大阪の学校法人で起きた“消えた21億円”事件。
100年近い歴史をもつ名門・明浄学院が、21億円にのぼる巨額横領事件で揺れた。
不可解なカネの流れ、大阪地検特捜部の強制捜査、そして東証一部上場企業トップ逮捕。
“消えた21億円”事件の全容を解明するため、関西テレビは半年にわたる取材を続けてきた。
事件のきっかけとなった「大阪の一等地の取引」
明浄学院は、あべのハルカスに近い大阪市内の一等地で高校を運営していて、新校舎を建設する計画を進めていた。この費用を工面するため、おととし、不動産業者ピアグレースに高校の土地の半分を約31億円で売却する契約を結んだ。
ピアグレースから手付金として支払われたのが、問題の21億円だ。明浄学院の大橋美枝子元理事長は21億円全額を仲介業者に預け金として入金したという。しかし、その後、21億円の行方が分からなくなったのだ。
明浄学院は21億円が“消えた”ことで深刻な経営難となり、破産の恐れもある状態に陥った。理事の一人が刑事告発し、事件は世間の注目を集めることになった。
“消えた21億円”をとりまく疑惑の人物を直撃
関西テレビは、“消えた21億円”の行方を探るため、疑惑の人物たちを直撃取材した。
<2019年7月>
――Q:21億円の件、お伺いしてもよろしいですか?21億円を預け金として仲介業者に渡したのはどうしてか教えていただけないですか?
【明浄学院・大橋元理事長】
「・・・」
――Q:本当に少しだけでいいです。教えていただけないですか?
【明浄学院・大橋元理事長】
「・・・」
大橋元理事長は、ひたすら無言を貫くだけだった。
そこで、21億円を預かっているとされる仲介業者に話を聞くと…
<2019年7月>
――Q:21億は今も持っているということで間違いない?
【仲介業者サン企画・池上邦夫社長 2019年7月】
「間違いないですよ。ありますよ。それ以上ええやん、あるんやから。買主側から『お金を保護してください。絶対に渡したらあきませんよ』と言われている」
しかし、関係者の取材を進める中で、新たな事実が発覚した。“消えた21億円”は、仲介業者から大橋元理事長の知人のコンサルタント会社に渡っていたことがわかったのだ。
<2019年12月>
――Q:見返りの報酬は受け取っていませんか?
【コンサルタント会社】
「受け取っていません」
――Q:じゃあ21億円は何だと思ってたんですか?
【コンサルタント会社】
「検察に行ってください。報告してますから」
少しずつ明らかになってきた、“消えた21億円”の行方。
大阪地検特捜部は、土地購入の手付金21億円を支払った不動産業者ピアグレース社長が不自然なカネの流れに関与しているとみて捜査していた。
関西テレビは、逮捕前日にピアグレース社長を取材した。
<2019年12月>
――Q:検察からも任意で事情聴取されていると思うが、21億円がまわってきていることを否定はされていないんですか?
【ピアグレース・山下隆志社長】
「お話を検察当局としている。うちは被害者と考えていますので」
――Q:もし手元にお金が入っていたら横領の被疑者になりますが、そこについては否定されるんですか?
【ピアグレース・山下隆志社長】
「業務上横領はしてないですよ」
一斉逮捕 “消えた21億円”の行方は?
12月5日、大阪地検特捜部は業務上横領の疑いで関係者らの一斉逮捕に踏み切った。
逮捕されたのは、
明浄学院・大橋美枝子元理事長(61)
不動産業者ピアグレース・山下隆志社長(52)
仲介業者サン企画・池上邦夫社長(70)
大手不動産プレサンスコーポレーション子会社・小林佳樹元社長(54)ら。
“消えた21億円”の行方がついに浮かび上がったのだ。
特捜部などによると、大橋元理事長らは土地の売買契約を締結する段階から共謀し、21億円を横領した疑いが持たれている。
土地の手付金21億円は、プレサンス社からピアグレースを介して明浄学院に支払われた。その後、サン企画とコンサルタント会社を経由して、ピアグレース社長が経営する別の不動産会社に渡っていたとみられる。
“消えた21億円”の流れを整理すると、
プレサンス社
↓
ピアグレース
↓
明浄学院
↓
サン企画
↓
コンサルタント会社
↓
ピアグレース社長の関連会社
となる。
21億円は、ピアグレースからピアグレース社長の関連会社へ『還流』していたことになるのだ。
21億円の送金手続きに要した時間は、わずか1日。関係者全員が銀行で立ち会い、送金を済ませたという。
関係者によると、大橋元理事長は明浄学院の理事会を通さずに物事を決めていた。だからこそ、21億円という巨額資金を動かすことができた。ずさんな経営が横行していた実態が垣間見える。
なぜ21億円を『還流』させたのか?
関係者の取材を進めると、事件のカギとなる出来事が浮かび上がった。
横領事件の約1年前、大橋元理事長はピアグレース社長から18億円の借金をしていたのだ。大橋元理事長は「借金を返済するために送金した」と容疑を認めているという。
18億円もの借金の理由は、明浄学院の理事長の座につくため。当時の理事長に10億円を貸し付けた上、別の企業を介して5億円を明浄学院に寄付している。
要するに、5億円もの寄付を引っ張ってきたことで理事長にふさわしいとアピールし、理事長の座を手に入れたのだ。残りの3億円は、他の関係先に渡ったとみられる。
複雑な事件の構図…考えたのは誰なのか?
明浄学院がプレサンス社に売った土地は、大阪市内の一等地だ。明浄学院は21億円がなくなって深刻な経営難に陥り、破産の恐れがある。
関係者によると、売買された土地には抵当権が設定されていた。もし明浄学院が破産すれば土地を没収するという担保のようなものだ。そして、抵当権の権利を持っているのが、プレサンス社だというのだ。
土地の売買価格は約31億円だったが、もし明浄学院が破産した場合、プレサンス社は手付金21億円だけで土地を手に入れられる形になる。つまり、21億円が“消えた”ことで、明浄学院は窮地に陥り、プレサンス社は得をする形になったのだ。
大橋元理事長は土地売買のプロではない。こうした複雑な構図を考えることができただろうか?土地売買を専門としていた山下社長やプレサンス社がどのように関与していたのか、大阪地検特捜部の捜査が待たれる。
大手不動産トップ逮捕 事件は新たな展開へ
そして、12月17日、大阪地検特捜部は新たな共犯者の逮捕に踏み切った。
逮捕されたのは、大手不動産会社プレサンス社のトップ。
“消えた21億円”事件のさらなる『深層』が見えてきたのだ。