ケーキ作りで”世界1位“も
滋賀県近江八幡市で月に1回開かれる「みぃちゃんの1日スイーツカフェ」。
自分の料理を紹介するSNSの「スイーツ部門」で世界1位に輝いたこともあり、全国からたくさんの人が訪れます。
【訪れたお客さんは…】
「おいしい」
「味も素晴らしいけどこの創作がかわいいです、そこが魅力的ですごい」
作っているのは「みぃちゃん」こと、小学6年の杉之原みずきちゃん(12)
レシピを考えたり、メニューを決めたり…立派なケーキを1人で作り上げます。
しかし、みずきちゃんはある病気を抱えています。
家族としか「話せない」
それは…“場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)”
不安障害の一つで、特定の人と場所でしか、話せなくなる病気です。
関西国際大学の梶正義准教授によると、兵庫県内の小学校を調べたところ、児童500人に1人いることがわかったというのです。
みずきちゃんにとって話ができるのは家族だけです。
みずきちゃん「これ、ミニじゃないん?」
お母さん「え?」
みずきちゃん「なんか、おかしい?」
母「これおかしいやろ」
【みずきちゃんの母・杉之原千里さん】
「家にいると普通やったので家から一歩外に出た時に娘の状態は全然わからなかった。先生から言われて初めて知ったので就学前診断で病院に行ったら“場面緘黙症”って言われてそこから調べて症状見てみるとたしかに思い当たるところがいっぱいあって。それはただ単におとなしいだけじゃないっていうのが初めてそこで分かった」
症状が強くなると、体が動かせなくなることも
みずきちゃんは月に1回、病院でリハビリをしています。
病院の周りを歩いたり、走ったり。少しでも外の環境に慣れるために、体を動かすことしかできません。
“特効薬”はなく、有効な治療法もまだないのです。
みずきちゃんは地元の小学校の支援学級に通っています。送迎サービスを利用して車で向かいますが、症状が強くなると体も動かせなくなることも。靴の履き替えも自分ではできないので先生が助けます。
【先生】
「そしたらみぃちゃん漢字の勉強をしたいと思います。筆箱だけ出させてもらうよ~」
ノートに漢字の練習をするときも、先生がみいちゃんの手を取って一緒に書きます。
体が固まってしまい、昼食をみんなと一緒に食べられないので、午前中で家に帰ります。
5年生の校外学習では自分一人では歩けず、他の子どもたちに助けてもらいました。
【みずきちゃんの母】
「今まで10歳、11歳くらいまで何もできない状態がずっと続いてたので、でも本人は絶対にやりたかったはず。みんなと一緒に遊びたいし、しゃべりたいし給食も食べたいという思いが絶対にあったはずなんで」
小学4年生で不登校になり引きこもりになってしまったみずきちゃん。
そんな時、お母さんが「社会とのつながりをなんとか持ってもらおう」とスマートフォンをプレゼント。
それがみずきちゃんの世界を変えました。
ケーキ作りをきっかけに…自分の思いを
幼い頃からお母さんとよくケーキを作っていたみずきちゃんは、インスタグラムに自分が作ったケーキの写真を投稿。
すると、次々と称賛のコメントが。いつしかみずきちゃんはコメントに返事をするようになります。
自分の言葉で思いを伝えることができたのです。
これがきっかけで、さらにケーキ作りに没頭。
【みずきちゃんの母】
「携帯で(返事を)返せる自分がいることに気づいて、そこに私もびっくりしたんです。そこからスイーツづくりに目覚めて、作ったお菓子を学校の先生にもっていきたいって言うようになって。誰かに食べて欲しかったんですよね。持っていきたいっていう気持ちがあったから、学校に行けるようになって。スイーツに助けられたところが多々ある。」
学校から帰るとすぐにケーキを作り始め、ときには深夜まで作業し続けます。
【みずきちゃんの母】
「普段もうねえスイーツばっかり作ってるんですよ、それか携帯見てるか。テレビ見ない。あとは食べることかな、お菓子には目がないので」
そして、だんだんと自分の夢を表現するようになりました。
5年生の文集には… 将来の夢:「ケーキ屋さん」
工作の時間に作った粘土には… 「パティシエになる!」
夢に一歩近づくために、お母さんとみずきちゃんはケーキ店をオープンすることを決めました。
小さなお店にできた行列
【みずきちゃんの母・杉之原千里さん】
「ほんまに飛ばんようにしてや」
「よかった~飛んじゃうところやったやん」
【みずきちゃん】
「なあでかい。なあ汚い。」
「なあふざけんといて。ちゃんとしてほんまに。」
【みずきちゃんの母】
「さぁ明日頑張ろう!」
そして迎えたオープン当日―
「いらっしゃいませ~どうぞ~。パティシエ、中にいます~」
みずきちゃんのケーキを求めに開店早々、行列が。
予想を超える反響でみずきちゃんも大忙しです。
【訪れた客は…】
「美味しそうだったんで早く食べてみたいって思いました」
「可愛いですね。一生懸命やられてるのがね、すごいなって」
みずきちゃんがケーキを作る場所とお客さんの間は壁ではなく、すりガラスになっています。そこには、お母さんのある思いが込められています。
【みずきちゃんの母】
「あまり隠しすぎると次のステップに踏めなくなっちゃうんで。壁一枚ある事でこの子も安心して、むこうから声かけてもらっても絶対聞いているんで」
カウンターからは見えないみいちゃんの様子、お母さんが笑顔で教えてくれました。
【みずきちゃんの母】
「みぃちゃん、にこ~ってしてはるもん。お客さんから声かけられたら。」
お店が、誰かの希望と勇気になれば
お客さんの中には、子育てについて相談しに来る人もいます。
【お客さん】
「この子も障害があるので励まされました。教えてください。いいとことが見つけてあげられなくて」
【お母さん】
「なかなかわからなかったです。でも振り返ると小さい時からケーキのおもちゃで遊んでたんです。社会に合わせなくていいと思うんです」
【お客さん】
「また食べて元気もらおうな」
【みずきちゃんの母】
「みぃちゃん箱詰め手伝ってよ。あ~またや。」
――Q:みずきちゃんもう”終了“ですか?
「もう終了やねん。なんで?なんか作るとかお手伝いするとか、分かった。ちょっと休憩したいの?」
疲れたのか、作るのをやめてしまいました。まだまだ完璧なパティシエではありません。
220個のケーキは2時間で完売しました。
【みずきちゃんの母】
「なんか普通のケーキ屋さんをオープンしているんじゃなくって、この子の今後の活動がホンマに誰かの希望とか勇気になっているのを、今日もう1回改めて実感したっていう感じで。ホンマにやってよかったなって思います」
【みずきちゃんの母】
「今は本当に年齢が年齢なんで儲けようとか、店を大きくしようとか、そんな考えは今なくって、社会に出て行くための時間やと思ってるんで、無理なく楽しく」
これからもみずきちゃんのケーキが笑顔を届けます。