今回は、iPS細胞の研究でノーベル賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授との対談企画です。
ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、山中教授にとって新型コロナウイルスは専門外なのですが、自らホームページを立ち上げてウイルスに関する情報を発信し続けています。
この未知のウイルスについて、どう伝えるべきか、そして、私たちはどう付き合っていけばいいのかを伺いました。
対談させて頂いたのは、今月1日。
【山中教授】
「お待たせしました山中です」
【新実彰平キャスター】
「新実と申します。よろしくお願いします。お忙しいところありがとうございます」
緊急事態宣言が解除された今も、研究所への立ち入りが制限されているため、対談はリモートに。
分刻みのスケジュールの合間を縫って15分、貴重な時間を頂戴しました。
【新実】
「早速ですが、平素から先生の情報発信されてるホームページは私達メディアの人間も大変参考にさせていただいていまして、感染症を一番の専門にされている訳ではない先生が情報発信につとめていらっしゃる理由は?」
【山中教授】
「2月の後半ぐらいになってこのウイルスのことを知れば知るほどすごく危機感を持ちまして、本当に専門家の方の間でもこのウイルスの脅威が『インフルエンザの方が大変だ』とおっしゃる方もいましたし、どれくらい蔓延から終息までかかるかを、そんなに長期とはっきり言う人はほとんどいなくて、私が考えれば考えるほど、そんな簡単に収まらないということが明白でしたので『長い闘いです。長い対策が必要です』と、何とか発信しようと思って始めました」
山中教授は、ほぼ毎日ホームページ上で国内外の最新研究などを情報発信。
活動はそれだけにとどまらず、インターネット番組での安倍首相との対談では、コロナウイルスの治療にあたる医療従事者たちの大きな負担、そして社会からの偏見や差別の存在を訴え、「努力にみあう手当は付くべき。首相のリーダーシップで改善してほしい」と求めました。
この対談の約20日後、安倍首相は―
【安倍首相】(5月25日)
「ウイルスとの闘いの最前線で奮闘してくださっている医療従事者、病院スタッフの皆さん、介護事業所の皆さんに、心からの感謝の気持ちとともに、最大20万円の給付を行う考えです」
政府がこうしたケアに動き出す一方で、医療従事者などへの差別や偏見は、いまだに根強く残っています。
【新実】
「『医療従事者だけをとりわけ警戒するのは見当違いなんですよ』と私たちも放送で申し上げるんですが『無症状感染者がいる以上みなさん、お互いに警戒しあうんだよ適度に。これが適切なんだよ』と申し上げるが、どんな言い方が適切なのか、どんな伝え方が一番伝わるのか、先生はどうお考えでしょうか?」
【山中教授】
「コロナ患者を受け入れている病院・病棟ではかなり気をつけているので、リスクはかなり少ない。実際、兵庫県等でコロナ患者の診察にあたっていた医療従事者の全員の抗体検査をして陽性者がいなかったデータも出ています。そういう意味では感染リスクは、一般の人と変わらない。もしかしたら逆に少ないかもしれない。どうしても私たちは良いことは割とすぐ忘れちゃうが、怖い情報、そういうものはけっこう残る傾向があると思うので、できるだけ正しい、今分かっている正しい情報を正確に繰り返し伝えることが非常に大切じゃないかと思います」
山中教授は「情報を正確に伝え続けること」と同時に、「新たな情報に合わせて考えや行動を変えるのが大切だ」と訴えています。
【新実】
「そういう意味では今、学校をどうするかがすごく問題になっています。北九州で感染が学校で広がったのではないかという事例が出てきて、一方で『子どもは重症化しにくい。子どもは実はあまり移さないんじゃないんじゃないか』と“分かってきている風”のことは様々あるんですが『休校してたから表に出てなかっただけ』と思う向きもある。先生、学校ってどう考えていらっしゃいますか?」
【山中教授】
「新実さんが言われたとおり、これまであまり子供さんが重症化したりとか、子供から他の人に大規模なクラスターというのはほとんど報告がないと思うが、ただ、日本は2月末から休校をずっと続けてきたので、そのお陰だったかもしれない。全国で学校が部分的に始まると思うんですけど、これは注意深く見守って、少しでも子どもさんから感染が広がる兆候があれば、学校の学び方も再修正する必要があると思います。『一旦決めたからずっとこう』ではなくて、よく状況を見てやはり、修正が必要だったら修正するというのが大切だと思う」
そのうえで、社会が再び動き始めている今、大切なことは何なのでしょうか?
【山中教授】
「分からないことも多いんですが、今はちょっと一段落してさらに対策をする時間ができています。ですから、この間にできることは一生懸命やるべきで、例えば医療体制をより強化・強力にする。そして、濃厚接触者の追跡を今までは保健所職員が電話とかで献身的にしていただいたが、それに加えて例えばアプリの利用で効率的に濃厚接触者を追跡して、そういう人を早く検査する。症状が出る前、発熱とか咳とかをし出す前にPCR検査をして、もし陽性だと分かればきっちり隔離する。そうすることによってそれ以外の社会全体の経済の自粛はかなり緩和できると思う。こういう努力が必要だと思います」
【新実】
「分かっていること、分かっていないこと、我々が冷静に伝えるべき責務を負っているが、正直先生から見ていてメディアは頼りないですか?」
【山中教授】
「いやいや、そんなことはないです。2月からの発信のお陰で、日本人は非常に正しい行動というか、緊急事態宣言が発令されたのは4月7日ですけども、実はその時には既に感染のピークは過ぎていたというデータも出てきていると聞いています。それは緊急事態宣言が出なくても多くの国民がメディアを通じて、このウイルスの怖さを十分理解して、国や地方自治体に言われなくても自ら自粛というか、いろんなことを始めました。ですからメディアの力は非常に大きいと思う」
【新実】
「お時間ですね。最後に闘いがこれから長期化する、長くなるのにあたって最も大事なことは先生、何だと思いますか?」
【山中教授】
「私も最初は闘いという言葉を使ったんですが、今は闘いという言葉は使っていません。ウイルスとの共存だと思っています。いつ自分が感染していてもおかしくない。誰にでも等しくそのリスクはある感染症。だから、万が一自分が感染していても、周りの家族とか周りの大切な人に移さないという思いやりをみんなが持つことが大切だと思う。みんなで責めたり非難しあうのではなくて、いかにみんなで守りあえるか、みんなで励ましあえるか、長い対策になりますので、僕、マラソン走りますが、長いマラソンも応援があると走れるが、一人では走れないので、そういう助け合い、支えあい。それが大切だと思います」