3月14日に運行をスタートした近鉄の新しい特急「ひのとり」。
大阪と名古屋をおよそ2時間で結び、
平日はビジネス客、週末は観光客をメインターゲットに1日6往復します。
初日始発の上位車両(プレミアム車両)の切符は発売後およそ1分で完売したという人気ぶりです。
大阪と名古屋をおよそ2時間で結び、
平日はビジネス客、週末は観光客をメインターゲットに1日6往復します。
初日始発の上位車両(プレミアム車両)の切符は発売後およそ1分で完売したという人気ぶりです。
【男性客】
「思ったよりも揺れが少なくて、室内もかなり静かで快適な乗り心地で乗ってこられました」
【子供客】
「(車両の)顔のフォルムというか曲がっている感じが格好良かったです」
実はこの「ひのとり」、開発期間6年、総額およそ184億円をかけた、
一大プロジェクトのもとに誕生しました。
開発の秘密を探るべく、新実彰平キャスターが東大阪にある近鉄の車庫へ向かいました。
【新実キャスター】
「よろしくお願いします。お二人はどういう形で関わられたんでしょうか?」
【技術管理部長・深井滋雄さん(55)】
「私は車両開発の担当責任者になります」
【技術管理部課長・福田尚弘さん(37)】
「私はですね、車両開発の担当とともにプロジェクトを総括する事務局の担当をしております」
【新実キャスター】
「結構な数の方が関わってらっしゃるんですね?」
【深井さん】
「車両の開発と営業と宣伝と運転と4つの部門の人間が関わっておりまして、
15人から20人くらいのスタッフが・・・」
【新実キャスター】
「プロジェクトチームという感じだったんですか」
【深井さん】
「はい」
早速、「ひのとり」を見せていただきました。
【福田さん】
「まずは先頭の色の紹介を…。この中心の部分に折れ曲がった線が集まってきますんで、
ここを中心に見ていただくといろんな色が違うように見えます」
【新実キャスター】
「ここにいろんな色があらわれているっていうことですか?マニアですね」
【福田さん】
「おすすめのポイントです!」
斜め45度から見るのがベストだそうです。
【深井さん】
「(ひのとりに使っている)こういうメタリックの塗料は重ね塗りをしないといけないので、
隣の車両なんかと比べると塗る回数が増えるんです。その分(塗装費が)お高くなるっていう。
わかりやすい仕組みですね」
【新実キャスター】
「なるほどなるほど。お前、あんまり手間かけてもらってないねんな」
【深井さん】
「いやいやいやいや、一応これはこれで可愛いんです」
【新実キャスター】
「あ、そうですか。これはこれで愛着あるけど…」
【新実キャスター】
「新車の香りがしますね。いい香り。これ多分、革の香りですよね」
【深井さん】
「このシート、本革を使っています」
【新実キャスター】
「本革なんですか、座らせてもらってもいいですか?」
【深井さん】
「ぜひ!」
【新実キャスター】
「包まれ感が半端じゃないですね」
【深井さん】
「一度リクライニングしていただくと」
【新実キャスター】
「自動でいけるんですか?これがリクライニングですか?いきますよ」
【深井さん】
「どうぞ。いってください」
【新実キャスター】
「うお、すごい。レッグレスト、足置くやつも上がってきましたよ。
(リクライニングは)後ろの人の邪魔しないんですか?」
【深井さん】
「このカバーがあるんで全然大丈夫です」
【深井さん】
「後ろの人に一声かけなくてもいいっていうのがウリになります。
リサーチをして8割のお客さんがリクライニングをするのに気を使っているという」
【新実キャスター】
「遠慮していると?8割か〜。でもそうでしょうね。
僕もマックスで(リクライニングを)下げたことないですね。
絶対後ろの人、気になりますもんね」
飛行機のビジネスクラスに使われることが多いバックシェルシート。
前の席との間隔は130cmと日本最大級の広さです。
このバックシェルシートはレギュラー車両にも採用されていて、ゆったりと過ごせます。
ここまでシートにこだわるの理由とは・・・。
【深井さん】
「ひのとりのコンセプトがですね。くつろぎのアップグレード」
【新実キャスター】
「くつろぎのアップグレード?」
【深井さん】
「同じ区間を走っているものは新幹線ですとか高速バスとかになるんですけども、
新幹線は1時間かからなくってご利用いただけますし、高速バスは時間はかかるんですけれども
すごくお安くなっているということになりまして・・・」
移動時間では新幹線が名古屋までおよそ50分と最速。
そして、価格では高速バスが圧倒的な安さを誇ります。
それらに対抗すべく考えたコンセプトが、ほかにはない“くつろぎ”の提供だったというのです。
【深井さん】
「我々もですね。本当にここまでやっていいのかなっていうのはものすごく悩んだ結果なんです」
【新実キャスター】
「それはもう、中身で勝負するしかないということですよね」
理想のくつろぎを求め、プロジェクトチームでは数え切れないほどのシートを試作したといいます。
【福田さん】
「航空機のシートを参考にするっていうところがあったので、
工場見学をして、そこでビジネスクラスのシートを体験させていただいたりとか・・・」
【新実キャスター】
「飛行機マニアのフリをして行かれたわけですよね?」
【福田さん】
「あ、そうですね」
【新実キャスター】
「そうなんですか?冗談のつもりでした。別に悪いことじゃないですもんね。
勝手になんか盗みにいってるわけではないですからね」
【深井さん】
「出張行くついでに『夜行バスに乗って行ってくれ』って。
それで体験した(夜行バスのシートの)『リポート出してくれ』ってですね」
【新実キャスター】
「そんなことあるんですか?それも仕事のうち?」
【福田さん】
「仕事です」
こだわりはシートだけではありません。
車内には、挽きたてのコーヒーを味わえるカフェスペースや・・・
急な電話など、多目的に使えるベンチスペース、観光客にはうれしい大きな無料ロッカーもあります。
新実キャスターが一番気になったのは洗面台です。
実はこれ、女性社員からの意見が反映されているんです。
【福田さん】
「今までの車両ですと、鏡自体がこの面(側面)についておりまして、
廊下を通られる方に顔が映っているのが見えてしまうのが気になる・・・
というような意見がありまして・・・」
【新実キャスター】
「お化粧直しているときにその顔を見られてしまう?確かにそうですね」
利用者の快適性にこだわった設備の数々ですが、
気になるのは「ここまでやって儲かるのか」ということ。
プロジェクトチームの中にも様々な議論があったそうです。
【営業企画部・西本剛志さん(46)】
「ゆったり座るためにシートの間を広げるんだと。そうなるとやっぱり席が全体的に減るんですよね。
今走っているうちの名阪特急の主力のアーバンライナーっていうのに比べて、
大体2割くらい(席が)減っているんですね。(席を買えなかった人が)新幹線とか高速バスとかに
行くんじゃないだろうか。をれを考えてもっと作ってもらわないと、言い方悪いですけど、
『車両さんが作った作品では困るんや』というような感じの議論はありましたね」
【新実キャスター】
「よくテレビ局でも見る議論です」
【西本さん】
「僕の電車ではダメなわけですね。結局は」
【新実キャスター】
「うわ〜厳しい」
【西本さん】
「これもう、交わるところあるのかなみたいな・・・」
理想の追求と利益の確保。
難しい問題の決め手となったのは、会社の伝統にあったといいます。
【深井さん】
「近鉄特急ていうのはですね。有料で座席指定でお乗りいただくというようなことを
私鉄で初めてやり始めたっていうのが、もうかれこれ70年くらい前、一番最初なんですね。
先のサービスを見据えて、常に一歩先を提供するっていうことを、
ずっとやり続けているということが自負としてある」
近鉄ではアイデアあふれる列車を時代ごとに生み出してきました。
プロジェクトチームが最後に選択したのは、伝統にいきづくチャレンジ精神だったのです。
【深井さん】
「乗っていただくと実感いただけるので、まずは乗っていただきたいという思いがあります」
【新実キャスター】
「思いがこもっていますね」
【深井さん】
「売れなかったらこの会社の中で生き残っていけるかな(笑)」
【新実キャスター】
「皆さんの生き残りもかかっているという…」
【深井さん】
「我々の生き残りもかかっている」
【新実キャスター】
「鉄道の生き残りだけじゃなくて」