関西国際空港のすぐそばにある「大阪税関・麻薬探知犬管理センター」。
ここで2月3日、新たにデビューする1頭が、報道陣にお披露目されました。
雄のラブラドール・レトリーバー「ケイト号」。
麻薬探知犬を操る「ハンドラー」と呼ばれる税関職員とペアを組み、
旅行客の荷物や海外からの郵便物などに隠された違法な薬物を探し出します。
【大阪税関 監視部 麻薬探知犬管理室 高瀬章一郎さん(24)】
「約半年ほど 一緒にいます。ケイトと一緒にずっと訓練をしてきて、
お互いに成長していっているのがわかると、すごいやりがいのある仕事だなと」。
実は高瀬さんも昨年夏に他の部署から異動してきたばかりの“新人ハンドラー”。
9月に全国の麻薬探知犬を訓練する施設で出会い、コンビを組むことになりました。
今、不正薬物に関する事案は、深刻さを増しています。
【大阪税関 監視部 麻薬探知犬管理室 神田康明室長】
「不正薬物の押収量については、平成28年から急増していまして4年連続で年間押収量が
1000キロを超えている状態です。令和元年の不正薬物の押収量は約2トンを超える見込みです。
これはもう深刻な状況だと考えております」
近年、密輸の手口は驚くほど巧妙化しています。
国際宅配便で届いた「お菓子の箱」に大量の大麻草が隠されていた事例や、
スーツケースの内張に大麻を隠し持っていたケースも…。
これらを発見したのは麻薬探知犬。 海外から密輸される薬物を水際で阻止するため、
欠かせない存在となっています。
1月下旬、ケイトと新人ハンドラーの高瀬さんは、デビューに向けた最終試験を数日後に控えていました。
「空港内のターンテーブルを再現した部屋」でトレーニングです。
奥から2番目のスーツケースには「不正薬物のにおい」が仕込まれています。
ケイトは察知すればその場で「お座り」するように訓練されているのです。
【高瀬さん】
「Good boy!(いい子だ)」
成功すれば、ご褒美にタオルを引っ張りあって遊びます。
犬を楽しませて仕事への意欲を高める、ハンドラーにとって重要な技術のひとつです。
高瀬さんを指導するのはインストラクターの白木さん。
【麻薬探知犬管理室インストラクター 白木知加さん】
「犬が確信を持って座るまでハンドラーが補助してあげたというところはありますね。
やっぱり犬にもうちょっとしっかりにおいを嗅がせてあげて、
(犬自身で)座る判断まで行かせてあげるっていうことですね」
続いて屋外でのトレーニング。 屋外は風の影響も受けるため難度が高いそうです。
【高瀬さん】
「ステイ!」
一瞬、壁の裏側へ走り出そうとしたケイト。においのある壁を通り過ぎてしまいました。
2周目は高瀬さんが指示を送り、高いところも嗅がせます。
【高瀬さん】
「Good boy!(いい子だ)」
今度は、においを察知したようです。なんとか発見できましたが、高瀬さんには反省点が・・・
【高瀬さん】
「スタートで最初に座らせた段階で、壁の向こう側にケイトの意識がいってしまったために
リズムが良くなく、捜査したいという気持ちも薄れてしまった。
ケイトがどこを見ているのかというのをハンドラーが見られていなかったのがダメな点と、
もっとわかりやすく音を出したりして教えてあげることが必要でした」
毎朝7時半から夕方まで、ほぼ1日中、つきっきりでケイトを世話する高瀬さん。
実はこれまで、犬はもちろん生き物を飼った経験がなく、慣れない毎日を過ごしていました。
そんな高瀬さんの支えとなっているのが同じ部署の先輩たち。
【先輩ハンドラー】
「真面目な面があって犬と遊びきれていない」
【先輩ハンドラー】
「まだちょっと恥ずかしさが残っている」
【高瀬さん】
「他のハンドラーの方の遊びを見ているとやっぱり僕の遊びはまだまだで、
もっとこう気持ちを出して行かないとダメだなっていう風には思いますね」
【インストラクター】
「遊ぶ時に本当に犬が面白くなければ意味がないから…」
最終試験まであと3日。ケイトと高瀬さんの姿は南港のコンテナ検査センターにありました。
ここは船で届く荷物を検査する場所、ケイトはこの場所にも慣れておかなければいけません。
大きく走り回って遊び、空間になれる訓練。犬によってはフォークリフトなどに怖がるケースもあるそうです。
【高瀬さん】
「Good boy!(いい子だ)」「Good Good!」
先輩からのアドバイスもあってか、この日の高瀬さん、ケイトとの遊びを思いっきり楽しんでいるように見えます。
【高瀬さん】
「犬の興奮が高い時になるべく(訓練を)終わる。
そこで終わることでまた次に「遊びに行きたい」気持ちが強くなるようにしています」
そして、ケイトがデビューできるかを審査する、最終試験の日がやってきました。
【高瀬さん】
「今日はケイトを信じて頑張ります。ケイトはいつも通りやってくれるはずなので
私が緊張してしまったらケイトも「どうしたんだろ?」ってなるので頑張ります」
審査員の前で、不正薬物のにおいがついた段ボールを見つけ出すことができるのか…。
高瀬さんもどこに匂いが仕込まれているかは知りません。犬だけでなく、ハンドラーの技術もチェックされます
【高瀬さん】
「よし!Find it!Good boy!」
実は1回目の審査では、薬物の匂いがついたダミーは置かれていません。
ハンドラーがうまく犬に指示できているのかを見られているのです。
【高瀬さん】
「よし!GOOD!GOOD!」
1回目の捜査を終え、一度その場を離れます。そして2回目、薬物のダミーが置かれます。
今度はケイトがこれを見つけられるか?軽快に足を進めるケイト・・・。
【高瀬さん】
「Find it!Good boy!」
見事、嗅ぎ当てることができました!
あとは、この模擬捜査を審査員がどう評価するのか・・・。審査結果が発表されます。
【大阪税関 監視部 麻薬探知犬管理室 神田康明室長】
「まずリーシュ(ひも)のたぐりが少し長くて、ケイト号の視界に入っていたところがありました。
犬の視界に入ると捜査の邪魔になるので注意してください。捜査においてはうまくリードはできていました。
犬のテンションを維持するために工夫して捜査しているところが見受けられました。
以上のことから総合的に判断しまして「合格」とします」
【高瀬さんの上司】
「その顔、撮っておいてもらった方がいいね。めっちゃホッとしてる(一同笑い)」
【高瀬さん】
「ホッとしました」
そして、2月6日、ケイトと高瀬さんは捜査現場デビュー。
国際郵便局での捜査で先輩たちと一緒に堂々と任務をこなします。
【高瀬さん】
「今日ケイトは(調子が)すごく良くて、チームの一員として捜査に携われているというのは喜びに感じます。
ケイトの小さな反応も見逃さずに摘発に繋げる。しっかり貢献できるように頑張りたい」