在宅勤務やオンライン会議。
社会に新しい働き方が浸透しつつある中、いま徐々に広がりを見せている“考え”が…。
「オフィス、都会になくてもいいんじゃない?」
8月、大手人材派遣会社のパソナグループが東京本社の社員1200人を兵庫県の淡路島に移すと発表し話題になりました。
そこで実際に「都会を離れた」企業を見てみました。
豊かな自然が広がる徳島県つるぎ町。今年4月、ある会社がオフィスを構えました。
その会社は「渋谷地下街株式会社」です。
【渋谷地下街つるぎ町事業所 小宮俊輔所長】
「集中力はこちらの方がいいでしょうね。ここは換気もできますし、外の空気がいいので。ホトトギスのBGMもありますから、環境的には申し分ないですね。」
つるぎ町事業所で所長を勤めるのは東京からやってきた小宮俊輔さん。
会社はその名の通り、本社が東京・渋谷にあり、有名なスクランブル交差点の真下にある商店街、通称「しぶちか」の管理などを行っています。
その会社のオフィスがなぜつるぎ町にやってきたのでしょうか。
【小宮所長】
「簡単に言うと、どこでもいいだろうと。家賃や高騰、人件費の高騰が現実的にありますので、つるぎ町に移そうと思った事業に関しては、とかく都会にこだわってやる必要はない。」
つるぎ町のオフィスに移したのは、会社内の「デジタルイメージング事業」。
企業から預かった大量の紙の書類をデータ化する部門です。
専用の機械とインターネットの環境さえあれば、ロケーションはどこでもいいと判断。
会社は移転を決めると、つるぎ町の住民から社員を7人採用し、事業を開始したのです。
つるぎ町事業所スタートの日。
地元採用の社員に小宮所長が仕事を教えていきます。
皆さん、和気あいあいと働いています。
【地元採用の男性】
「素晴らしいですよね。田舎にいて、東京でする仕事を同じようにできるというのは魅力を感じました。」
【地元採用の女性】
「(サテライトオフィスを作って、)田舎も活気付くものがあったらすごく良いことだなと思いました。」
山に囲まれたつるぎ町ですが、東京とのやり取りは…。
【オンライン会議】
(本社)「大変だろうけど頑張ってな」
(小宮)「ありがとうございます」
「想像以上に(音も映像も)クリアで、普通に会議しているような感じでできるので問題ないと思います。」
つるぎ町を選んだ大きな理由はここにありました。
徳島県はテレビが地上デジタル放送に移行する2011年、電波が届かなくなってしまう地域が出ることから、県内全域に光回線を整備。
この結果、山間部でも高速のインターネットが利用できるようになっていたのです。
人口減少に直面する中、このインフラを活用して県内で企業を誘致。
今ではサテライトオフィスなどを構える企業が約70社になっています。
【安倍晋三首相】
「緊急事態宣言を発出することといたします。」
渋谷地下街がサテライトオフィスを開業した矢先、新型コロナウイルスの感染が急激に拡大。特に感染者数の多かった東京では、本社オフィスが通常の営業をストップせざるを得なくされました。
【小宮所長】
「全く想定していなかったですね。本社の方は、全体的にお仕事が止まっちゃうような状況でした。」
しかし、感染者の出ていないつるぎ町のオフィスは事業を継続。
そのさなかに地元採用も続け、社員は12人にまで増えています。
【小宮所長】
「会社の判断として『間違ってなかったな』という自信に繋がりましたので、多角的にもっと違った仕事もできるんじゃないかという視点に立ちながら、(つるぎ町の)皆さんとこれからも仕事を続けていきたいなと思っています。」
今後は、別の事業もつるぎ町に移転することを考えています。
新型コロナで再確認された可能性。
その流れは関西の都市部の中でも広がっています。
【神戸市・久元喜造市長】
「東京、大阪、こういうようなところから感染症が広がったということを考えれば、豊かな自然環境の中で仕事をしたい、暮らしたいという志向が出てくるのではないか。」
神戸市が今年5月に打ち出したのは「六甲山の活用」。
六甲山上にはかつては200以上もの企業の保養所や別荘がありましたが、バブル崩壊や震災の影響で空き家だらけに…。
そこで神戸市は方針を大転換。
これまで禁止していたオフィス設置を許可し、空き家の改装費用を一部負担するなど、企業の誘致に乗り出すことに。
問い合わせはすでに50件を超えています。
神戸市で製造業や経営コンサルティングを営む「アマデラスホールディングス」もそのうちのひとつです。
【アマデラスホールディングス・坂井幸嗣CEO】
「東京にずっといたんですけども、神戸に戻ってくるにあたって、なんか東京と同じようなところで働きたくなかったんですよ。集中する、そして煮詰まった時に散歩してリラックスする、私はすごくここの場所は仕事するのにいい場所かなという風に思っています。」
代表の坂井さんは2年前、六甲山上にあった別荘跡を改装し、会社のセミナーハウスや自分専用のワーキングスペースを設置しましたが、さらに本社の機能を六甲山上に移転することを検討しています。
そのきっかけは新型コロナでした。
【坂井CEO】
「コロナがこういう風に凄い猛威を振るうようになって来た、そしてだんだん我々の働き方に対する考え方も変わってきた、そんな中で『私だけがここで働くのはちょっともったいないな』『もっとこの場所を利用できるようにしたいな』と。いろんな場所で働ける、そういう選択肢を用意するというのが、これからのアフターコロナの経営の1つのやり方かなと」
コロナが一気に追い風となったオフィスの転換。
今後、働く環境はどう変わっていくのでしょうか。