滋賀県大津市の交差点で保育園児らの列に車が突っ込み、2人が死亡し、14人が重軽傷を負った事故から、5月8日で1年となりました。
あのような悲惨な事故が二度と起きないように、現場で祈りが捧げられました。
1年前の5月8日、この場所で、幼い2人の命が奪われ、多くの園児が癒えることのない、悲しみや傷を負いました。
去年、大津市の交差点で、直進車と右折車が衝突して、散歩中の保育園児らを巻き込み、伊藤雅宮ちゃん(2)と原田優衣ちゃん(2)が死亡、園児と保育士14人が重軽傷を負いました。
ルールを守って散歩していただけの園児たち。
車を運転していた女は、「考え事をしていた」と言います。
そんな不注意な運転で、幸せな日常があの日から一転しました。
【事故現場に訪れた人】
「あれから1年経つのかと思ってね、ご冥福を祈るし、こんなことがあったら本当にいかんと思う」
【事故現場に訪れた人】
「小さい命が奪われて残念だし悔しい。自分が事故を起こすかもしれないという気持ちをもって運転しないとあかんと思う」
訪れた人たちは、犠牲者に思いをはせ、祈りを捧げていました。
『パパ美味しぃ』
この事故に巻き込まれた4歳の女の子。足を骨折するなどの重傷を負い、2ヵ月半も入院しました。
現在も定期的に通院しています。
父親は女の子が事故で大きく変わったと話します。
【重傷を負った女児の父親】
「左の太ももの付け根が折れちゃってて、あと腰の真ん中ぐらいにひびが入っている状態です。痛み止め打つまではずっと痛い痛いって叫んでいる状態で、見てられなかったですね。かなり臆病になって、スーパーに行った時とかも駐車場で、絶対手をつながないと動けないとか、安全なガードレールが、しっかり整備されている歩道を歩いているのに『ここだったらプップーこない?』とか言ったりとか、なんかの拍子にしゃがみこんじゃって足が痛いとか言い出したり」
事故の翌月、滋賀県は現場交差点にガードパイプを設置。
さらにゼブラゾーンを拡大することで交差点が狭くなり、車は、スピードを出しにくくなりました。
そして国は、全国の自治体に保育園児らの散歩コースの安全点検を指示。
その結果、全国の約3万6000カ所で対策が必要であることがわかりました。
【重傷を負った女児の父親】
「歩道と車道の区別があまりないような危険な道が県内にも市内にも多くて、事故がおきた現場だけでなく、広い視野を持ってもらって、整理していただければなと思います」
滋賀県では、1500ヵ所以上の場所で対策が必要と分かりました。
しかし、大がかりな工事は、費用などがかさむため、対策が完了したのは110ヵ所ほど。
ハード面での整備はなかなか進んでいないのが現状です。
そうした中、散歩をする園児のリスクを少しでも減らそうと、事故がおきた大津市内の警察署では、あるシステムを活かそうとしています。
【滋賀県大津警察署 北川秀平 交通第一課長】
「事故が発生した場所をバッテンで表示しています」
それは「GIS」と呼ばれる地理情報システム。
どこでどのような交通事故が起きたのか、過去10年間のデータが蓄積されています。
【滋賀県大津警察署 北川秀平 交通第一課長】
「これまでは取り締まりをするときに、いかに効果的に取り締まりをするか、多発している箇所での交通安全教育、交通安全啓発を行っていました。保育園幼稚園の園外保育に、お散歩コースの指導の時にこれを活用してやっていくことを考えています」
130人の園児が通う「におの浜保育園」。
早速このシステムの活用を始めました。
【保育園での打ち合わせ風景】
「ここは歩道がずっとあるんですけど、ここの道がちょっと歩道が無いので」
琵琶湖の目の前にあるこの保育園では、湖岸に沿った道が、園児の主な散歩コースになっていますが、そこにもGISで「危険」とされるポイントが…。
【におの浜保育園 小林郁夏保育士】
「こちらを通って湖岸に出るための横断歩道なんですけど、信号がないので、子どもたちと一緒に安全な場所で待機しながら、渡りますっていうことで、大きめの旗を出しながらドライバーさんに分かりやすくしめしています」
ここは琵琶湖岸の公園に向かうには避けては通れない場所です。
しかし、道路の起伏を超えるまでには、奥にある横断歩道が見えず、車がスピードを出しやすい道路になっています。
そこで、従来の2倍以上の大きい旗を掲げて横断し、運転手に対して、子どもたちの存在を強くアピールすることにしました。
またこんなところにも危険は潜んでいます。
【におの浜保育園 小林郁夏保育士】
「こちらにパーキングがありますので、こちらから出入りする車が急遽入ってきたりすることを恐れて、子どもたちとは湖岸の方の遊歩道を使って、お散歩コースを変更しました。自然の中で子どもたちが得るものってとても大きいと思うので、危険を早く察知して防衛意識を高めてお散歩に安全に行けるっていうことが一番だと思っています」
あの事故をきっかけに対策を進める人たちがいる中、重傷を負った女の子の父親は、伝えたいことがあります。
【重傷を負った女児の父親】
「身勝手で無責任な運転をし、取り返しのつかない事故が起こってしまうし、そして傷の痛みとか悲しみっていうのは事故の被害者だけじゃなく、被害者の親族とか周りの人たちにも及んでしまいます。決して一生癒えることがない、被害者や犠牲者の心の傷の痛みや悲しみを背負う覚悟っていうのがあるのかどうか、1回胸に手をあてて考えてみてほしい」
「考え事をしていた」、その一瞬から多くの悲しみが生まれました。
社会が、そしてハンドルを握るすべての人が、この事故を決して忘れてはいけません。