大阪市天王寺区にある、「クリフム夫律子マタニティクリニック」
ここは、妊婦検診も分娩もしない“出生前診断専門”のクリニックです。
院長の夫律子医師がここで行う “最先端の出生前診断”を受けたいと、日本全国から日々、多くの妊婦が訪れているのです。
徹底的に検査…すぐに結果も
双子を妊娠中の女性と夫。
【妻が双子を妊娠している男性】
「片一方は全然普通で、もう一人のほうにむくみがあるって」
妊婦検診で「“首のむくみ”」が赤ちゃんに見つかりました。このむくみが大きいとダウン症などの可能性が高くなります。夫婦は「もっと詳しく知りたい」と、このクリニックを訪れました。
【双子を妊娠している女性】
「もし何かあるなら生まれるまでの間に準備とか色々調べたりしたいなって。検査の結果とか考えたらドキドキしますね、緊張です。手も汗びっしょりです」
夫先生の診察は最新のエコーを駆使した“人間ドック”ならぬ“胎児ドック”という名の超音波検査から始まります。
【夫律子 医師】
「28グラムと26グラムですね~。Bちゃんむくみ分厚いけどAちゃんもちょっとある・・・」
一般的な超音波検査とちがって、脳や骨、内臓から血管まで、数センチほどしかない赤ちゃんを徹底的に調べ、たくさんの病気や体の異常を見つけるのです。
【夫律子 医師】
「私も年々診る所が増えてきてるので、例えば本当に細かい目の中の硝子体の動脈とか、そういうことまで、小さい赤ちゃんで分かるような時代になってきた」
約30分の超音波検査の後、首のむくみの大きさや母親の年齢など様々な項目を組み合わせることで、染色体異常の確率を出すことが出来ます。
【夫律子 医師】
「ダウン症の確立がBちゃんが4分の1って、むくみがミリ数が大きいので4分の1と確率が高くでました」
この結果を受けて、今里さんたちはさらに“絨毛検査”に進むことを決めました。
【夫律子 医師】
「明日にはダウン症かどうか結果わかるので、来てもらえれば」
通常2、3週間待たなければいけない絨毛検査の結果も、ここのクリニックでは“すぐ結果を知りたい”という親のため、世界最速の5時間で結果が出せるようになっています。
「高い確率でダウン症」と言われた夫婦にその結果が告げられます。
お腹の中の赤ちゃんが「ダウン症の確率4分の1」と診断された今里さん夫婦。
「もし異常があれば生まれる前に準備がしたい」と絨毛検査を受け、
その結果が告げられます。
【夫律子 医師】
「AちゃんBちゃんともに異常なしで…」
2006年に日本で初めての出生前診断専門のクリニックを始めた夫先生。大きく進歩する検査には新たな可能性があるといいます。
【夫律子 医師】
「クリフムは、世界の最先端をいっている。まだまだ試行錯誤というか道の途中だけど、診断を確立して、将来的には遺伝子治療とか予防につなげていきたい」
手軽になった「出生前診断」…課題も
“診断”だけでなく、“治療”も見えてきている出生前診断。
同時に医学の進歩は診断を“手軽”にもしています・・・
6年前に始まった “採血だけで分かる”新型出生前診断、通称NIPT。
従来の「お腹に針を刺す絨毛検査」などと違い、流産を引き起こす危険性がなく、また感度も約99%(妊婦が40歳の場合)と高いのが特長です。
日本産科婦人科学会は、カウンセリング体制などが整った、大規模な認可施設のみが行うとしていますが、認可を受けていないにもかかわらず、検査を行う施設が増えています。
この日、神奈川県から夫先生のクリニックにやってきた夫婦は、“無認可”のクリニックで新型出生前診断を受けました。
――Q:検査を受けたときは?
【無認可施設で新型出生前診断を受けた夫婦】
「最初に簡単な説明があって、一週間後に結果聞きに来てくださいって言われて血液をただ取られて終わりという感じでしたね」
結果は“陽性”。染色体異常があると診断されました。
しかし…
「産婦人科とか小児科の先生じゃないので、赤ちゃんに対する知識もそこまでなくて、どこまでいっても確定的な話もないし、合ってるのかな、とか不安がますます募って」
満足のいく説明をしてもらうことが出来ず、夫先生のクリニックで診察を受けなおしたところ、結果は正反対の“陰性”でした。
「本当に誤ったとか早まった選択しないで良かったねって」
新型出生前診断の場合、妊婦の年齢によって、正しい検査結果が出る確率が大きく変わり、陽性と出ても実は異常がない“偽陽性”が出る可能性があるのです。
無認可施設の場合、美容外科や内科など、専門外の医師が検査を行う場合がほとんどで、妊婦への説明が不十分となってしまうのです。
「そこまで確立されてない試験方法であればむしろやらないでほしいなというか、陽性の疑いって出たら、絶対お母さん心配になると思うので、それで(赤ちゃんを)あきらめてしまうお母さんが増えたら本当に悲しいことだとおもうので・・・」
こうした無認可施設が3年前は1ヵ所しかありませんでしたが、現在少なくとも55ヵ所と急増しています。 厚生労働省は「妊婦に不安が広がりかねない」として、ルール作りを徹底していますが、先行きは見えていません。
夫婦の葛藤に…寄り添う医師
“命の選別”ともいわれる出生前診断をめぐって、国が揺れるなか、夫先生はある取り組みを行っています。
「こどもがダウン症で生まれたらお母さん働けないとか一生兄弟が面倒見ないといけないとか、いくらお金かかるの?はっきりいって聞くかた多いと思うけど、育て始めて気づきますよね以外とお金かからないって」
この日クリニックに集まったのは、夫先生がかつて診察をした10組の家族。
出生前診断で“ダウン症”と分かったうえで生む選択をした人たちです。
同じ境遇の家族たちが情報共有できる場を作ろうと、夫先生が会を開きました。
参加した夫婦は8年前、男の子を妊娠。
夫先生のクリニックで柔毛検査を受けた結果、ダウン症であることが分かったのです。
【子供がダウン症と診断された男性】
「ご家族でよく考えてくださいねっていわれた。要は、生み育てるのか、中絶するのか決めてくださいねって。そういうことになるんだなっていうのをそのとき実感した。
【子供がダウン症と診断された女性】
「生まれてこれるものを自分でなんとかしようというのはまだその時は全然、生まれてこれるねんなって」
二人は、兄弟に影響があるのではと悩み、お腹の子をあきらめることを決断。しかし、中絶の処置が始まった日の夜、女性は気持ちを整理できず、夫先生にメールを送りました。
=女性が送ったメール=
『どうしても心がついていかず、実はこの期に及んでもまだあきらめきれずメールさせていただいています。こんな情けない親のことを赤ちゃんは許してくれるのでしょうか。生まれてくる力のある赤ちゃんをこんな時期にお腹から出してしまおうとするひどい母親を』
迷う女性を決心させたのは、夫先生から届いた返信メールでした。
=夫医師からの返信メール=
『決してママは酷くなんかありません。子供たちのことを一生懸命考える素晴らしいママです。お腹の赤ちゃんが一番それを知っています。でもママ、苦しいのでしたら、今日の処置は見送りますか』
【子供がダウン症と診断された女性】
「やめるやめるっていう感じ。やめてもいいんだって。私のなかで覚悟を決めるという流れではなかったので、分かった分かったていう状態で心がついていってなかったので」
現在、男の子は元気いっぱいの小学2年生です。
「(ダウン症は)割とおとなしいって言われることもあるけど全く当てはまらないですね」
【夫医師】
「中絶が悪いとは思わない。決定するまでの過程が大事だと思っているので。あかちゃんの姿を一緒に見て、今、お腹の中で生きてる赤ちゃんの話なんだよってことをリアルにちゃんと伝える。毎日ドラマです。今日もドラマがいっぱいでした」
“命の選択”ともいわれる出生前診断の最前線で、夫婦の葛藤に、きょうも夫先生は寄り添っています。