猛威を振るい続ける新型コロナウイルス、自分たちを守るために必要なマスクの供給不足が続いています。
しばらくこの状態が続くとみられる中、関西でもいくつかの企業がマスクの生産に乗り出しました。
その現状を緊急取材しました。
国の補助金を活用し、マスク生産に乗り出す企業
新型コロナウイルスの感染拡大とともに、品薄となっているマスク。
薬局などの店頭では、入荷してもすぐに売り切れてしまう状態が続いています。
【女性】
「もうないですね、全然ないです。高いです」
【男性】
「あれば買いたいけど、ない」
そもそもどうして、マスクの供給不足が続いているのでしょうか。
2018年度に国内へ出荷されたマスクは55億枚。そのうちの8割が、中国などで生産されていました。しかしその中国で新型コロナウイルスの感染が広がり、工場がストップして、マスクの輸入が大幅に減少。
日本のメーカーも生産を増やしていますが、注文がそれを上回る状況が続いているのです。
こうした中、大手電機メーカーのシャープは3月、三重県の工場で「マスクの生産を始めた」と発表しました。
この時、活用されたのが、「国の補助金」です。
政府は今年2月以降、マスクを増産する企業などへの補助金として、予算の予備費からあわせて6億1000万円を計上。
「ごりごりの機械メーカー」が…従業員も新たに雇い「マスク生産」へ
関西でも、この補助金を活用して、マスクの生産に取り組む企業が出てきています。
兵庫県尼崎市にある「ショウワ」、従業員40人の中小企業です。
【ショウワ・藤村俊秀さん】
「これはパレットを洗う機械。高速で遠心脱水で乾かす機械」
主力製品の一つが「業務用の洗浄機」。商品を運ぶ時に使うパレットなどを、高速で洗う機械を生産しています。
――Q:これまでにマスクを作ったことは?
【ショウワ・藤村さん】
「一切ないです。ごりごりの機械メーカーなので消耗材を作るのは初めてです」
きっかけとなったのはやはり、「マスクが手に入らない」現状への危機感でした。
【ショウワ・藤村さん】
「布のやつを皆さん作ってみたりとか、洗って使ってみたりとか。足りていないのはひしひしと感じていたので。どこに行ってもないですよね」
洗浄機などの機械を製造している会社が、初めて手掛けるマスク。
どのようにして生産するのでしょうか。
【ショウワ・藤村さん】
「装置は海外から輸入する。材料に関してはもともと紙を扱っているメーカーさんがあって、そちらから不織布関係のところにつながっていってそこから供給いただける」
マスクの生産装置は、支店がある韓国で調達して輸入します。
この事業のために、従業員も新たに雇う予定です。
【ショウワ・藤村さん】
「今は小学校であったりとか老健施設であったりとかいうところの、お子様とご年配の方が数多くいらっしゃるところに提供できればと考えていますけど。あと装置の販売も並行して6~7月からスタートしようとしているので」
くつ下での技術を…「フィルターの製造」で生かす
国の補助金の対象となるのは、マスクそのものの生産だけではありません。
【記者】
「奈良県にある靴下を作っている会社に来ているんですが、こちらでは、マスクのフィルターも製造しているんです」
この会社で生産しているのは、マスクの内側に装着する「フィルター」です。
絹を使っていることから「肌触りが良い」と評判です。
【レッグニットクリス・栗巣裕市さん】
「マスクの内側に口紅がつくのも、使い捨てフィルターをつけることで、フィルターのみを洗うことができるので、すごくご好評いただいています」
使い捨てマスクを数日長く使えるようにする、この商品、ネット通販の楽天市場で販売していますが、深刻なマスク不足が続く中、予約をさばき切れない状況が続いていました。
そこで、国の補助金・約2650万円を使って新たに5台の機械を導入。3月31日の朝に届き、24時間体制で生産にすることになりました。
【レッグニットクリス・栗巣さん】
「使い捨てマスクを複数回利用できるので、マスクの数が少ない中でも、広くお客さんに届くことが心の安定というか、安心感につながるかなと思っていますので」
当面の利益は考えていない「今はそういう時期じゃない」
新たにマスクを生産することを決めた、尼崎市の「ショウワ」。
衛生環境が保たれた、塵や埃が入りにくい部屋を設置するための作業が、急ピッチで進んでいます。
初期投資は4000万円から5000万円。
国の補助金約2000万円も活用して、4月中にも月100万枚を目標に、生産を始める予定です。
「社会の役に立ちたい」という思いから、取り組むことを決めた事業。社長は、「当面の利益については考えていない」と言います。
【ショウワ・藤村さん】
「今はちょっとそういう時ではないではない。これだけの方が亡くなっている。感染者もうなぎ上りに増えていくとなると、少しでもお役に立てることがあればやってはいきたいなと。ただこれで本業が苦しくなると本末転倒なので、そこはどうにか踏ん張って、自分たちの事業としては成り立つような形を継続していきながら、この事業(マスクの生産)もやっていきたいなと思います」
政府は、現在は月6億枚のマスクの供給量を、4月中には1億枚程度上積みできるという見通しを示していますが、店頭での品薄状態はしばらく続く見込みです。
感染を防ぐために…さらなる施策が求められています。
不足が「解消」したら…参入メーカーが感じる「不安」
本業の洗浄機製造が好調なことから、社会貢献としてもマスクづくりを検討していたショウワ。補助金も活用して参入に踏み切りましたが、そこには「不安」も。
それは、新型コロナウィルス感染拡大が収束し“平時”に戻った際、マスクが余剰になってしまうのではという恐れです。
ショウワの藤村社長は平時になっても、「次の新型ウィルスに備えて政府が買い取る」などの施策があれば、より多くの企業が増産要請に応じて参入するのではなかいと指摘します。
一方、補助金制度を運用する経済産業省によると、“平時”に戻った後の施策は「ない」としています。
今回の制度での補助の割合は設備投資費用の3分の2から4分の3と、異例の高さに設定していることが大きな後押しになるとして、「そのうえで経営判断にゆだねる」としています。