結婚しました。
夫婦で相談し、精子提供を受けようと病院に問い合わせましたが、性的マイノリティであることを理由に断られ、悩んだ末に辿り着いたのがSNSでした。
【角川さん】
「SNSで一人とは決められないので、その中で何人かにDMを送らせてもらったときに、一番本当に信頼できる人が今貰った人って感じです」
――Q:怖い面は?
【角川さん】
「怖い面はあります。傷つくこともありますけど、(SNSを)利用して探すって決めたのであれば、耐えないといけないんですよね。僕たちみたいな人でも安心して精子提供を受けられるように、病院で手助けしていただけたらなと」
多様化する家族の形。
安心して子供を産むためのルールが追いついていません。