なりふり構わぬ”感染封じ込め”に突き進む中国。それでも拭えぬ不安の理由とは…。
中国本土での”新型コロナウイルス“の影響を取材。現地記者によるリポート。
「都市封鎖」と「外出制限」
恐怖渦巻く中、感染封じ込めに突き進む中国では、“監視”も強まっている。武漢の封鎖に始まり浙江省温州や杭州、江蘇省南京など多くの街で外出制限&都市封鎖に。買い物は2日に1回、1家庭で一人だけなどの規制をする都市が相次ぐ。江蘇省無錫市は湖北省のほか感染が多い浙江、広東、河南、湖南、安徽、江西の各省から来る人を入れない強硬策を始めた。
北京では市外から戻った全ての人に14日間の自宅待機を求めるようになった。上海でも住宅地入口で検温する“検問”が出来、市外から戻る人に申告させ、感染地ナンバーの車は入れないと制限する。市外から戻ると14日間待機を求める。違反には市民管理システムのブラックリスト入りや刑事処分もある。隔離が嫌で車のトランクに隠れて戻ったり、無断外出して見つかる人もいる。
発熱者の通報、自警団…混乱する市民生活
各地の市民生活も混乱している。北京市ではグループでの会食禁止。各地で、麻雀する人達の家に警官がなだれ込み「集まるな!」と叱りつけ雀卓を壊す。「私達はこんな時に麻雀してしまいました。武漢頑張れ!」と反省文を読まされる映像もネットに見られた。感染者の家の入口に板を打ち付けたり、湖北省出身住民の家の水道を止める。村や住宅地で住民が自警団となりホウキや棒でよそ者を叩き追い払う。
湖北省のある都市では、発熱し自ら受診したら1000元(約16000円)、発熱者を見つけたら1例で500元(約8000円)、広東省の村では湖北省出身者の情報提供でマスク30枚贈呈、など監視社会中国ならではという対応も登場した。
上海では公共場所でのマスク着用が求められ、地下鉄駅で抵抗した男性が拘束。商業施設でもマスク着用を拒否して引きずり出される人も。各地の警察はドローンで監視し「そこのあなた!マスクしなさい!!」「集まるんじゃない!」と上から警告する。
1ヶ月ほど前とは空気は一変。とにかく接触を避ける。エレベーターに置かれたボタンを押すための爪楊枝はバカバカしいと思うが気持ちは分かる。知らぬ間に感染する不安がある。福建省で武漢に行ったことを隠し結婚式に参加し感染が分かり4000人近くが隔離、など大迷惑な人も相次ぐためだ。焼きアヒルを買うため店で並んで感染、フィットネスジムで感染など様々なケースがある。北京市や黒竜江省では故意の感染拡大行為に死刑も、との対応まで登場した。
上海でも街は閑散と…ビルの空調禁止も
上海でも街から人の姿が消え、誰もが息を潜めて過ごしているようだ。2/10に企業活動が再開したが正常化にはほど遠い。政府は在宅勤務や時差出勤を推奨、オフィスビルでは空調は使用禁止まで通知し感染拡大防止を目指す。支局ビルでは出入りに身分証やパスポート提示も求めるようになった。春節休みを終え地方から都市に戻る人が全国で1億6千万人。本格的な出勤再開で感染が拡大する不安も続く。
日本の企業なども、日本政府の一時帰国の至急検討の呼びかけもあり、駐在員に帰国を命じたり、上海への戻りを見合わせるところが相次ぐ。少なくとも2月中の正常化は難しいと感じる。
政府より先に…警鐘鳴らした医師は「死亡」
未知のウイルス感染で何が起きているのか、不安がある。中国政府の発表が本当なのか信じられないところがあるからだ。彼らは感染発生を警告する声を封じ込めていた。武漢の医師・李文亮氏は12月末に「SARSのような症状が出た」と医師の間でSNSでやりとりし情報を発信したが、警察は1月、李医師ら8人を“デマを流した”と摘発。「社会秩序を乱す違法行為だ」と批判した。
その後、事実が分かると李氏は賞賛されたが、2月に入り感染を告白し亡くなった。
中国共産党系メディアは「英雄だ」など哀悼のコメントを出して報道したが、ネットでは「必要なのはリーダーと真相で役人と嘘ではない」「名誉を回復し責任を調査せよ」と政府批判が渦巻く。全力で治療したアピールのため死亡時刻を後ろに改ざんしたのでは?との疑惑も出回り不信感は広がるばかりだ。しかし中央政府への批判は封じられる。「すごいぜ、1秒ごとに削除される。追悼すら出来ない。この国の政策は間違っている。この国に希望を持てるのか」。
中国政府が都合の悪い情報を隠すのは今に始まったことではない。今回は感染が広がり公表に追い込まれたが、インターネットを監視し、政府に反抗する&都合の悪い言論は摘発する。勇気を持って問題を伝える李医師のような人達の声は封じられる。今回も、1月に武漢に入り、病院などの過酷な状況をネットで発信していた中国人ジャーナリストが行方不明になったと伝えられる。
李医師の死去を受け、中国の学者らが連名で「李氏は言論の自由の弾圧の犠牲者だ。感染拡大は言論の自由の抑圧のため起きた」として、当局を批判し言論の自由の保証を求める声明をネットに公開した。しかしこれもすぐに削除された。
統制を強める中央政府、疲弊する医療現場
感染情報が公表されなかった背景にあるのは統制を強める現体制だ。武漢市長は国営メディアに「上の許可がないと情報を公表出来ない」と異例の告白をした。地方政府のトップでも自分の地位や安全を守るため余計なことは出来ない。今回、武漢市政府の対応が遅れたのは(不都合な事実を封じ込めたのは)、国民の健康や人権より、社会の平穏・党の安定統治を優先し国民に情報を知らせない中央政府をおもんばかっただけかもしれない。そもそも“上”が情報を知らないはずがない。
さすがの中央政府も遅れた対応への国民の反発が大きいと感じているようだ。習近平指導部が「対応に至らない部分があった」と誤りを認めた。(習氏自身が、感染拡大が分かっていたはずの1月中旬に雲南省へ春節の視察に行き笑顔を見せていたことも含まれるのか)。習氏は北京の住宅街をマスク姿で視察、医療関係者をねぎらうなど国民を気にかける指導者を演出した。
ただ一方で政府は李医師を摘発した対応に調査チームを派遣し、湖北省トップらを更迭したほか、中国共産党機関誌が、習主席が1月7日時点で感染対策を指示していたとする内容を掲載するなど、悪いのは地方政府と印象づけようとしているようにも思える。
中国メディアでは連日、懸命に戦う医療関係者や退院する人達の姿が報じられる。マスクの痕が顔についた看護師、仲間を思い涙する医師、勤務が続く看護師がガラス越しに子供や夫と会い涙する姿。自らを犠牲にして命を救う人たちが多数いるのは事実だが、一方で医療関係者1700人が感染し6人が死亡するなど現場の疲弊は進む。その中での感動推しは、“素晴らしい中国”への世論誘導・管理を感じる。
結局、、、どんな情報が出ても、中国政府は都合の良いことだけ伝えているのでは?実際の状況はもっと悪いかも、、、。そんな疑念が拭えないまま過ごす日々が続いている。