36人が死亡、33人が重軽傷を負った京都アニメーション・第一スタジオでの放火殺人事件から、3月18日で8ヵ月となりました。
重いやけどで今も2人が入院しているうえ、今後長期的な治療が必要な人も多くいます。
ある日突然、事件に巻き込まれ、深い傷を負ったら…。
私たちもいつ直面するかもしれない長期にわたる犯罪被害者の現実と課題です。
京アニ放火事件、今も2人が入院
京都アニメーション第一スタジオ。
今は解体作業が進み、建物の姿は見えません。
この場所で8か月前、アニメ界で活躍する多くのクリエーターたちの未来が突然閉ざされました。
去年7月18日、殺人などの疑いで逮捕状が出ている青葉真司容疑者(41)が侵入しガソリンをまいて放火。
36人が死亡し、33人が重軽傷。そのうち2人が今も入院しています。
多くの人が火傷を負ったこの事件。当時、被害者の治療もおこなった医師は、火傷の治療ならではの複雑さを指摘します。
【宇治徳洲会病院 形成外科 西井洋一副部長】
「広範囲熱傷の場合、やっぱり壊死した組織を取っていく、切除していく必要があるんですけど、1回の手術で取れる範囲っていうのは、だいたい決まっています。取るだけで何回かの手術が必要になってきますし、皮膚を戻すのも何回も手術が必要になってきます」
繰り返し行われる手術。さらに退院しても、辛い後遺症に苦しむ恐れがあります。
【宇治徳洲会病院 形成外科 西井洋一副部長】
「例えば手の火傷の場合に、手が十分に動かしづらいとなった時に、一生懸命リハビリするんですけど、それに伴って肘とか肩も曲げにくい・動かしにくいっていうことも出ることがあります。痒みもそうですし痛みもそうですし、本当は見た目ももっと良くしたいとかっていう気持ちを抑えながら、我慢しながら生活していくパターンっていうのがあると思います」
命が助かっても苦痛が伴う被害者に、その後さらに、直面する過酷な現実があるのです。
長期的な治療…のしかかる医療費の負担
【林良平さん】
「犯罪被害者には何もないと、救う仕組みがないと思ったのがその時でした」
犯罪被害者のシンポジウムで自分の体験を話す林良平さん。
これまで被害者支援の課題にずっと向き合ってきました。
林さんの妻・裕子さんは1995年1月、勤務先である大阪市内の病院の前で、見知らぬ男に腰を刺されて重傷を負いました。
8カ月以上入院。その後、車いすで生活しています。
裕子さんは通勤途中に襲われたことから、「労災」と認定されましたが、事件から約2年後、可能な治療は終わった「症状固定」と判断され、労災保険の支給は終了しました。
しかし、激しい痛みはずっと続き、自費で和らげる治療を続けなくてはいけませんでした。
これまで自分で負担した医療費は「200万円」を超えます。
【林良平さん】
「治った治癒ではなくて、これ以上治療のしようがない形になってしまったと。第三者行為で死ぬような未遂事件にあって、何で医療費払わないといけないんだって、こんな矛盾を持っている被害者はたくさんいますよ」
犯人の男は時効成立後に、東京でケンカ騒ぎを起こし、任意の聴取を受けて裕子さんを刺したことを自白。
林さんは損害賠償を求めて民事裁判を起こし、勝訴しましたが、男はどこにいるのか分からず、賠償金は支払われていません。
【林良平さん】
「不条理だし不合理だし、こんなこと許していいのかと。加害者よりも被害者を救う制度何で作ってないんだという怒りですよね。嫁さん俺が死んだ後、どうなるんだろうと思うんですよね、誰が面倒見てくれるんだろうと」
被害にあったことで今までの生活が一変し、さらには経済的な負担もずっとのしかかる犯罪被害者。
国などの支援も…あくまで「一時金」
支える現場でも、頭を抱えています。
【大阪被害者支援アドボカシーセンター 木村弘子副代表理事】
「国の考え方としては、第三者の悪意、もしくは過失によって何か被害を受けた場合、その害を与えた人が損害賠償しなきゃいけないっていうのが基本的な考え方なんだと思います」
大阪にある犯罪被害者支援センター。
弁護士の紹介や裁判所への付き添い、そして支援制度の紹介など、年間1800件を超えるサポートを無料で行っています。
医療費などの経済的な支援をするのは国です。
障害に応じて決められていて、支給はあくまで一時金なのです。
【大阪被害者支援アドボカシーセンター 木村弘子副代表理事】
「やっぱり『治療費どうしよう』『請求されたんだけどどうしよう』ということで、『こんなに多額の…』という相談はちょくちょくもらいますね。経済的な事に関してはですね、残念ながら私たちもそんなに方法・方策を持っているわけではありませんので、悔しいけれども解決できないことが多いです」
いつ巻き込まれるか分からない犯罪被害。
時間が経てば経つほど、重くのしかかる厳しい現実があります。
【林良平さん】
「(支援制度が)ないに近いというものを分かってもらって制度改革しないといけないとみんなが思ってほしい、今のままじゃダメだということを、少なくとも犯罪被害にあった人たちには国がちゃんと治るまでやりますよという制度にしてほしい」