会社や学校が始まる、いつもの月曜日の朝のはずでした。
2005年4月25日、スピードオーバーの列車が脱線。
乗客106人と運転士が死亡し、562人がけがをしました。
【JR西日本・垣内剛社長】(2005年5月)
「二度と同じような事故を絶対に起こさない、全社員が全力をあげて事故の撲滅に取り組むことこそが、この悲痛なお声に報いる唯一の道であります」
JR西日本は、運転士を追い込み、危険な運転を引き起こした「懲罰的な日勤教育」を改め、ミスを処分の対象から除外。
「風土の改善」を掲げてきました。
公共交通の安全の専門家は、こうした取り組みを評価する一方、安全を支える現場に、ある問題が起こっていると指摘します。
【関西大学・安部誠治教授】
「乗務員のところとか、鉄道でも関連事業をやるようなところは人気職種なんですが、鉄道の安全を支えるメンテナンス部門というのは、かなり深刻な人手不足が起こっている」
近畿エリアでは「毎日100ヵ所以上」で作業
【軌道工事責任者】
「工事件名ですが、線路脇の工事、定尺ロングレール交換…3月30日23時の45分から3月31日4時30分、この間に作業をしたいと思います」
深夜の大阪環状線に約40人の作業員が集まりました。
これからレールを交換します。
中核は、JR西日本のグループ会社や孫請けの軌道会社の作業員です。
本社の社員は数人だけで、直接の作業は行わずに現場を監督します。
近畿エリアでは、毎日100か所以上で約1500人の作業員がこうしたメンテナンスに従事しています。
【JR西日本近畿統括本部施設課・佐野功課長】
「列車の運行を支えているのは、私たちJRの社員もありますが、グループ会社、協力会社、この3者が一体となって列車の運行を支えていると思っています」
しかし、作業の中核を担う軌道会社は、いま深刻な人手不足に見舞われています。
作業の過酷さから…若い世代が定着せず
JR西日本によると、ある会社では、作業員が2018年までの10年で23%も減少。
作業の過酷さから、若い世代が定着しないといいます。
作業を監督する本社の社員も、55歳以上が4分の1を占めるいびつな年齢構成で、経験のあまりない若手社員が現場の監督をせざるを得ない場合もあります。
専門家は、このままでは技術の継承が危ぶまれると指摘します。
【関西大学・安部誠治教授】
「本社のメンテナンス担当の社員がやってる仕事が何かというと、計画を立てたりするようなことが大半なので、もちろん工事になるとそういう人たちが現場にいって立ち会うんですけど、立ち会って目の前で行われている施工状態が適正かどうか、なかなか見抜けるだけの力がないというのが今の現状」
労働組合の調査によると、こうした現状を危惧する声が現場からもあがっています。
【新幹線車両担当】(労働組合の調査より)
「入社数年で作業長とよばれるグループのリーダーにならざるを得ない状況にある。臨時修繕など経験に頼るところでは、大きな不安を抱えている」
【過去に電気部門担当】(労働組合の調査より)
「卓越した技術を持つ系列会社の技術者も高齢化が進んでおり、これまでのように体が動いていないのが現状」
こうした状況に、JR西日本は、手作業で行うことが多かった枕木の交換の機械化など、少人数での作業への対応を進めるとともに、作業の時間を確保するため、終電を前倒しする方針を発表。
技術の継承のため、一部のメンテナンス作業を本部の社員が直轄で行うことも始めています。
【関西大学・安部誠治教授】
「日々行うメンテナンスの中に5年10年の視点をちょっと取り入れてやって、どうすれば将来的にも今の鉄道のメンテナンスが維持できるか、そういう視点で見てやることが必要だと思います」
15年で取り組みが進む分野と、これからの分野。
「安全第一」を掲げるJR西日本の模索が続きます。