鮮やかな色で描かれたキリンに…
ダイナミックなひまわり
実は…指先ほどしかない、小さな小さなキャンバスに描かれたものなんです。
縦3cm、横2.5cm その名も“マイクロキャンバス”。
元町の高架下にあるアートギャラリーを、一人の女性が訪ねました。
【池上まりのさん】
「こんにちわー。マイクロキャンバスをしたいなと思って。買いに来たんですけど」
【ギャラリー運営者の女性】
「初めてですね?」
【池上さん】
「初めてです」
500円で真っ白な “マイクロキャンバス”を買いました。
きちんと絵を描くのは、中学生のとき以来だといいます。
【池上まりのさん】
「これだけ小さいので、何を描こうか悩みますね…」
マイクロキャンバスに初めて挑戦する池上まりのさん。
普段は神戸市のジャズバーでバーテンダーとして働いています。
【池上さん】
「“夜の街”だとか、お酒を飲む機会を減らしてる方もいらっしゃるし、行きたくてもいけない人もいますし。実質2カ月くらいは丸々お休み頂いていて、週一回ライブをしていたがお休みしていたので、再開することはできたんですけど、対策は必要なので」
新型コロナウイルスの感染拡大で仕事も減るなか、この“マイクロキャンバス”をSNSで知りました。
【池上さん】
「こういう機会がなかったらギャラリーに行くこともなかった。絵をかいてみようとか、いい機会というか、すごくいい企画だと思う」
この「マイクロキャンバス」の仕掛人は、意外なところに…。
「神戸市企画調整局つなぐラボ特命係長の志方功一です」
異なる部署同士や、役所と民間とをつなぐ新部署「つなぐラボ」
しかも「特命係長」なのです。
特命係長はある現場へ。街中に描かれたこの大きな壁画は今担当しているミッションです。
「結構大きいですね。今まで描いた中でも大きい」
【志方さん】
「こういうのが街にぽつぽつとあれば、歩く楽しさが生まれるかもしれないですね」
神戸市が進めている“アートで街を彩るプロジェクト”。
志方さんは市民の反応を探る実証実験を担当しています。
神戸の街に増えてきた、大きなアート。
一方で、もっと多くの市民が親しめるようにと発案したのが“マイクロキャンバス”でした。
【志方さん】
「元々アートを仕事で調べてまして、調べてる中で、なかなか作品自体が売れにくいというのがありましたので、ただ展覧会とかでアーティストに聞くと、グッズが売れたり小さい作品は売れやすいと聞いていたので…私はバッチとか、そういうのが好きで、仕事のカバンにもたくさんつけてるんですけど。“もしかして、バッチみたいなグッズみたいな実際の作品があれば、皆さんのアートの見方が変わるんじゃないか、ちょっとおもしろいことになるんじゃないか”ということで思いついたのが、マイクロキャンバスというピンバッチ仕様の小さいキャンバスだったんですね」
キャンバスの製作は、福祉作業所に依頼しました。
【製作する「カナウあーとべーす童夢」のスタッフ】
「その人が身に着けたり観賞しているときに、幸せな気持ちや落ちついた気持ちとか、ポジティブな気持ちになれるような絵を描いてほしいです」
「それぞれの世界観が溢れるような作品を作ってもらいたい」
小さくても本格的なキャンバスが出来上がっていきます。
志方さんは、マイクロキャンバスの展示会を開くことにしました。
自ら足を運び、市民や美術系の学生たちが仕上げた作品を、集めていきます。
作品作りに取り掛かるバーテンダーの池上さん。
…ですが、普通の紙に絵を描いています。
【池上さん】
「ほんとに昔から絵が苦手で、絵が上手に描けないんですけど」「絵の具を使った後の」「絵の具が混ざった感じがすごく好きで。そっち(パレット)の方が自分が描いた絵よりきれいで」
と、絵を描くことが苦手なことを逆手に取り…
「マイクロキャンバスをパレットにしてみようかと思いました。描いてる方がパレットで、パレットに使ってる方が描く方?なんか逆にしてみようかなって」
マイクロキャンバスで“絵を描いた後のパレット”を表現しました。
【池上さん】
「マイクロキャンバスだからできること。大きいキャンバスだったら怒られますよね。これに値段つけるて売るっていうのはめっちゃ難しい。大丈夫かこれ…」
悩んだ末、値段は700円に。
池上さんの作品は無事売れるのでしょうか…。
集まったマイクロキャンバスは約300点。
丁寧に飾っていきます。
【志方さん】
「結構イメージ通りの…ガラス張りなのがすごくよかった。中に入らなくても観賞できるというのがこのコロナ時代の中で。屋外展示に近いですよね」
最大限感染対策をしたうえでのオープンです。
【お客さん】
「宗石さんの、これいただきます」
【志方さん】
「展示時間2分でした」
子供から大人まで、プロの画家も市民も…
自由な発想で小さなキャンバスが様々な形のアート作品になりました。
【訪れたアートギャラリー運営者】
「多様性がある、方向性が決まってないのが面白いなあって。いいよね、神戸らしくて」
【志方さん】
「マイクロキャンバスは画材だけど、、ただ単に画材というだけじゃなくて、福祉や医療、企業もそうだが、いろんな分野で活用されるアイテムになって、まずは神戸をつなぐようなマイクロキャンバスになることを願っています」
小さくて、壮大なアート。
人々を惹きつける不思議な力があるようです。