感染者の増加に伴い、差し迫っていると言われるのが「医療崩壊」です。
コロナウイルスと向き合う最前線は、今どうなっているのか。
医療従事者の戦いを追いました。
PCR検査の依頼が「殺到」
病院長の携帯に連絡が入ってきた。
【宝塚市立病院・今中秀光病院長】
「もしもし、はい。例のダイヤモンドプリンセス。帰国してきて、観察終了していて、19日から嗅覚異常、なるほど」
――Q:今の電話は?
【今中病院長】
「保健所から、きょうの帰国者・接触者外来で、PCR検査をしてくれるかどうかと第一報が来ました」
宝塚市立病院。
新型コロナウイルスに感染した疑いがある人の検査をする「帰国者接触者外来」が設置されています。
感染の拡大に伴い、保健所から依頼が殺到しています。
【今中病院長】
「今月は、20日間で85件ありました。これが86件目です。今までで176件PCR検査して、陽性が25件」
患者と向き合う、医療現場の最前線。
許可を受けて、撮影させてもらいました。
【宝塚市立病院。宮崎克彦救急科部長】
「今回担当させていただく救急科の宮崎です。どうぞこちらお座りください今、鼻づまりとかないですか?」
【患者の男性】
「鼻水はちょっとでています」
【宮崎医師】
「右の方の鼻から、させてもらいますね。まっすぐ向いてもらって、ちょっと上向いてもらって。はい、終わりました。これで検査は終わりになります。現状検査結果が出るのが、2、3日先になる。結果が出た段階で、すぐに電話しますんでね」
検査は短い時間で終わりました。
【検査を受けた男性】
「こんだけすぐ済むんだったら、もっと早くやってほしいですよね。ちっちゃい子供もいるので、そこだけが心配だったので、早く(検査を)受けたかった」
男性は、検査の結果を自宅で待つことになりました。
2カ月、140件を超える検査を…1人の医師が担当
防護服を慎重に脱いだ医師。
捨てるのではなく、吊るして消毒を…。
今後、防護服が不足する恐れがあるため、使いまわしていました。
【宮崎医師】
「ちょっとずつ(医療資材が)なくなっているので再利用しつつ業務にあたっているところです」
――Q:医療崩壊と言われているが、どう感じていますか?
【宮崎医師】
「もう起きつつある状況だと思います」
この2カ月、140件を超える検査を宮崎医師が1人で行いました。
今後の入院の受け入れについて、インタビューをしている最中にも病院長の電話が鳴ります。
【今中病院長】
「今自宅?軽症なら一つ空いているから、入院は可能だと思います」
患者の受け入れ要請です。
今中病院長は各担当を回り、スタッフに直接声をかけていきます。
「コロナ陽性患者を受け入れる方向で準備して。多分ここやと思う」
「入院要請が来たので、とります。たぶん6階」
「コロナの軽症疑い、とります」
【今中病院長】
「今行って誰も知らなかったら、行ってよかったでしょ。情報網が発達していないので、僕が行った方が早い」
病棟では、急ピッチで受け入れの準備が進められていました。
感染の拡大を防ぐため、病室の空気を外に漏らさない設備がある個室で受け入れる必要があります。
【看護師】
「陰圧ですね。この機械で空気を吸いだして一般廊下にいかないように。(陰圧室が)満室になることも多々あります。きょうたまたま空いたいたので。(患者と)マンツーマンになれるように、そのナースを1人他の業務を全部やめさせて、ここだけに専任させるので、やめさせた業務を他のナースが担わないといけない。そういう意味でも、忙しくなる」
入院患者に感染させてしまうのでは…不安も
患者を受け入れる際に使う車いす。
ウイルスが外に漏れない構造になっています。
――Q:(患者の受け入れに)不安は?
【宝塚市立病院感染対策室・春藤和代副課長】
「私は感染の専門家なので、緊張は実際ないが、スタッフは相当緊張されてますね。報道を見て、病院内のクラスターを聞くと、自分の病院内でもクラスターを起きてしまうのではないかという不安で、家族に感染させてしまうのではとか、入院患者に感染させてしまうのではないかという不安から不安を呼んでいるのが現状です」
一般患者を部屋に戻し、導線を確保。通路や休憩スペースにいる患者にも声をかけていきます。
【看護師】
「いったんお部屋に戻っておいてもらってもいいですか?」
「すいません、お部屋でいったんいいですか?15分ほどで構いませんので」
確保された動線を通り、陰圧装置の付いた車いすで患者を運び入れました。
ひっ迫する現場…限界を感じる医師も
満床になった受け入れ態勢を今後広げていくのか。
緊急の対策会議を開きました。
一番の課題は、重症者の対応。
逼迫する医療の現場が見えてきました。
【看護師】
「職員の精神的・身体的な負担とか、感染のリスクを考えると(一つの病棟に)集約型が望ましいなと、限られた資源・人とモノの投入が集約した部署だけでいけるというのがあります」
【宝塚市立病院・小林敦子感染対策室長】
「実は兵庫県では軽症患者より重症患者を診るところが不足していて、重症の時にどうするのかが問題となっています」
【宝塚市立病院・九鬼覚救急医療センター長】
「私から言うのもなんですが、うちの病院の実力として、人工呼吸管理ができるのは、小林先生と今中先生とうちの医師、三人くらいしかいない。人工呼吸長期間はうちの病院では無理だと思う」
【小林医師】
「凪のようにあんまりよくも悪くもならないという患者さんが限界かなと」
【九鬼医師】
「それは結果わからない。転院された方も翌日に急激に悪くなった」
受け入れ増やせば…一般の重症患者の治療にも影響
――Q:もう少し患者を受け入れるべきと考えている?
【小林医師】
「もちろん思っています」
――Q:それができない現実がある?
【小林医師】
「そうですね」
【今中病院長】
「人工呼吸ができる医者はここに3人しかいない。彼女はICT(感染症対策チーム)の仕事が忙しい。僕は院長の仕事が忙しい。だから実際的に動いているのは一人。そいつが土日を潰してやってくれている」
【小林医師】
「コビッド(新型コロナウイルス)に対応することになれば、一般の重症患者を診られないということになるので、そこまで中々踏み切れないというか、今の状況はそこまで病院機能を落とす決断はついてないですね」
感染を広げずに、患者を救う。
悩み、もがきながら、医療従事者は、今、この瞬間も闘っています。