大阪府岬町にあるニットメーカー「月城」
1966年に創業し、半世紀以上、職人が婦人向けのセーターやカーディガンを1枚1枚つくり、アパレルメーカーや小売店などに卸してきました。
【株式会社月城・月城亮一さん(26)】
「秋冬の商品の在庫になります。去年売れ残ったものですね」
3代目の月城亮一さん(26)の悩みは、積み上がった2万枚の在庫。
発注量を見込んで商品をつくる業界特有のやり方を続けてきたため、ここ数年は赤字が続いています。
【株式会社月城・月城亮一さん(26)】
「翌年、もう1度売る努力をして、でも売れ残ってしまうのが実情ですね」
日本のアパレル業界は、バブル崩壊後、市場が縮小する一方、供給量が2倍に増えているといういびつな構造になっています。
そこに追い打ちをかけたのが新型コロナウイルスの感染拡大。
店舗の閉鎖も相次ぎ、消費が冷え込みました。
帝国データバンクによると、近畿圏で倒産したアパレル関連企業は、5月だけで14に及び、ダーバンやアクアスキュータムなどで知られた大手「レナウン」までもが倒産。
月城も例外ではなく、今シーズンの秋冬ものの発注がゼロになりました。
【株式会社月城・月城亮一さん(26)】
「この3年で売り上げ半分、従業員さんの方々も半分くらいになりまして。新規営業で新しいところを開拓しても、結局翌年つぶれたりとかそういうケースが非常に多かったので」
このままでは、会社の存続が危ない。
現状を打開するため、亮一さんは新商品を開発。販売のやり方も変えることにしました。
【株式会社月城・月城亮一さん(26)】
「いま、クラウドファンディング(サイト)で販売中のメンズのサマーニットですね。夏でも涼しく着られるサマーニットになっています
新たに開発したサマーニットは、触れると冷たさを感じる、特別な糸を使っていて、ビジネスマンをターゲットに、首元もしまったつくりになっています。
これを、需要調査をかねて、4月末からクラウドファンディングサイト、「マクアケ」で予約販売することにしたのです。
アパレルメーカーなどに卸さず、消費者から発注を受ける分だけ作ることで在庫が生まれないほか、値段も、従来なら1万5000円ほどかかるところ、第三者を介さないことで、6000円ほどに抑えられます。
【株式会社月城・月城亮一さん(26)】
「この現状のおろしを続けても将来性がまったくないと思ったところですね。なんとかしないといけないという思いがあってはじめました。逆にコロナが新規事業をする上で、後押しをしてくれたというか、そういった風にとらえております」
すると、売り上げは、目標の50万円をはるかに上回る約900万円になりました。
【応援コメント】
「フォーマルなシャツを探していたので即決しました。とくにクビ周りがいい感じです」
「日本のニット工場を守り続けてください!」
予想以上の好評に、父親である社長も含め、従業員全員でサマーニットの増産に取り組んでいます。
【株式会社月城・月城次啓社長】
「正直言いまして、そんなの上手いこといくんかなと、どっちからといったらネガティブな考えで、ずっとおりましたけれども。やってよかったなと。これはもっと力を入れて今後やっていけば、この時代の中で生き残っていけるん違うかなと確信に変わっています」
関西では、こうしたインターネットでの販売を自治体が支援する動きもあります。
1928年に神戸で創業した、萩原珈琲。
レストランや喫茶店に焙煎した珈琲豆を卸しています。
日本で初めて炭火を使った焙煎を始めたとされていて、手間ひまを惜しまない姿勢をつらぬいてきました。
【萩原珈琲・萩原英治マネージャー(38)】
「遠赤外線で中まで焼けてくのが特徴です。効率も大事なんですけど、効率より手間をかけて、他社にはないような、付加価値というか、ちょっとニッチなところを目指したい」
新型コロナウイルスの流行以降、取引先からの発注は減り、売上は6割ほど落ち込みました。
いまは、稼働する焙煎機も減らして、対応しています。
【萩原珈琲・萩原孝治郎社長(67)】
「阪神・淡路大震災の時はダメージというか、0からのスタートだったけど先が見えたんですね。コロナの場合は先が見えない。不安は今のほうが大きい」
そこで、萩原珈琲では、ウイルスの終息が見えない中 どうにか活路を見出そうと、これまであまり力を入れていなかったインターネット通販を強化することにしました。
【萩原珈琲・萩原英治マネージャー(38)】
「サイト内で、珈琲の淹れ方ものってない。動画ですとか、買ったあとの楽しみ方まで提案できるサイトに変えることができれば」
この日、萩原さんは、オンラインで会議をしていました。
相手は、東京のIT関連企業で働いている男性です。
【萩原珈琲・萩原英治マネージャー(38)】
「口コミで広まっていくような、そんなサイト作りが最初の目標なのかなと感じています」
インターネット通販を強化しようにも、萩原珈琲には、その技術やアイディアを持つ 従業員がいるわけではありません。
こうした中、神戸市が支援制度を始めました。
神戸市が人材派遣会社と提携。
それぞれの企業が、手伝ってほしい分野に詳しい人材を募集し、提携した派遣会社が紹介します。
採用が決まれば、神戸市が企業に対して人件費の半額を3か月限定で助成します。
神戸市では、これまで10社程度の企業に支援を行ってきました。
【神戸市新産業課・栗山麗子さん】
「新しい取り組みをすることで、現状を乗りきるだけじゃなくて飛躍につなげていただける取り組みをしていただける」
【萩原珈琲・萩原英治マネージャー(38)】
「チャレンジをしないと、本当に文化が変わりそうなタイミングで変われなかったら生き残れないと思う、変化する意識を失わないでおこうとは思っています」
「危機」のなかで、変化に取り組む老舗企業。
ニット工場の立て直しを図る月城亮一さんは、インターネットでの販売を始めたことで、新たな出会いもありました。
【株式会社月城・月城亮一さん(26)】
「きょうは松屋銀座さんとの商談で東京に来ています」
クラウドファンディングサイト「マクアケ」を見たという東京の百貨店・松屋銀座本店のバイヤーから、店頭で販売したいとのオファーが、亮一さんに寄せられました。
【株式会社月城・月城亮一さん(26)】
「価格では絶対負けないかなと。ただ価格でかつ負けるではなく、工場として普通にものつくって、しっかり、良さを伝えて、やっていけば、大丈夫なのかなと」
【松屋銀座本店・バイヤー】
「シャリ感もあって、触った時にひんやりしますね」
実物を確認し、その日のうちに、店頭での販売が決まったのです。
【株式会社月城・月城亮一さん(26)】
「すごくよかったですね。ECとりくんでいけば、今まで想像できなかったことが起こるんではないかなと思います」
来月以降は、自社の通販サイトを新たに始めるという亮一さん。
時代の荒波を乗り越えるための変革は続きます。