実は1000万人もの女性が「治療が必要」とされている知られざる健康問題があります。
それは「生理に伴う苦痛」。
これまでの「我慢すべき」という風潮が大きく変わってきている現状と、女性にもあまり知られていない「治療法」です。
社会現象ともなった「生理ちゃん」
「どーも、生理です」
「生理ちゃん、もう一カ月経ったの?」
現れたのは女性の生理を擬人化したキャラクター「生理ちゃん」。
生理の辛さや悩みを代弁し、厳しくも優しく女性によりそってくれます。
(生理ちゃん)
『そうですね、じゃあそろそろいつものを』
(女性)
「きゃ~待って待って」
漫画の次のコマでは、下腹部にパンチを入れる生理ちゃんが…
(生理ちゃん)
「ドゴッ!」
(女性)
「ギャー…、ぐうう生理痛~」
そして生理ちゃんは、採血するように血を抜き取っていきます。
(女性)
「ちょっと少な目にしといてね、先月貧血で倒れたんだから」
この漫画、「生理ちゃん」は男性の作者・小山健さん作で、発行部数が15万部を超える大ヒットとなっていて、手塚治虫文化賞の短編賞を受賞、さらに映画化もされるなど、社会現象を巻き起こしました。
「生理」をストレートに扱う流れ…百貨店にも
大阪梅田の百貨店に11月登場した「ミチカケ」。並んでいるのは、サプリや漢方、最先端の生理用品などです。
この売り場が注目しているのが「女性の生理周期」。周期によって変わる女性の体調に合わせた商品を取り扱い、店員が人には言いにくい「生理にまつわる悩み」などの相談にも乗ってくれます。
【大丸大阪梅田店婦人服担当 高橋知世さん】
「生理の部分は人によって様々ですし、そういったお悩みに対して、一言アドバイスができたり、そういった売り場を作ることで寄り添えるような環境を作れるのではないかと思っています」
社会でタブー視される「生理のつらさ」
社会で女性の生理への理解への動きがみられるものの、今なおタブー視されることも多く、そのつらさは依然、社会的にはみえづらくなっています。
街で話を聞いてみると…
【女性】
「(生理は)重かったりします、しんどくて寝込んだりも」
「来ないでほしい。仕事の時、立ち仕事なので凄くしんどいです」
「(しんどさを)わかってくれない人の方が多いんじゃないですか」
「我慢しかない。(周囲に)あまり言いづらいですよね」
「今ずっと妊娠してるので、生理が来なくて楽だなって思う時はあります」
女性の皆さんからは、辛い状況を訴える声が次々と…。
不調を抱えても「我慢する」…実は「危険」
毎月、妊娠しなかった結果として、子宮の内膜が出血を伴って剥がれ落ち、体外へ排出される生理。実は8割近くの女性が何らかの不調を抱えていることがわかっていますが、ほとんどの女性が取っている行動は「我慢」。
しかし、そこには大きな危険が潜んでいることが明らかに。
大阪府に住む会社員の伊藤優子さん(仮名)(32)。20代半ばから徐々に生理痛に苦しむようになったといいます。
【伊藤優子さん(仮名)(32)】
「本当に苦しくて、脂汗が出てくるんですね、ちょっと震える感じ。痛みをずっと抱えながら耐えるというのがすごい苦しかったです。(職場で)帰らさせてもらったこともあるんですが、でもそれも自分に負けたみたいに、勝手に思ってしまって」
さらに伊藤さんを苦しめたのは生理前の気持ちの変化でした。
【伊藤さん(仮名)】
「イライラして当たり散らすというか、精神的に病んでるのかなとか、自分は普通じゃないのかなとか、頭がおかしいのかなとか、ネガティブなことしか考えなくなってきて。そんな自分が嫌で」
日本では「生理は自然なもので、痛みは病気ではない」という考えが根付いています。しかし、この「認識」が今、変わってきているのです。
ひどい苦痛は…『治療が必要な病気』
生理のつらさから、婦人科を受診することにした伊藤さん。
そこで告げられたのは、月経困難症とPMS(月経前症候群)という「病名」でした。
月経困難症もPMSも生理に伴っておこる病気で、月経困難症は生理中に、PMSは生理が始まる3~10日前から起こる不調で、腹痛や頭痛、吐き気や眠気、イライラや憂鬱など、その症状は多岐にわたり、心と体両方に現れることもあります。
【伊藤さん(仮名)】
「すぐにPMSだねって軽く言ってくださって、あ、自分はそこまで変じゃないんだってちょっとポジティブになれました」
生理に伴う病気で治療が必要とされるのは、全国で約1000万人にものぼります。しかし治療を受けている女性はたった1割ほどにすぎません。
【田坂クリニック産婦人科・内科田坂慶一院長】
「どうしても『我慢しなさい』とか『治療するものではない』とか、以前からの考え方が強くて、積極的に治療をお受けになる人が少なかったのが実情です」
昔に比べ…現代女性の生理回数は「9倍」に
月経困難症の約半数に、実は不妊にもつながる子宮内膜症などの病気が隠れているといいます。子宮内膜症は近年急増していて、女性の10人に1人がかかっている病気です。
でもなぜ、増えているのか―?
そこに深く関係しているのが生理回数の増加です。
生理は妊娠中や授乳中は止まるため、多くの子どもを出産することが多かった昔の女性は一生涯で生理が約50回ほどでした。
しかしライフスタイルの変化などで、現代女性は、初潮の低年齢化や出産回数が減少したため、生理の回数は約450回に。
つまり、生理に伴う病気のリスクも9倍となっているのです。
【田坂クリニック産婦人科・内科田坂慶一院長】
「長い目でみると、月経はあまり体にとっては有益なものではありません。最近の考え方からすると、月経は内膜症とか、その他の事を考えると、できるだけ少なくて場合によっては無い方がいい」
男性管理職も…正しい知識を身に着ける必要性
生理に伴う症状による経済的損失は、労働力や医療費など合わせて、約7000億円にも。そんな中、国は5年前から生産性や業績向上を目的に、従業員の健康管理に取り組む「健康経営」を推進しています。
中でも、企業が最も高い関心を寄せているのが、「女性の健康問題への対策」です。
女性の健康問題に取り組むNPO法人は企業のニーズにあわせて、男性管理職を対象に女性特有の問題に関する研修を行っています。
【参加した男性管理職】
「やっぱり知らないことが多かった」
「生産性がすごい金額損失していることがわかったので、会社としても気をつけてパフォーマンスを上げていくことにつなげていけたら」
「まだ認識が足らないところもあるので、いかにどう普及していくかが課題になってくるのかなと考えています」
最近、こういった男性管理職向けの研修を依頼する企業はどんどん増えてきていると言います。
【NPO法人女性の健康とメノポーズ協会 松原爽さん】
「知る機会がなかったというのが日本においては大きな問題かなと思います。正しい知識をまずは身に着けていただくことが男女ともに必要かと思います」
治療薬としての「ピル」…日本では抵抗も?
会社員の伊藤さんも、職場ではなかなか言いづらいこともあり、相談相手は遠方に住む母親でした。
月経困難症の治療薬として、避妊薬と同じ成分のピルを処方された伊藤さん。当初、母からは服用を反対されたと言います。
【伊藤さんの母】
「はじめ聞いた時、エッ…て思いました。周りにもそういう人いなかったし、ピルを飲んでるなんて言う人はね。私は全然軽かったので、えっていう感じ。そんなんなん、みたいな…」
【伊藤さん(仮名)(32)】
「リスクは大丈夫なの?男遊び?大丈夫?みたいな、そういう風に言われた時は結構ショックを受けてちょっと傷つきました」
ピルは排卵を抑制して、月経の量や痛みを軽減し、コントロールすることができます。また、月経回数自体を減らす新しい薬もでてきています。
【田坂クリニック産婦人科・内科田坂慶一院長】
「ピルというと怖いモノじゃないかという考えが、依然日本では多いですが、もっとも安全な薬の一つに入ります」
副作用として血栓症などの恐れがあげられますが、その確率は極めて低くなっています。海外では多くの女性が使用していますが、日本で使用している人は数%にとどまります。
『我慢する必要がない』
【田坂クリニック産婦人科・内科田坂慶一院長】
「(ピルは)月経困難症も軽減しますし、場合によって月経前症候群(PMS)も楽になる、卵巣がんの頻度も減りますし、子宮内膜症もある程度予防することができます。基本的には死亡率を12%減らすこともできることが分かっている。今はちゃんとした疾患の診断基準と治療法が確立されていて、そういう疾患は我慢する必要がない」
ひとりで症状に悩み苦しんでいた伊藤さん、理解が広まることで、苦しむ人が減ってほしいと話します。
【伊藤さん(仮名)(32)】
「もっと早くに出会っておけば、もっと早くに使っておけばよかったなって思ったので。よりポジティブに症状もなくなって、仕事に励めるようになったので、もっと色んなことに挑戦していきたいなと思ってます」
正しい知識を持って、対応すること、また周囲のちょっとした理解で、女性たちの仕事のパフォーマンスや希望するライフプランの実現につながります。